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―東殿―
[あれから少し後、青年は台所に入り湯を沸かし透明なポットに缶から取り出した玉を一粒入れ、静かに花開いていくのを見ていた。硬く蕾む花が幾重もの花びらに変わる分だけ優しい香りが広がり、眼鏡の奥の眼差しが和らぐ]
そうですね。影響が…
出ているようなら、皆、苦労するでしょう。
[しかし竜王の封印を強めたのもまた竜王たちであり。
…なんとも頭の痛くなることだった。
王の声が聞こえてきたら、思わず罵りの言葉が出そうなほどに。]
お願いします、老君。
私も側近殿を探すのを手伝いましょう。
[それでもまずは、彼の竜の姿を見送った。]
―東殿―
[廊下を歩きながら、目を閉じて頭の中で声を紡ぐ。
同じ雷の属性を強く持つ王の感覚を辿ろうと、神経を研ぎ澄ませる。
きっと、あの中で王は暴れる周りとそれを宥める周りを気にせず(どちらかというと宥める方なのだろうが)、ひと段落すれば瞑想を始めるのだろう。
だから、きっと声も聞こえると思ったのだけれど――]
……聞こえないですね。
かといって、死ぬとかそういうわけでも無さそうですが…
[初めての感覚に戸惑い、足を止める。
眼鏡をくいとあげ、目を閉じてもう一度繋ごうとするけれど]
…無理ですね。
[何が起きているのだろうと、不安が頭を擡げる。]
[情報も手に入れたのだからと、場を辞す旨を伝え、廊下へ。
外へ出て、小さく息を吐いた。]
―― 心配しているでしょうね。
[双子の仔らを思い出し、少し口元に笑みが浮かんだ。
まわりを見回す。
離れた位置に人影があった。]
[ふと、良い匂いが漂い。
何も食べていなかったと食堂の扉に手をかけて開いた所で、廊下に人影が見えて小さく会釈をした。
扉の内側からは、赤い髪の少女が廊下に視線を向けたまま扉を開くのが見える事になる。
とりあえず見えた人影に声を掛ける。]
ええと…月闇の、オトフリート=カルク殿?
[一口味見した所で近づく気配にカップを更に幾つか取り出し、花の揺れるポットと自分の分のカップと共に盆に乗せる。そうして盆を置いたまま、歩んで扉を開けた]
ちょうどお茶が入ったところです。
いかがですか、エミーリェ殿。…オトフリート殿。
[電撃竜と、少し離れていた月闇竜にも声を掛ける]
―広間―
[ひとしきり、聞いた後でティルが出て行ったのを見てとり。]
ああ、俺も俺も。爺さま何処だ?
[同じように広間を出て、あちこち探し回ったのだが見当たらない。
ティルあたりは見つけただろうかと、ちょこまか動く風の気配を感じとり。たどり着いたのは西の結界。
そこに座り込んでいるティルと、ユーディットを見つけ、怪訝そうな顔で近づいて。]
ティル?それに時空の。
[事の顛末語るのは、はたしてどちらの竜だったか。]
【未確】 雷撃竜 ミリィ
えぇ。そのつもりです。
あぁ少しお話を伺いたいのですけれど良いでしょうか?
[首を傾げながら、開いた扉の中を見る。
丁度声がかかりぴしと眼鏡の中央を人差し指で押し上げた。]
アーベル殿。
それはとても嬉しいです、是非に。
はい。
ですがこの事態についてでしたら、私も後から聞いただけですので……一番詳しいのは、老君――ザムエル殿だと思うのですけれど。
[困ったように微笑んでから、開かれた扉から出てくるひとを見る。]
アーベル殿。
ありがとうございます、いただきます。
とても良いかおりですね。
[微笑んで、礼を告げる。]
―西殿・結界前―
[とにかく理由は分からないが、頼みの天竜はこの中。
当然話など出来るわけもなく。
さてそれも心配だが、それより気にかかるのは、無論自身の故郷生命の海。
ここでギュンターを待っていたり、ギュンターの代わりの命令系統を待っていたら、一向に帰れない気配がちらと頭をもたげて。
近くを通りかかった天竜の一人を捕まえ、ついでにそこに居たティルとユーディットに聞こえるように。]
悪い、何時帰れるか分かんねぇのはちと困るんで。
一足先に海の様子は見に帰るぜ。
ああ安心しろ、姐さんこっちに居るし、向こうの様子見てくればすぐ戻る。めんどくさがって逃げたりはしねぇよ。
[へらとどこまで本気か分からない笑みをうかべながら。
行きにも使った移動手段。時空竜ほど自由には使えない不安定な"転移"を使い、その場からフッと*消えた*]
―食堂―
[電撃竜が眼鏡を押し上げる仕草に頷いて、開けた扉の外に立ち二人を中へと促した]
お話されるなら確かにちょうど良かったですね。
……また大地殿と新たな話があったのでしょうか。
[前半を電撃竜、後半を月闇竜に向けて話しかけながら二人を先に席へ導き、青年は盆を運び給仕しつつ耳を傾ける]
[茶を貰い、その香りと暖かさに少しだけ顔の筋肉を緩めながら、ふたりを見た。
背筋を伸ばしたまま、じっと見て]
今、どういう状況なのかを教えて頂けたら助かります。
お恥ずかしい話ですが、私エミーリェは西殿の結界が張られた後の事を、何も知らなくて。
…雷竜王の「声」が聞こえず、困惑しております。
[声の張りは不安を感じさせないのは、とってきた年齢ゆえか。]
―→食堂―
いえ、老君に二度手間をとらせてしまったのかもしれません。
お話をされているようでしたから何をと聞いたのです。
[アーベルの問いに、微笑み。
部屋の中へ促され、感謝と共に中に入った。
茶は口に含むともっと香り高く、美味しいですと告げて。]
…王の声は、聞こえないと思います。
とても申し上げにくいことですが……その、どこかの王が暴れられていたようで。
影響が出てしまうので、内部で結界を強くしたのだとか。
エミーリェ殿に、深くお詫びいたします。
[原因の一人が我が王ですと、それは自供したようなもので。]
[ 道中誰とも擦れ違わなかったのは、間が悪かったのであろう。
広間へと戻ろうとするも気配は薄く、影の首を傾がせることとなった。その代わり引き寄せられるように赴いたのは、対の一の存在ゆえか、漂う花の香か。]
―― 広間 ――
臍なんて曲げてません。
[焔竜は、やっぱり具合が悪そうだわ、あわや、仔竜達と一緒に子守役に押し付けられそうになるわ]
ただちょっと疲れて…[主に精神的に、と続けようとした目の前に飴玉の入った袋が差し出される]…わあ!これ、俺にですか?ありがとうございます、ザムエルさん!
[途端に満面の笑みに変わり、きらきらと目を輝かせる様子は、仔竜扱いされても仕方ないと周囲に映ったことだろう]
[二人の分の給仕し、茶に砂糖を入れない代わりに花の砂糖漬けの器を置いてから青年もカップを手に席へ座った。
もう一口飲んで表情を少し緩め、エミーリェの問いにどう答えればいいものかと口を開きあぐねていた]
そうですね…何から話せばいいのか。
[口火を切った月闇竜の謝罪に、何とも言えず瞼を伏せる。此方の王は手出ししていないが傍観している、つまりは見ているだけである可能性が否定できない。
それには極力触れずに、青年が広間で見聞きし刻んだ事を順序立てて伝える事に勤めた]
[広間にて、現状分かっていることについて纏め終えたところで、
ブリジットは一度個室へと戻っていた]
基礎術式の変換が……それと、応用変換式が、加わるから……
[手帳と頭の中の知識を合わせ、結界の解読を進めていく。
だが、ずっと結界の調査・分析ばかりで、さすがに疲労も溜まったようで]
……んん。
少し喉、渇きましたね。
[ほぅと息を零すと、軽く身体を伸ばして。
何か水分でも取ろうと、食堂へと向かった――]
―個室→食堂前―
[月闇の言葉には、ふるふると頭を横に振り]
いえ、王がそのように判断したのであればそれが最善なのでしょう。
オトフリート殿が謝る事ではありませんから、謝らないで下さい?
[暖かい茶を口に含み、こくりと咽を動かす。
目を閉じ、少し口元に笑みを浮かべて]
あぁ――美味しい。
[それから目を向け、アーベルの言葉に耳を集中させる。
聞きながら、オトフリートに釣られる様に扉を見た。]
―― 広間 ――
[すっかり疲れを忘れ去った後は、広間で交わされる情報を記憶に留め、自分の持つ情報…陽竜の仔を焔竜が調べたその結果などを伝える。メモリーの封印を解除した今、全ての情報は機鋼の砦の中のメインメモリーを通して兄達と共有され、彼等は必要であれば助言をしてくるのだろうけれど、とりあえず末弟の判断に任せるつもりなのか、最初の長兄の忠告以降、接続してくる様子はなかった]
[ 影が訪れたのは丁度、話が一段落ついた頃であったらしい。
此方に気付いた月闇の竜に一礼をして、悩むような素振りを見せた後、ノーラは中へと足を踏み入れる。しかし椅子に腰を下ろす事はなく、扉近くの壁際佇んだ。]
……、…進展がありました。
よくない方向に、ではありますが。
[ 静かに、そう告げる。]
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