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ん、ああ、お疲れ。
……俺は、少し気晴らしをしてから、戻る。
[ギルバートにはこう返して、城へと戻る背を見送り。
一人きりになると、土の盛り上がりへと蒼氷を向ける]
……は。
ほんとに、最悪だな。
[口をつくのは悪態]
最悪の……当てつけだ。
[死した『番人』に、そんな意図はなかろうとも。
彼に齎された死は、自身には酷い当てつけとも思えていた。
吐き捨てるよに言った後、踵を返す。
向かうは城の外、泉の畔。
取り巻く緋を揺らしつつ、その傍らに膝を突き、左腕を覆う包帯を解いて。
今は空を映す水の内へと、紅に染まる部分を沈めた]
……っつ……。
[冷たさに、思わず短い声が上がる。
微かな痺れめいたものを感じながらもそこを覆う紅を落とし、引き上げた]
……結局、道化でいろ、という事なんだろ?
[問うような呟き。
蒼氷は、紅の下から現れたものへと向く]
護れぬ護り手として、苦しめと。
『いつか』のように。
[『いつか』が、いつであるかは定かではない。
しかし、それは霞の奥に確りとある、記憶]
……大した執念だよ……まったく。
うっとおしいったらありゃしない……。
[低く吐き捨てながら、紅で埋め尽くそうとしていたもの──鮮やか過ぎるほどに紅い、蛇の如き印を睨む。
しばしの空白を経て、ポケットに押し込んでおいた新しい包帯で、紅蛇を覆い隠した]
―玄関ロビー―
[こちらを見るネリーの視線を一瞬、きょとんと見返した後]
[ああ、と思い出し]
鏡…は私に心当たりが。
そうでした。
シャーロットさんと見に行く約束をしていたんでした。
[こんな時にどうでしょうか…と呟き]
[ちらり]
[厭わしげに薄く広く床に残る血痕を一瞥]
[そこから距離を取るように、少し下がる。]
[思考は長くは続かず、瞼は再び紅紫を解放する。ソファーに座る体勢はそのままに、顔を膝に乗せて視線を窓へと向けた。薄いカーテン越しに緋色が瞳に飛び込んでくる]
…白い花…赤い花…。
白は天咲く喜華<よろこびか>、赤は地を這う悲華<かなしみか>。
……ここには悲しみしかないのかしら。
[呟きは微かなもの。瞳は滅紫へと変じ、窓越しの何かを見つめていた]
[しばらくそうしていると、料理の匂いを纏わせキャロルが広間へとやってくる。場所をとの言葉には何も返さず、視線は窓へと向いたまま]
……緋色しか見えないわ。
…ううん、一つだけ、白が見える、かしら。
[問いに答える声は無感情。呟きにも似たもので、顔を背ける形になっている状態でキャロルにまで聞こえたかは定かでは無い]
[滅紫は濃く、瞳の焦点は合っていなかった]
とりあえず広間に行ってみますよ。
もしかしたらシャーロットさんが居るかも知れないし。
[敢えてきっぱりした物言いになったのは、ここを早く立ち去りたかったからかも知れない。]
―広間―
[扉を開けると、中に居たのは探していたシャーロットと、豪奢な金髪の女性。]
[そちらとは言葉を交わした事はなく、名前も何と言っていたのか憶えが無く、]
おはようございます。
大変なことになったようですね。
[結局当たり障りの無い挨拶からはじめた。]
─広間─
[呟きには疑問の声が返っただろうか。仮にあったとしても、次の瞬間には滅紫は紅紫へと戻り、問いには要領を得ない疑問符を浮かべるのであるが]
[キャロルへと視線を向けた時、丁度ナサニエルが広間へと入って来た]
おはよ。
…その様子だと話は聞いたみたいね。
[膝から顔を上げて背もたれへと体重をかける。短く、溜息が漏れた]
ええ。
もう埋葬された後でしたけれど、話はネリーさんから。
酷い有様だったとか……
[鼻に残る臭気を思い起こし、眉を顰めた。]
ところでどうしますか。
昨日の、鏡のことですが。
こんな時ですけれど、今から行って見ますか?
[わざと軽い口調で話題を振ったのは、深刻な空気を変えたかったから。]
[溜息をつくシャーロットを気遣う柔らかい視線で見下ろした。]
…終焉の使者の宣戦布告。
与太話じゃないと言う証拠。
彼が言っていたことは事実だったと言うことね。
[言いながら再び背もたれから身を離し、ぎゅうと膝を抱える]
ここに居る誰かが終焉の使徒。
終わりを齎すと言うのであれば、番人のようなことはまだ続くはず。
……私達はまだ、終わりには辿り着いていないもの。
[膝を抱える腕に力が籠る。表情も自然と厳しいものへと変化していた]
[軽めの口調のナサニエルをふと見上げる]
ああ…うん。
少し、気を紛らわしたいかも。
行ってみようかしら。
[警戒が無いわけでは無い。けれど、この緊迫した空気から少し逃げたかった]
で、その心当たりってどこ?
[腕から膝を解放し、床に足を付ける]
白?
[うつくしい緋の色の中、一輪の白が咲く様を想像し、女は眉を潜めた]
[言の葉は続く事無く、くれないの内にスープを運び]
[扉の開く気配に視線を上げた]
おはようございます。
具合はよろしくなったのですね。名を知らぬ御方。
[ひそりとした声で挨拶を返し、食事へ戻る]
[チリン]
ああ。
上の階の部屋です。かなり色々なものがあるようでしたので。
[膝を下ろした少女に少しホッとした様子]
[挨拶を返した金髪の女性に]
ええ、お陰様で。
ええと…あなたは…
[と、名を促す間を]
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