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[なんだか気になって、わたしは薬師さんのもとを離れ、ウェンデルさんの後を追う。]
あ、あの!
[広間を出て廊下をしばらく進み、厨房に入った彼に、思い切って声をかけた。]
物置の方は、この間入った時は、ピアノしか見てなかったが。
相当色々、雑多にあるようだったぞ。
[返しつつ。
同じものに気づいたらしいゼルギウスの様子に、軽く肩を竦めた]
人狼は、本当に殺すしかないんですか?
人間の姿をしてるなら、話し合えたり、しないんでしょうか。
あの…
[ふと、ウェンデルさんの水を飲む様子が、何かおかしいような気がして]
大丈夫、ですか?
[声が掛かり][身を竦ませ]
…あ、ああ。
おはようございます。
[小さく息を整え][墓守に返事を]
[少しの間]
あの。
…もしかして、また何かあったんですか。
[騒ぎの因は未だ知らず]
[距離を保ったまま][尋ねる]
[少女と交わる翠は翳りを一際濃くしてゆく。
何かをその奥に押し込むよに]
そうだな。
俺も今はあんまり言いたくない。
[立ち上がる気配に、ようやく翠が戻される。
広間を出てゆく後姿を追いかけて。溜息]
…けほ。
[見えない何かを流し込むように水を呷ったために、咳が出た。
背後からのベアトリーチェの声に、眼を見開いて振り返る]
………『人狼は滅すべし』。
それが、神の教えです。
[それが全てであり、絶対の理だというように、ウェンデルは言う]
いえ。大丈夫です。ご心配なく。
[安堵させるよりは、拒否するように]
[ゲルダの立ち去る気配に、広間に入り口を見やり。
ため息をつく家主に、暗き翠を向ける]
……家主殿。
大丈夫か?
[問いは短く。
声にはある意味珍しい、案ずるような響き]
[離れ行くベアトリーチェを抑えること無く解放して]
[ウェンデルを追いかける背中に真紅を向けた]
雑多にあるなら、何かしら使えるものがある可能性は高いだろうかね。
俺も、用意しておくとしよう。
[それが何を意味するのか]
[察せる者は察せることだろう]
[アーベルの胸中は読めなかったが、どこか緊張しているような身の強張りを感じ、そこからは足を動かさないまま。
尋ねられた事には沈黙し。
暫く後、口にした言葉は。]
ギュン爺様……ギュンター団長が、死んだ。
人狼に殺されたらしい。
[菫の瞳は閉じられ、搾り出すように紡がれた。]
……経験者として、言わせてもらうなら。
その気になれば、何でも使えるさ……。
[用意する、というゼルギウスの言葉に。
刹那、胸元に手を触れてから、こう返す]
楽しい備えじゃないが、しておいた方がいいだろうな。
[向ける相手が、何であるにせよ、とは。
今は、言わずに]
…あなたは、なんとも思わないの?
わたしはよそ者だけど、あなたは違う。
ここの人たちとは、知り合いだったり、お友達だったりするんでしょ?
そんな人たちと殺し合いになるかも知れないんだよ…。
は…
[殺された]
[表情が強張り][動かず]
そ、んな。
どうして。
昨日までは、此処にいたんでしょう…
[瞳は揺れ][相手すら直視できず]
…居るってのか?
本当に、この中に。
[人狼が]
[低く][抑えた声]
ん。
[生返事。答えてから誰の声かを知るようで]
ああ、大丈夫。
やるべきことは、するよ。
[翳った翠は何かを奥へと沈めこんで。唇の端を上げる]
使えるものは何でも使え、か。
まあ、持ち込んだものも活用すれば取れる手段も増えるかね。
[ゼルギウスの言葉にピンときたか、そちらを見やり。
続いた同居人の声に、睫を伏せて考え込む]
ご高説ありがたく。
けど、荒事は専らマテウスに任せてたもんでね。
その気になっても使えるとは限らない。
扱い慣れた物を使うのが一番だろう。
[言葉を紡ぐ間、表情に色は無く]
[足に力を入れるとソファーから立ちあがった]
[けれど仕事道具は手に持たず、厨房へと歩を進めようとする]
昨日の片付けものしてなかった。
ちょっと洗ってくるわ。
[ライヒアルトに背を向けた状態でいつもと同じような声色を紡いだ]
――それでも。
人狼が、人の命を奪ったというなら、赦すわけにはいきません。
やらなければ、やられるのなら。
救うために、やるしかないのなら。
[続く一語が、出ない。
型に嵌まったような台詞とは裏腹に、口調は重い]
…、私だって。
[別の、自身の言葉を紡ごうとした瞬間、息苦しくなる。
胸に手を当てて、眉を顰めた]
状況が状況だけに、決意が固いのは構わんが。
[きつく寄る、眉。
過ぎるのは、物置でゲルダに言われた事]
……家主殿。
俺のよに、過去に追われているわけでもないんだろ?
なら、思いつめるのは、ほどほどにしておけ。
[家主の過去の事は知らぬ身。
故に、その言葉はためらいなく紡がれた]
……まあ、荒事に望んで突っ込んでいくようには、見えんが。
[マテウス任せ、という言葉にさらりと言って。
厨房に、という言葉には、そうか、とだけ返した。
言葉を紡ぐ表情には、気づいていても、それには触れずに。
同時、思うのは。
己が存在の、この場での異端さ、冷静さ。
こうしなければ、立っていられない。
ただ、それだけの事なのだけれど]
―一階廊下―
どうして…さぁ、どうしてだろうな。
人狼が爺様を邪魔だと思ったか。
それとも爺様が何か勘付いてたか。
……信じたくない、が。
少なくとも、自衛団の奴等はそう思ってる。
ここに居る何人かも、そう思っているみたいだ。
[目を開けると、アーベルの声や表情、それらが強い動揺を表しているのが映る。]
…先生殿は、昨日から何か気づかなかったか?
物音や何か…。
[手がかりを求めるよう、アーベルに問いかける。]
――貴女が人狼だから。
そのような事を言うのですか。
そのような事を言って、…私を篭絡しようとでも。
[絞り出すような声には、色濃い猜疑]
[わたしにも、ちゃんと分かってた。他に方法はない、分かってたよ。]
[でも、何か言い募ろうとした。せずにいられなかった。]
人狼、なんて通り一遍な呼び方しないで。
ここにいるのは、皆それぞれ名前のある人なんだよ、それを…
[言葉は末尾がしぼんでいく。分かってるんだ、そうするしかないって。]
って、何か大丈夫じゃないさそうだよ?
…!!
[わたしは言葉をなくした。]
そう、そうなんだよね。
そう思っちゃうような、状況なんだよね…。
…ごめんなさい。
[過去、の言葉にピクリと身を強張らせた。
右手を白くなるほど握り込む]
ああ。俺は人狼と遭ったことは、ないな。
ただそう、少しばかり聞き齧った事があるだけだ。
お前から聞いたの以外にも。
だからお前には殺させたくない。
…どちらであっても苦しむだろうから。
[それをしてきて、狂っていった人。
あの場に行ったのが自分なら良かったと]
やれない、っていう。
ゲルダにもさせたくはないけれどね…。
[翠の中の影は揺れて、揺れて揺れて――]
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