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フン、その方が確かに早いさね。
アタシも火の粉は払わせてもらうよ。
全力でネェ…!
[全身から香気が立ち昇り、部屋に満ちた香りが強まる。
脳にまで浸透しそうなそれは判断力を奪うもの。
それでも強い集中力があれば影響は微々たる物だろう]
[溜め息を一つ。]
昔、自分は神の声を聞く預言者だ、という男に会った事がある。いつもボロボロの服を着て、公園の片隅に座り込んでいた。
嵐の日には、「神は怒っている。この風は欲深に葉を多く纏う樹を揺らして枯らすだろう。怒りをかわすには、自ら葉を捨て地を這う虫に与えるのだ」と喜捨を迫り、地震のあった日は「神はお嘆きである。樹はその福々と肥え実らせた果実を落とさねばならない」と金持ちに説いて回った…。
その者は、どうなったと思うね?
[言って、銃を抜く。]
[咳が口をつく。
だが、それにかまっている暇はない。ことは迅速を尊び、譲れぬ思いと願いは常に背中に背負っているのだから]
最初から全力だぁ!
[東洋の武術にある『唐手』。その中で達人ともなれば一歩で数メートルを移動する歩法が存在する。
その一歩は、どんな床をも打ち抜く強靭な脚力が決め手となる。
ダン!
と、右足をついた瞬間、...の体がまるで最初からミュウの死角を知っているように動いていく。
そしてそこに刻まれたのは、シャロンの死体側にあったあの陥没と同じ傷跡。
...は踏み込んだと同時に壁へと飛び、すぐに天井へと駆け上がると、そのままミュウの背後へと飛び越すように動きながらメイゼルを頭上から大きく振るった]
ハッ!
[一気に懐深くへと潜り込まれる。
だが彼女にとってそこは死角であって死角でない。
ありえない角度で身体が撓り、その一撃をかわしてのける。
そのまましなやかに跳躍して距離を取った]
ハン、ボーヤが昨日の立役者本人だったのかい。
最初から答えを知ってる問を投げかけるとは、趣味がいいネェ!
[陥没した跡を見て艶然と笑った。
香気は一段と高まり呼吸すら辛い濃度でレッグへと集まってゆく]
[常人や普通の人間であれば命中しているであろう一撃を、踊り子の柔軟さで簡単に回避される。
だが仮にも十二宮の一人。
数時間前のように二人でシャロンを屠った時とは違うのは理解していた。
だから、即座に腰に残していたアイゼルを引き抜くと、ミュウの跳躍先に向けて二発打ち出す]
他のメンバーは違って、こっちには火の粉以上の目的があるんでねぇ! 博打になろうが賭けなければならない時もあるってさ!
[叫びつつも、この周囲に漂う香りに、さすがに彼も不自然さを感じ始めた。だが室内奥にいたミュウを飛び越えるため、出口まではそれなりの距離を持ってしまっている]
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