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─県立高校・グラウンド─
「よし、次っ!」
≪ピッ!≫
[グラウンドに響く号と、甲高いホイッスルの音。
それを耳にし、オレはバーを見つめた]
[軽やかに地を蹴る足。
身体全体でリズムを取り、背を反らせて触れれば簡単に落ちるバーの上を飛び越える。
身体全てを受け止めたマットが大きく波打った。
設置されたバーが落ちることは、無い]
「おい、高井。次はお前の番だぞ」
………解ってるよ。
[同学年の部員に声をかけられ、オレは走り高跳びの練習場所から視線を外した。
オレの目の前には短距離のコース。
隣には共にタイムを測ることになる部員。
ゴール地点で顧問がスタートの合図を出した]
[ホイッスルの音と共に足に力を入れ、地を蹴る。
風を切り加速して、緩めることなくゴールラインを越えた]
「高井、調子良さそうだな。その調子で頑張れよ」
…はい。
[タイムは自己ベスト。
顧問が感心するように声をかけて来たが、オレには何の感慨も浮かばなかった]
[シンボルツリーのある公園と駅のほぼ中間地点にある県立高校。
そのグラウンドでオレは好きでもない短距離の練習を淡々と*続けた*]
…………。
足りねぇ……な。
[からから、と言う乾いた音にこぼれるのはこんな呟き。
残りの原稿量と、コーヒーと煙草の残量。
どう贔屓目に見ても、釣り合わない。
途中で足りなくなるのは明らか過ぎた]
……出るか。
[ぽつり、呟いて。
パソコンの電源を落とし、身支度を適当に整えると、ふらりと*外へ*]
─中央広場─
[買い物に行くつもりで出たものの、足はそちらに向かうでなく。
ふらりとした足取りのまま、宛てもないよに広場へと向かう。
かさり。
踏み出した足元で、落ち葉が音を立てる]
……ん。
[何気なく見やったシンボル・ツリー。
その下に佇む、紅の装いが目立つ影]
こないだ、夜中に通った時もいたような……なにしてんだか。
─中央広場─
[カーキのショートコートに蓬色の薄いマフラーつけて、中央公園へと足を踏み入れた。
赤い髪に被せた薄茶のハンチング帽のつばを右手で摘み、軽く持ち上げる。
オレの瞳は中央公園に聳え立つ桜の樹へと注がれた]
…………。
[翠の瞳に羨望を乗せて、自分より遥かに大きい樹を見上げる。
この樹のようにとは流石に言わないが、高さに憧れがあるのも事実だった]
……この後どうすっかな。
しばらく家にゃ戻りたくねぇし。
[摘まんでいたハンチング帽のつばを引いて、目深に被る。
行き場を探して軽く周囲に眼を向けた]
…あのおばさん、また居る。
何してんだろ。
[眼に留まったのは目立つ紅を纏った女性。
中央公園を通る度に見る姿に、俺は疑問の声を零した。
どうせ、相手には聞こえないだろうが]
─中央広場─
[気づけば、出掛けにくわえてきた一本は既に灰。
ため息と共に携帯灰皿にそれを放り込み、残二本の内一本に火を点ける]
現れたのはここ数日。
時間を問わず、桜の傍に。
……仕事のタネになる手合い……なら。
面白いんだがなー。
[そう思ったからと言って、確かめるために声をかけるかどうかは別問題、なのだが]
―自宅前―
じゃーな。
次も遅れんなよ。
[ネタ合わせを終え、相方を見送った。
背中が見えなくなった頃、軽く首を振る]
……ついでだし、散歩にでも行くか。
[一度部屋に戻る。
鍵と財布と携帯、それと小さなノートを携えて、アパートの階段を降りた]
─中央広場─
[しばらく紅の人物を見つめて居たが、直ぐに視線を逸らした。
見ていても何か面白いわけでもない]
…それよか、厄介なのに見つからないようにしねぇと。
[厄介な者、それは近所の知り合いだったり、徘徊している指導員だったり。
知り合いならともかく、指導員に鉢合わせたくはない。
既に陽も暮れた時間、この外見では中学生とも見られてしまう。
何より、身長で間違えられるのが嫌だった]
[きょろきょろとやや不審気味に周囲を見回しながら、オレは中央広場内を移動し始めた]
─中央広場─
ま、これでなんか起きるようなら、突っ込み入れに行くのもいいか。
[身近な超常現象はメシの種、と言い切れる身。
故に、呑気にこんな事を呟いて]
さて。
……真面目に、買い物を考えるか。
[煙草とコーヒーだけ買って帰ればいい、という訳ではない、という事に。
今更のように気がついて、歩き出す。
もっとも、かなり前方不注意気味なのだが]
―中央広場付近―
[途中の自販機で缶コーヒーを買い、手を暖めながら歩いて行く]
……お。
[広場に差し掛かる頃人影を見つけ、眼鏡越しに目を細めた]
ありゃ、あいつかな?
[それが知り合いの姿だと判断し、にやりと悪戯めいた笑み。
他の人影には今は気がつかず、足音を忍ばせながら背後に近付いた]
─中央広場─
[周囲を確認しながら移動した、はずだった]
……っ!?
[居る人を避けて移動したつもりが、相手も動いたために避けられずにぶつかった。
思いの外勢いも付いてしまい、オレは相手に弾かれて尻餅をつく]
……ってぇ……。
[オレはぶつかった相手をハンチング帽のつばの影から見上げる。
軽く、睨みも向けていた]
─中央広場─
……っと!?
[やや上向きの視線は、前から来る相手を捉えきれず。
伝わる衝撃に、後ろに軽く、よろめく]
あっぶね……!
[そんな状況でも煙草は落とさないのはスモーカーの意地か。
数度瞬き、視線を下に下げれば帽子の影から睨み上げる視線]
あー……大丈夫かー?
[呑気な口調で問いかける。
勿論というか、この状況で後ろに意識を向けられる余裕は、ない]
─中央広場─
……ちゃんと前見て歩けよ。
その顔についてる眼は節穴か?
[呑気な口調が癪に障り、オレは剣呑な言葉を口にした。
立ち上がりながら、尻についた砂を払い落す。
立ち上がっても尚見上げなければいけない相手に、ハンチング帽のつばで隠すようにしながら顔を顰めた]
─中央広場─
前は見てたが、上向き修正がかかっとった。
[剣呑な口調を気にした様子もなく、返す言葉はさらりと軽い。
180まであと僅か、という長身は自然、相手を見下ろす形となる]
で。
怪我はないのか。
[相手の心理など知る由もなく。
再度、投げる問いはあくまでのんびりと]
─中央広場─
っ……!
[オレは強く唇を噛んだ。
相手の言葉は暗に見えなかったと言っているようなもの。
腹立たしさが湧き上がって来る]
……てめぇが怪我しろ!!
[呑気な口調が苛つきを助長させる。
オレは声をかけて来る相手の脛を思い切り蹴り飛ばしてやった。
当たろうが避けられようが捨て台詞を吐いて、相手の横をすり抜けようと駆け出した]
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