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こらっ!待てー!
[叫んで帚を持ったまま後を追った。
追跡はほんの数秒。
すぐに転んだ少年に、呆れた顔で歩き追いつく。]
情けない泥棒ね。
[転んだ体を引き起こすように手を差し伸べた。]
ほォう、泥棒ねェ。
[リディの言い分にそ知らぬ顔で頷いて、ティルを意地悪く見てにんまり。ちゃっかりした礼の要求に笑いを堪えながら、恐ろしげな声をティルに向ける。
素早く逃げようとした泥棒未遂猫が見事にこけたのを見て噴出す]
ほゥら、悪い子は妖精にお仕置きされるのさ。
反省しない悪い子はどうしてやろうかねェ。ぐるぐる巻きにして川にでも流そうか、それとも木にぶら下げようか。
[言いながらアーベルに『ちょィと黙っといて』と見る目は笑っている]
あ、ボクの方は空いてる時でいいのですよ。
そんなに急いでいる訳じゃないですから。
[ユリアンに笑いながら返して。
猫に向いた視線を追い、それから]
大事なものは、ちゃんと持ってないと、ですよぉ。
[エーリッヒの言葉に、また、楽しげに笑った]
元気なのは良い事ですよぉ。
お年を召して塞ぎこんでしまうのは、よくないのですから。
……あ、確かに、ここに集まっているのはお邪魔ですねぇ。
うう…て、敵の情けは受けない、にゃ…じゃない、受けないよ!
[少女の手をてしっと払って、ぶつけた鼻を押さえながら、ぺたんと床に座り込む。やっと語尾がまずいことに気付いたっぽいです]
[猫は見事捕まったのが気に入らずに、じったんばったん。
しかし背後から捕獲された体勢では爪が届かず猫踊りしてる風に見えなくも無い。
目は吊りあがって口は裂け、そりゃぁ凄い形相だが]
わっ、引っ掻いたな!
[てしられた手をひいて少年を睨む。]
ぐるぐる巻き川流しの刑だ!
[ウェーバーさんの言葉を借りて帚をその鼻先に突きつけた。]
[リディの手を断るティルに笑いそうになる顔を無理矢理顰め、怯えた声にほくそ笑む]
そォう、川がいいのかい?
それとも…ちゃァんと謝って、そこの泥を掃除するかい?
……あらら。
[捕獲された猫の様子に、きょと、と瞬き。
それから、くすり、と笑みをもらす。
肩の鳥も、楽しげにくるる、と声を上げていたり]
か、か、川は駄目にゃーっ!
[折角修正した語尾が、元の木阿弥。箒の恐怖も合わせて、ふるふるぷるぷる]
そ、掃除する、にゃ!
[涙目]
ほら、本当に大事なものはここにあるし。
[紙袋を持った左手で己の胸を指し示し言うが、笑みを浮かべた様子からして冗談のつもりらしい]
そういうこと。
俺はヨハナ婆んところ寄ってから帰るつもりだけど、そっちは?
[言うと同時に右手で猫を掴みあげる。痛みはもう殆どなく怪我の存在を知っているのもミリアムくらいだから、隠すのはすっかり忘れていた。
しかも首根っこ。可愛らしくない鳴き声は余計に悲惨になっただろう。
その形相のほうは、青年の側から見えはしなかったが、二人と一羽の反応から、どんな風になっているかの想像は容易につく]
まあ、いつものことだし放っといてもいいんだが。
祭りの後の崖崩れ、なんて不穏なことがあったばっかだし。
それは、そうですけどねぇ。
[胸を指し示しての言葉にこう返して。
猫を掴む腕の動きを追う時だけは、紅の瞳はほんの少し真剣さを帯びるものの、すぐにそれは消えて]
特に、予定もないのですよねぇ、ボクは。
一応、診療所に待機してた方がいいのかも知れませんけど、何もなければそれに越した事はないですし。
よォし、それならいいじゃろ。…くくく。
[ティルの敗北宣言に、ついに笑い出しながらリディへ向いて]
さァて、嬢はお手柄だったねェ。
だけど裏口じゃなく玄関もちゃァんとあるんだよ。
今度からはそちらから訪問しとくれ。
御褒美を用意するまで掃除の見張りも頼むさね。
[それからなにやら見ているアーベルの方を見やって説明した]
あァ、こちらはマッキンリーさんちの嬢ちゃんだよ。
近所に越してきたとこでねェ。
なるほど。
じゃあ、気にしなくてよかったんだね。
不法侵入が二人だったらヨハナおばあちゃんも大変だなって思ってたんだ。
おれはアーベルっていうんだよ。
エーリ君のところに宿借りてて、そろそろ出ようと思ってたけど、崖崩れでまだ居候中だったりするから、よろしくね。
[猫はユリアンの様子に目ざとく気付いて「フシャァー!」と気勢を上げたが、首根っこ捕まれててはどうしようもない。
虚しく前足で空を切りながら、ぶらーんぶらーんと揺れる痛みにようやく唸り声を上げる程度には大人しくなった。
鳥の啼き声には、ゆらぁり尻尾が不穏気に揺らめいたりした]
[ウェーバーさんがご褒美と口にするのを聞くと歓声を上げる。]
は!リディ・マッキンリーがしっかと見張らせていただきます。
[ぴしと、軍隊式に手を上げて頷いた。
お客だと言う青年に自分を紹介するのを好奇心に満ちた目で見て口を挟む。]
こちらのお客さんは?
お祭りを見に来たの?
……そうじゃなァ、考えてみてもいいがなァ。
そもそも掃除は汚された分を戻すだけなんじゃから、ちィと虫が良すぎる話だねェ。
[ティルの視線に、確約せずのらりくらりと逃げながら]
ま、さっさと掃除が済まなきゃ全部食べちまってるかもなァ。
ほれ、早くおし。
[ケトルを火にかけ、なんだかんだで更に二人分の準備を始めた]
ああ、そっか。
お師匠さんいないもんな。
まあ、程ほどに息抜いて、好きにしたらいいんじゃないか。
[納得の頷き。それから暴れる猫に視線を落として]
ほーら。こうやって掴まれんの厭なら、大人しくしとけ。
[大人しくなったところを見計らい、一度地面に紙袋を置いて、猫を抱え直すのもやはり慣れた右腕。
手提げでも持ってくれば良かった、とは後悔先に立たず]
それじゃ、一先ず行くかな。
また、になるかな?
[別段、付いて来るなら来るで止めはしないが。
一応は別れの言葉を告げて、歩み出す]
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