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[彼が泣き止んだのを見て、青年は再び白銀の獣と成り。
耳に届くは、乱れし旋律と…重ねても重ならぬ、悲しき声。]
………そうか……あなたは……
[青年が彼へとしてくれたように、そっとその頭を撫でようと――手を伸ばしたけれど。
邪魔をしてはいけない気がして、静かに踵を返し。ゆらり、拡散]
こんばんは。
[青年に、何時もと変わらぬような微笑を浮かべて返す]
――お怪我は、ありませんでしたか?
[そうして。昨夜赤毛の少女に問うたものと、同じ問いを。
けれどそれは何処か冷ややかな、何かを確かめんとするかのようなもの]
[広間に目を向ける
まだ幼く見える金髪の少女
神父に後を託された、少女]
…ごめんな、置いてきちまって。
頼む、って言われてたのによ、俺。
結局俺って誰も守れねーのかな?
[自嘲気味な笑い
銀髪の彼の言葉を思い出す]
『 その方を守るためならば、
人 を 殺 せ ま す か ? 』
[自嘲の色は濃くなっていく]
俺が殺したのは、無垢なる少年一人。
[笑う少女に、微かな違和感。
死を見ることを、あれほど厭うていた彼女の印象からは、その笑いはそぐわない気がして。]
どうして……そうね。
神父さんも死んじゃったのに。
[束の間、何かを考えて眉を寄せるも、部屋に来た目的を思い出す。
彼女なら、この館で誰が死んだかを知っているはずだ。
それを、死者を見ることを恐れていた彼女に聞くのは残酷なことには思えたけど。]
ウェンディを知らない?
―→広間―
[それは癖だったのかもしれない。わたしは広間の扉を開けた。
中には、……あぁ。
彼女は気づいているんだと、思う]
[今は死した恋人達の部屋に][もう一度戻る。]
[寝台の上に投げ出された、ナイフ]
[青年の血に塗れた其れを]
[取り上げ][青年の身体を探り鞘を]
[血糊はシーツで軽く拭うことしか出来なかったが]
[今は其れで十分だった。]
[未だ牙の生え揃わぬ彼にとっては。]
ええ、特には。
[ 左手の甲の傷の事は云わずに。どうせ明日には治るのだから。]
……俺に、ですか?
[ ウェンディの声に緩やかに首を傾げて見せれば、一歩中へと歩んで、卓上の花瓶を見遣る。白い花は現在も尚、見る者が居らずとも閑かに咲く。]
…彼も、彼も、彼も、…僕だ。
[憤りをぶつけ、跳ね返されるように死んだ少年。
憤りをぶつけ、殺してしまった男。
大切なものを壊され、仇をとってしまった男。]
[ネリーから返ってきた言葉には――ただ頷くことしかできず…]
[少女は躊躇いがちに『聖書』を弄っていたが、ハーヴェイが入ってきたのに気付いて――]
他の方…解りませんわ…。
何方がご存命か…ハーヴェイさんはご存知で?
[『聖書』を胸に抱かかえながら――問い掛けたのはそんな事で――]
不思議な話だよね。
人でも異形でもない、異能。
……本当なら、もっと早く殺されてても不思議はないのに。
[呟く刹那、わずか瞳は陰り、伏せられたろうか。
しかし、次いで投げられた問いに。
陰りは失せ、変わらぬ表情に戻る]
昨日から、会ってはいないよ。
視てもいないから、どこかにいると思う。
[問いに答える様子は、ごく静かで。
淡々と]
[向けられる緩やかな視線に、少女はきゅっと唇を噛み――]
えぇ、あなたに…。少しお聞きしたいことがあって…。
[ふわりと微笑みながら少女は僅かにハーヴェイとの距離を置いた――]
……然う、ですね。
先程、旋律が聴こえましたから……メイが生きているのは、確かかと。
[ あくまでも、青年の彼が知っている以上の情報は口にしない。]
[ゆらり、ゆらゆら。
流した涙の分だけ、魂が削られたのか――揺らめく意識のまま、時間と空間を漂う。
ふいに、意識が繋がって。ゆるゆると首を振れば。
目に映るは、大振りのナイフを手にした、ギルバートの姿。]
……ぁぁ…、ダメ…ダメだよ……お兄さん……
[なんだか止めないといけない気がして、届かないとわかっていながらも、手を伸ばす。
大気の纏わり付く感覚が前よりも希薄なのは、大気と同化しつつあるからだろうか?]
[薄紫の瞳が、不思議に陰る。
そこにどんな感情があるのか、ヘンリエッタにはわからない。]
だって、貴方は誰も殺そうとしてない。
だから、誰も殺さない。
……死にたかったの?
[少女の言葉に、小さく首を横に振る]
殺さなかったんじゃないよ。
怖かっただけ。
……死を視て、自分が人じゃない、と感じること。
それが、ボクは怖かった。
[投げられた問いには、ふと目を伏せて]
……わからない。
[答える刹那、瞳は僅かに揺らいだか]
[眸を伏せるその首に、抱きつくように手を回せば。
感覚は遠いけれど、確かに…微かなぬくもりが伝わって。]
『いかないで』
[声が届かぬならばと、心に祈る想いは、届いただろうか――]
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