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[夜明け前、灯りの無い場所で何かに蹴躓き、倒れこむ。
それは糸が切れた人形の様でもあり、そのまま気を失う。
目覚める頃には、身体の節々が痛んで]
…なんだか普段と逆で、変な感じだなぁ。
[普段なら痛みを訴えるのは、身体よりも心なのに。
心臓に手を当てて、穏やかな間延びした声で呟く。]
ラウルも綺麗……する?
[近くの枝できょろきょろと周囲を見回すラウルに問いかけるが、首をふるりと横に振られ。柔らかな布を使って身体を擦りながら]
……うう、消え、ない……
[手足にこびり付いた穢れはなかなか落ちず、やがて擦るたびに痛みはじめ、うぅ、と呻き、顔を顰めた]
……あのバカ、ちゃんと頭冷やしてんだろうね……?
[ぽつり、呟く。声のトーンも、少し、低いかも知れない。
しばしそうして睨むような目を樹に向けていたものの。
不意に聞こえた微かな水音に、ゆるく瞬く]
……ん……なんだい?
[目覚めたときにいたのは、
硬い床ではなく柔らかな寝台の上。
移動させた当人の姿は見つからず、
知らず、下がる眉を見るものもいなかった]
[ 羽根を大きく広げる。]
―――――…っぅ…。
[ 痛みが走る。
昨夜、術を使いすぎたせいだろうか。
まだ完全に力が戻っていなかった。]
まだ動けませんね…。
[ 誰が封じられたかも気になる。
かといって、誰かに会うのも危険である。
もう一度、目を閉じた。]
…馬鹿って言うなよ。
[アヤメの言葉に返すのは、苦い声。
水鏡を通して、その睨むような目を見ると細く息を吐いて]
…嫌われたな。
[小さく口の中で呟いた。]
……ラウル?
[耳に届いたのは、聞き慣れた相棒の声。
そして、ラウルがいる、という事は]
オーフェン?
いるのかい?
[周囲を見回しつつ、そう、と声をかける]
[奇妙に穏やかな心地の侭、顔や服に付いた草を払えばまた歩き出す。
背に出した侭、仕舞われることのない羽根は変わらず揺れる。
羽根の開く音、小さく零れた声を聞いた気がして足を進める]
あ…。ロザリーちゃんだ。
やっほー。
[まるで何も起きていないかの様に笑みを浮かべ、常のような挨拶。ひらひらと手を振った]
うん、いる……よ
……その声、アヤメ、さん?
[呼びかけに答えた後、自分の格好に気づいてわたわたと慌てる。激しい水音が辺りに響く]
…頭が冷えてるのかどうかは良くわかんないや。
少なくとも…
[ゆると、根元の黒いまだ斑な翼を動かして]
まだ、戻ってない。
[……そして今、
少女は背に異形の銀を、
手に金のひかりを携え、森の中に在った]
やはり―― いない。
[独りごちて、顔を上げた]
...ethisagas.
[揺らめくように舞うひかりは、
声を受け、いつかのように漂っていく]
−ホルスト家−
[戸惑う様子で出てきた女主人に、淡々とロザリンドが虚に襲われた事を告げる。]
………行方はわからない。
堕天尸を捕まえれば、何か手掛かりがあるかもしれん。
……失礼する。
[動揺する姿に背を向け、玄関を出る。
いつもの様に近くの木を足場に飛び立とうとして、何か光るものが視界を掠めた。]
……なんだ?
[四翼を交互に羽ばたかせ、目を眇める。
以前ロザリンドの姿を見かけた事のあるベランダに、硝子の欠片が光っていた。]
[ 聞こえた声に強張った。]
――――――…!!
[ 警戒しようと羽根を広げる。
だが、声をかけるときょとんと瞬く。]
………どうも、カルロス殿。
[ とりあえず、様子を見てみることにした。]
[返る声と、水音にきょとり、と瞬く]
って、ちょっと、落ち着きなってば!
[周囲を見回し、その姿を捉えたなら、ふわりとそちらへ]
わ、だめ……っ
[近づく足音にパニックに陥り、動きの鈍い足はもつれ、身体はばしゃんと派手な音を立てて湖の中へ。身体に続くように、白い翼がゆっくりと水の中へ引き込まれていく]
[水音がしたので、水鏡からなんとなく視線を外した。
暇になったので、座り込んで羽根を前へと回して倒し、黒い羽根をぷちぷち千切り始めた。]
ダメ、じゃないだろっ!
っとに、何してんだい!
[声をかけたのが原因とはさすがに、思わず。
自分が濡れるのも構わずに、湖に沈んで行く身体を救い上げようと手を伸ばす。
運良くつかめたなら、そのまま引き上げようと]
なんだか、久し振りに会った気がするねぇ。
美人さんに会えない日々は淋しかったわけですが。
お隣、ご一緒しても宜しいですか?
[軽薄な口調。上辺だけの笑み。どこか空白さの目立つ、態度。
広げられた羽根に視線を流して、]
それとも何処かにお出かけの予定が御ありでした?
……ぅ……?
[アヤメの伸ばした手が腕にかかれば、そのままずるりと関節が伸びるような感触が残る。顔を上げると、焦点の定まらない瞳は、アヤメの顔の周辺を彷徨い。岸まで引き上げられるまでに、胸から腹にかけて皮膚を移植したような大きな傷跡が見えるだろうか]
………何かあったか。
[奇妙な勘に、躊躇う事なくベランダへと舞い降りる。
硝子の欠片を拾おうと歩み寄り、部屋から感じた気配に総毛立った。]
――――っ、これは…!
[術を使えない代わりに耐性のある身でも判る、強い虚の気配。
本能に近い段階で理解する。]
……ただの人間がこの中で普通に過ごせるはずがないな。
随分と手の込んだ真似をしてくれた事だ。
[容易く騙された事に舌打ちし、ベランダの手すりを蹴り飛び立つ。紫紺の翼が大きな音を立てて空気を打った。]
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