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[判らなかった。何も、いない気がした。何かがノーラたちには見えてるのだろうと思っても、鳴き声のほかに音もなく、気配も感じられない。
ただ、ノーラの示す方へと、歩いていく。
階段を上る。杖は左手でついて、右手はノーラを支えるために。
名を呼ばれ、その後の言葉に微笑んで]
私も、自分の家族以外は良く知らないの。
でも、温かかった。パパも、ママも、弟も、大好きだった。
目が見えない私のために、色々してくれたの。ママも、パパも、厳しかったけど、でも、優しかった。
だからね。
この病気になって、ここに来ることが決まったとき、ほんとは嫌だったんだ。
だって、みんなと別れるのは、辛かったんだもの。
でも、ママも同じ病気だって知って、でもママはここには入れなくて、生き残る可能性があるのに、行かないのは、ただのわがままだと、思った。
ママの分まで、生きなくっちゃって。
家族って、知るものじゃなくって、なるものでもなくって、気づいたらきっと家族なのよ。
支え合って、大好きで。みんながみんなを思い合うなら、それはもう家族だわ。
[ナターリエの言葉に、びくりと肩を動かす。その後のアーベルの声。嗤う、声。
殺してみなよ、という声に振り向く]
やめて。
[言葉を続けようとして、ノーラの言葉に頷くだけに留める。同じことを、言おうと思ったから。
上へと急ぐ。
部屋らしきところに入ると、声が聞こえてきた。
そして、つげられる数字]
52、年……。
―回想・了―
[そのあまりの年月に、ノーラを握る手に、力が篭った。
告げられる真実、数値の上がって行くアーベルの体]
アーベルさん!?
[みしり、と音が響いた。そして、何かが転がる音]
何? アーベルさんは……どうなったの?。
[ノーラから楯を渡される。受け取って、両手でもった]
[ライヒアルトに引き寄せられ、触れた唇。
離れるのが怖くて追いかけかけてやめる。]
ライヒも、気をつけて。
[そうしているうちに首輪は千切れ、アーベルは倒れ、生まれ出る悪夢。]
おんなの、ひと
[不思議そうにつぶやく。]
[神経の図太さには自身があったし、
事実、いろんな人にそう言われてきた……。
だけど、そんな自分でも目の前の光景は呆気に取られた。
人がその肉体を破り、別の形へと変貌する。
そんなことが出切る訳がない、そう思っていたから]
[何が起きているのか、見えない。けれど]
……何か、いる。
アーベルさんみたいだけど、違う。
[そしてアーベルの気配はすでに感じられずに]
生きてて、ほしかったのに。
どうして。
[見えない。けれど感じる]
[離し難いに変わりはないけれど、今は。
気をつけて、という言葉に頷く。
音の方へと転じた視界が捉えたのは、石より生まれし幻想。
その様に、『プログラム』を名乗ったものの笑い声は、高く、響くか]
……どこで、笑ってんのか、が問題か……。
[低く呟く。
そこにいる銀はホログラフだろうから。
本体を探さなくては、と研究室を見回した]
『───お は よう』
[小さな姿は唇をゆっくりと動かす]
[直接脳裏に響く言葉]
[すう、と動く]
[僅かに残る蒼の航跡]
[かつてアーベルと呼ばれた石に]
[口づけて]
[航跡は残る]
[そこにいるそれぞれを見る]
[湧き上がった怒りも強かったけれど。
その姿に覚えたのは、やはり恐怖]
アーベル、さ…。
[人だったものが死によってではなく人でなくなる瞬間。
両手で口元を押さえて、悲鳴を殺す]
[52年]
[経った年月に眩暈がする。きっと、もう。
自分が眠りについた時に年老いていた両親はいない。
もしかしたら、妹も。
自分を冷凍睡眠に放り込んだ院長も、同僚も、いない]
[保菌者。
自分たちが、実験動物のように使われて]
[ゼルギウスを見る。
ただ、彼も、きっと。そう、きっと。
物理的に変質させられてしまった魂に違いなかった]
―― ゲルダさん
[自分は、いい。治らなくて当たり前だった。
治ることなんて、多分、全然望んでいなかった。
きっと、自分だけが無為に死んだのなら、この皮肉な茶番に感謝して高笑いをしていただろう]
……ずるい。
[石て化したアーベルを見下ろして言う。
妖精に視線を移す。頭の中に直接聞こえる声。]
おはよう、そしてさよなら。
[メイスを握り、妖精に向けて振り下ろす。リーチは大丈夫なはず。]
[でも、彼女は違う。
エーリッヒも、カルメンも、自分を手にかけたあの男性も、違う。本来の計画通りならば、助かった。選ばれた人しか助からない、酷くエゴイスティックな計画でも、助かるはずの命だった]
[運命。そんなことを、考える。
けれど、そんなものでくくりたくはなかった。
唇を、かみ締める]
………………っ!
[目の前で、最初に声をかけてくれた青年が、変化した]
[それは、もしかしたら新しい生命の誕生。
でも、ただひたすら悲しかった]
[祈る。ただ、祈る]
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