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[食べるも御酒も、過ぎては良くないと。
年端の割りに賢きこと言う童に、琥珀を細めて眺めやる。]
[されど案ずるような問いに、琥珀ははたと見開かれ、]
…我が。
否、大丈夫じゃ。
我は…御酒を飲んではおらぬでな。
[よもや言い負かされて拗ねたとは言えず、やや苦味含んだ笑みを風漣へ向けた。]
本当に?
[大丈夫、という言葉に、ゆる、と首を傾げつ]
なんだか、気分がよろしくないように見えたの。
でも、なんともないなら、良かった。
[向けられる笑みの苦味の意味には、ついぞ気づかぬまま。
邪気なき様子で、笑ってみせ]
やれ、薬売りであったか。すまぬの。
なれど酒に溺れしものを助く手はもっておろう。
[烏の言い直すに短く詫びるも、続く言葉は言い訳のよう。
吹く風に髪を押さえるも乱れるは、天邪鬼な心と同じ。]
詫びることでもありやしませんさ。
ええ、お説の通り、酔い醒ましに、二日酔い、お役に立てるものはいくつか。
腹の虫や、疳の虫に効く薬もありますよ?
[えいかには、どこか面白そうに、言葉を返す]
なるほど、此方が守されたか。
それも悪くはないかも知れぬね。
[落とされるのにつられて声は潜まる]
さてなはてな、どうだろうね。
此方としては濃色の子も気にかかりはするけれど、
此方の及ぶ場とも思えず、悩みどころ。
[首を傾げつ念押されても、素直に言うはずもなく。]
…大丈夫じゃと言うておろ。
なに、我が仏頂面はいつものことじゃ。
そなたが心曇らすことに非ず。
[邪気なき笑みに、ついと琥珀が逃げるは照れたや否や。]
そうですかい…天狗の里に隠される子供は、どうも、いかにも難しい。
[ふと白い霧を見遣った顔は、珍しく僅かに憂いを帯びて見えたか]
[烏とあやめが交わす言葉は聞こえぬものの、その様には、何か感じてか、ゆる、と首を傾げつ]
笑わぬと、こころがいたむといわれたの。
だから、心配なの。
[琥珀がそらされる意にはやはり気づかぬか。
紅緋はきょとり、としつつえいかを見つめ]
おや、そうですかい?
[あやめの言葉を聞けば、瞬時にいつもの笑みに戻って]
これでも、天狗に誘われるのは、二度目の常連なんですがねえ。
腹の虫や、疳の虫…
[縁側で足揺らすその背を、仔うさぎは見ていたろうか。
風が運ぶ酒精も手伝い、半ば伏せる睫毛がふるふると震え、]
…どちらも要らぬわ!
[どちらも要りそな声音で、ぷいと横向く。
追い討ち掛けるよなあやめの言の葉に、ますます頑なになろう。]
[えいかの声には、ますます笑みを深くして。あやめにはこともなげに、頷いてみせる]
そういうことになりますねえ。
以前に迷いこんだのは、丁度ねいろ坊くらいの頃ですが。
[されど童の紡ぐ言の葉を、気って捨てるは心が咎め、]
…そうか。
そなた…風漣は良い言葉をもろうたのじゃな。
じゃがの、笑いたくない時に笑うもまた心が痛むのじゃ。
笑わぬと、こころがいたむでも、
こころがいたむに、笑わずとも良いと…我は思う。
[きょとり向けられる眼差しに、琥珀が揺れて返す。]
…なに、笑いたくば我も笑うゆえ、心配要らぬ。
[やや苦しげに聞こえるは、優しき言葉が性分に合わぬゆえか。]
母様のさいごのお言葉だから。大切にしているの。
[それはえいかに言うよりは、独り言のよに小さき言葉で]
笑いたくないときに……。
[それは、言葉にはできずとも、意は伝わってか。
こくり、ひとつ、頷いて]
それなら、良かった。
[笑いたくば、との言葉に向けるは、屈託なき笑み。
その傍らの小さき獣も、同じく無垢な瞳を向けて]
[俯く面を、風に乱れし髪が隠す。
やや癖のある髪は、風が過ぎても頬に張り付いたまま。]
[問答のあっけない幕切れに、零れた吐息は安堵か落胆か。]
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