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[ここまで話すと、一度、話題は途切れ。
立ち込める重い沈黙を振り払うよに、また、口を開いた。
その話題が、また、重苦しさを増すのは予測していたけれど]
それで、な。
直接的な身の危険はないとは思うが、今の俺は、以前と違って、色々な影響を普通に受けるようになってる。
[継承者たる『新たな月』。
それが昇るまでの間、『絵師』は不死に近い状態になる。
最初からそうだった訳ではなく、いつからか組み込まれていた仕組み。
その原因が何かは、確かめた事はないが。
……もしかしたら、誰かたちが話題にしていたおとぎ話が関わりあるのやも知れず]
……だから。
『絵筆』を持ち出した連中に狙われたら、抵抗する事は、恐らくできん。
そうなった時に備えて、『解放』のやり方を伝えておく。
[心の『解放』。
それは、多くの『絵師』が願い、夢見、そして自ら叶えるには至らなかったもの。
術自体は、自らの血を用い、それぞれの筆に定められた印を描いて、キーワードを唱えるという単純なもの]
……空へ向かうにはまだ『足りない』らしいから。
今、この法をやっても、生者の解放しかできんだろうけどな。
それと、今残ってる筆には、十分に力を込めてあるから、しばらくは大丈夫だろうが。
念のため、氷面鏡の間の場所と入り方、教えておく。
……ここは、『絵師』だけが立ち入れる領域だから、人には教えるなよ?
[予め注意をしてから、場所と入り方を教えるものの。
正直、継承前に弟がここに入る事がない事を願っていた]
……とりあえず、今、伝えておきたいのは、こんなとこだな。
ま、『解放』やら何やらは、杞憂に終わればいいんだが……さて。
[静かに呟いた後、立ち上がる。
表情は一転、常のどこか軽いもの]
何か、食べたいもの、あるか?
今の内、しっかり食べといた方がいいし、リクエストあれば応えるぜ?
[ごく軽い口調で言いつつ、上着を椅子の背にかけ、袖をまくる。
緑に浮かぶのは、今は、気遣うような、穏やかな色**]
ブリジットさんはさ、
『海』に壁をかんじたら、どうすればいいと思う?
やめるのは嫌なんだ。
だけど、多分、あれ以上は無理なんだ。
あの波がなきゃいけるけど。
『海』を見るなら、『空』からかな。
だったら、早く飛べるようになれば良いな。
そう思うんだ。
[少女は窓へと目をやって
それから、ブリジットが何か言う前に、診療所を出る。
なんだかそのあとで、ひどいさけびごえが聞こえた気がしたのだった。]
―広場―
[告示が出てすぐにではない。
それでも、少しばかり騒がしいそこで、友人に話を聞く。]
うわぁ。
何考えてるんだろ、上の人たちー。
[答えなんてない。
少女たちのおしゃべりは、それでも危機感なく恋愛沙汰に発展するのだった。]
そうそう、ミリィせんせーの本命は絵師様みたいだから、
オトせんせーはフリーかも?
[本人の気持ちはどこなのか、突っ込みなんて*聞こえない*]
[目を閉じている間
何時もの夢が、世界を支配する。
青の中、纏わりつくは冷たい感触。
重力に支配されない体は、手で緩やかに周りを掻く事で前へと進む。
前は、上であり下であり、右であり左であり――]
[目を覚ますと、部屋の中は暗闇。
付けっ放しのヒカリゴケのランプがどうやら消えているようだ。
せり出した大きな岩の下に位置する少女の家は、
何時も薄暗くヒカリゴケが無いと家の中は
ほぼ漆黒に塗り固められる。]
…あら?
[目を開けても光が無い事にすこし戸惑う。
暫くして、ヒカリゴケが消えている事に気がついて、
そうっと足を降ろし、綿毛の上を歩いて扉を開いた。]
―自宅―
[外のヒカリコケの灯りを家の中に入れ
眠い目を擦りながら奥の扉の鍵を開いた。
中庭に向けて開けたその扉を開けると、
奥へ10歩程度歩ける広さの岩の洞窟。
あまり手入れもされていない中庭に揺れるは――桃色の花。
その壁に生えるヒカリコケをこそぎ取り、ランプへと詰めた。
ぽうと灯りが灯り、部屋内を映し出す。
扉を閉めようとして、ひとつ、はたと足を止めると
しゃがみこみ、花をひとつ、摘んだ。
そして扉を閉めるときちんと鍵を閉め。
花をくるり、指で回すとそれはまるで生き物のように、揺れた*]
―広場―
「ところで怪我したんだって? って、リディ、聞いてないでしょ!」
ほえ? き、きいてるよー!
で、なんのはなしだっけ?
「怪我!」
あ、そうそう、海でやっちゃってさー。
もうさ、ミリィせんせーの治療、相変わらず痛いって。
困っちゃうよねー。
じゃ、そーゆーわけで、糸のお仕事もあるし、そろそろいくねー。
そういえば絵師様みなかった?
「見てないよ? 元気ないね?」
そっかぁ。 ……だ、だってさ。一日一度は見たいじゃん?
憧れだしさー
まあ見てないなら仕方ないやー。
うーん、探すにも時間かかりそうっていうか、
アトリエ以外、絵師様ってどこにいらっしゃるのかわからないし……。
「今、筆ないから探してるのよきっと」
でもさ、
筆、見つかるのかなぁ?
もし自分の手にあったらどーする?
「えー、何それ。いらないよー」
でもさ、だって、綿毛といっしょに空にいけるんだよ。
ここから出れるんだよ?
それだったら、手放したくなるひとなんて、いないんじゃないかなって――
長様も寝てるだけみたいだし。
お年寄りの人とか、本当はいきたいんじゃないかな。
[そこらへんを見て、呟くと、じゃ、と手を振った。]
[肩から鞄を斜めにかけて、片手には空っぽの籠を持って。
もう片方の手の中ではくるりくるりと花が回る。
軽やかに足を前に出して歩き]
♪レ アリシ スヴィルッパ
ヴェルソ イルシェーロ、
ヴォグ…っ?
[上機嫌に歌う声は、突然止まった。
綿毛畑の前、杭にロープが絡められている。
どうやら、此処は隠し物をするには最適だろうと、
立ち入り禁止にされたようだ。]
[怪我を見咎められ、おこられ、糸工房に行くからと外へ出た。
だが再び通りかかった広場を見て、しばらくうーんと悩む。]
みんなまだ静まらないなぁ。
[中には上層部・絵師への反発をあらわにする人も居るようで。
少女は、困った顔をして、壁に手を付いた。
手にぺたりとヒカリコケ。
手のひらがきらきらして、しばらくそれを見ている。]
「こらぁ、近寄っちゃ駄目だよ!
事件が解決するまでは、立ち入り禁止!」
[太い声が飛んできて、肩を竦める。
大きな妙齢の女性が声を上げているのを見て
ぱたぱたと、逃げるようにその場を後にした]
―綿毛畑→広場―
[ふわと浮いてきたヒカリコケが目の前で煌き
思わず先ほどの怒声もけろりと忘れて顔を綻ばせた。]
きらきら、きれいね。
それを取りに来たの。
[ヒカリコケの並ぶ壁の辺りに佇むリディの方へと歩いて行き
その光る手を覗き込んだ。
自分もこそぎ取ろうと手を伸ばすと、
リディが潰したコケに触れ、胞子がキラキラと、飛んだ。]
そうなの?
……手から取る?
それともあっち取る?
[壁へと目をずらして、尋ねる。
胞子が飛ぶのを見て、綺麗だなぁと呟いた。]
要らないなら、手のも貰うわ。
壁のも、もらうの。
いっぱい、要るから。
[にこり、笑って手に持った籠をちょいと上げてみせる。
ふわふわ浮かぶ粒が目の前を通り過ぎ
思わず目で追い、それはそのまま上へと向かう。
更に追う目は、天井へと首を伸ばした。]
[目を細めて上を見たまま
口を開けば、高い声で歌が零れる。
そのままくるり、両手を広げて一度回った。
周りに居た大人が、怪訝な目で見る。]
籠にいっぱい集めれば、足りると思うわ。
おうちのお庭にもあるのだけれど、ひとつひとつが小さいの。
ここのヒカリコケの方が、きれいなのよ。
きれいに光るほうが、嬉しいもの。
[言いながら、手を伸ばして壁のヒカリコケを削ぐ。
籠にパラパラと、光の塊が落ちて行く。]
うん。
それくらいだね。
一緒にやるよ。
[同じようにヒカリコケを削いで、
籠へと入れてゆく。
きらきらと、たまに地面に落ちては、*重なってゆく*]
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