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そん…!
[感情の読めない声に反駁しかけて。
ケホ、と咳をした。痛い痛い痛い。
そもそも本格的に武道をやっていたわけでもない人間が、知識と本能だけで戦っていたわけで。身体はしっかりそっちのツケも払えと主張し始めていた]
…バカ。
[小さく呟いたのは意地なのか、それとも。
最後の部分には反論もせず、遠ざかる背中から目を離し、瞑った]
−住宅街−
[家に到着。
自電車を止めて、玄関をくぐり、靴を脱ごうとしたところで感じる、不快な空気。
家から、それほど遠くない]
……?
[微かに首をかしげる。
おかえりー、と中から声が聞こえたのだけど]
…忘れもん、とってくるわ。
[リビングから顔を出した下の姉にそう告げて、急いで家を出る。
彼女はと言えば、不思議そうに首を傾げていたが]
…ったく、時はともかく、場所を選べ、場所を…!!
[明らかに苛立ちの混じった声で、気配のするほうへと走り出す。
しばらくすれば、そこに見えたのは右に曲がった一方の奇術師]
[サキに追われている方の久鷹は、肩越しに背後の様子を見て、ほくそ笑んだ。二つに一つの博打であったが、賭けに勝ったらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・
――本物の久鷹に向かってきてくれたのだから。
ソレを確認すると、左目だけを複製に飛ばした。
複製は、右へと曲がった先にある廃工場脇に準備してあった、片腕がすっぽりと入る大きな鉄管を腕にはめると、そこに電子を磁石状に変化させて固めた釘の固まった玉を入れ、自分自身を発射エネルギーへと変換させた。
目標は廃工場前から一直になっているサキ――]
ハハ! 馬鹿力を持つものは、腕力だけではなくて頭まで力でしか解決を見ないよう思考を固めるらしいな! 返せと言われて返すと思うか!
[流星錐を一発サキの足元へと向けて打ち込むと同時に、右手にあった壁を三角飛びの要領で駆け上がった。
それが合図!
釘の玉が鉄管から発射された]
それで結構。
[ 耳聡く拾って、律儀にも答えを返す。
けれど振り返ることはなく、
石段をくだり、土のない地に立つ。
夜の帳は既に下りて、天には幾数もの星。
アスファルトの路から、熱は失われていた ]
……つーまんね。
[ 冷めてしまえば、そんなもの。
右腕の痺れが今更のように蘇り、
全身へと懈さが広がっていくような気がした。
途切れかけの街灯が、煩くちらついている ]
あっちは、どうなったかねえ。
[ 未だ黒に染まった眼と同じ、闇の奥へと*足を向けた* ]
…?
[見覚えがある。確かバカップルの片割れだ。
なぜ走っていく必要があるのかはともかく、この先に行くと廃工場があることぐらいはご町内の話なので知っている。
不審に思い、そのまま追いかけていけば何やらあまり喜ばしくなさそうな雰囲気。
ましてや、人を狙って金属の弾が発射されたとあれば──]
────っ!
──dople fayra tussu:naja!
[とっさに口にする火の音。
着弾までに間に合えば、金属はまるで水のように沸騰し蒸発するのだが]
[返るとは思わなかった答えには反応せず。
ただその気配が完全に遠のいてから、パン、と一度地面を叩いた。物凄く悔しそうに]
[間を置かず、自分には出せない『音』と共に現れる気配。
顔を上げる元気もなく、自嘲含みの掠れ声で]
ごめ、もたなかった。
[そこまで言って、今度こそ限界。
相手の反応を確かめることもなく、意識はスィと*遠のいた*]
思わねぇから一発ぶん殴ってやろうって言ってんだよ!
そりゃアタシは頭なんか良くは無い。
だからアタシはアタシなりにやれることをやるのさ!
[背後から狙われているとはまだ気付けて居ない。足元への攻撃をバックステップで躱し、壁を駆け上がる久鷹に対し飛び蹴り。タイミングがズレ、外し着地したところで何かの発射音を聞いた]
げっ!
[見れば高速でこちらへと迫り来る鉄の塊。避けるには体勢が間に合わない。仕方なく、先程鉄球を受け流した時と同じように迫り来る塊をいなそうと腕を掲げる。しかし次の瞬間、鉄の塊──釘の塊だと言うのは近くで見てようやく気付いた──は、瞬時に沸騰し消え失せてしまった]
…な、んだ…?
[呆気に取られていたが、釘の塊が飛んできた方向に見覚えのある姿を見つけると、僅かに口端が持ち上がった]
こりゃ、貸し作っちまったかな。
…それよりも。
[呟き視線を久鷹へと向ける。離れた位置へと立つ相手に、牽制するかのように再び円盤を嗾けた]
[発射された輝きは目に入った。そして釘は電子でまとめる――つまりは電磁石の要領で磁石化してあった。そしてソレを引き寄せる対極に当たるのが、今サキに打ち出した流星錐だ。SとNは引かれあい、サキの胴体に大きな穴を穿つ――筈だった]
な、に?
[それは本当に突然だった。
打ち出された玉が、まるで水に溶かした砂糖のように、一瞬で溶けた。しかも、金属の沸点を一息で到達し、蒸発もしてしまった。
もし、ここでヒビキの姿を見えていれば、舌打ち一つで済んだだろう。だが、不幸な事に、ヒビキは彼の視界に入らなかった。
そのため、思考が一瞬真っ白になり、無防備のままサキの前に着地した――]
[はー、と大きく息を吐き出す。
それは体にたまりこんだ不満を吐き出すかのように。
明らかに、神宮司へ向けた視線は不機嫌そのもの]
…お前等、人のシマで何してやがる…っ。
[シマっていうか、町内会ってだけなんですけどね。
まだ小朱雀を召喚するほどではないにしろ、漆黒の瞳にうっすらと丹朱が滲むが、その場所から今のところ動く気配はない]
[嗾けた円盤を追うようにして久鷹の懐へと潜り込む。無防備な状態なため、難なく滑り込み、踏み込みと同時に勢いを乗せた掌底を鳩尾へ繰り出す]
久鷹から出て行かねぇってなら、力ずくだ。
[す、と瞳を細め、追撃とばかりに反対の手で再び掌底を繰り出す。それは顎を狙う一撃]
[流石に今は響へ反応する余裕は無い]
――しま!
[ほんの一瞬の間に、サキに懐へと潜り込まれた。慌てて流星錐の縄部分をまとめて繰り出された掌底を緩和するための盾とするが……]
ぐは!
[その程度では防げなかった。衝撃はあっさりと盾を抜け、鳩尾から背面まで突き抜ける。
そして、それを合図に心の中で檻に皹が入った。ヒサタカが再度表に出るべく暴れる]
グアアアァァァァァァァァァ!
[内外からの痛みは、最高潮に達しようとしている。数メートル吹き飛んだ場所で、四肢を張りながら、サキを、まるで手負いの獣が復習を企むように、幻影すら相手に与える程の殺気を叩きつけた]
殺す……。生きたまま魂を抜き取る苦痛を与え、数千年の時を持って魂を弄ぼうかと思ったが、今、この場で永遠の闇を味あわせてやる!!!
[本来は久鷹も距離をとり、守りを固め、知略を持って敵を滅するタイプだ。
しかし、今も彼は、それよりも自分に傷をつけられた事が、知略を捨てさせていた]
[思いの他相手が吹き飛んだために二撃目は至らず。それでも相手には相応の痛手を負わせることが出来たか。吹き飛んだ相手を見、次への予備動作をしようとした時]
………っ!
[叫びと、向けられる殺気に一瞬動きが止まった。しかしここで怯んではならない。ぐっと地を踏みしめ、呼吸を整え、意識を集中する]
…やれるもんならやってみな。
アタシは負けない。
マリーのためにも、九尾のためにも。
──……恭也のためにも。
[相手を見据え、動きのタイミングを図る。ゆらり、幸貴に重なるように霊亀の影が揺らめいた]
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