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[依頼主の代理人から報酬を受け取り、それで簡単な食事を済ませ、ねぐらへと戻る。
下街の片隅、闇に埋もれそうな小さな家へ。
雨風を凌いで寝る以外の用途を求められていないそこは酷く簡素で。
そして、空虚。
そこに棲む彼の、虚ろな蒼い瞳のように。
その虚ろな蒼い闇に抱かれ。
胎児のように身体を丸めた彼は、すぐさま眠りへと堕ちる。
いつもの事。
だが。
次の目覚めは、『いつも』とは違った]
[目覚めた時に感じたのは、柔らかさと暖かさ。
それは、『あり得ない』感触]
……?
[そのあり得なさに違和感を感じつつ、目を開けて周囲を見回せば、そこは]
……どこだ、ここ……?
[掠れた呟きがもれる。
そこへの移動は、一体いつの間になされたのか。
巨大な窓──否、硝子張りの壁を持つ、豪奢な部屋。
一目で高級品とわかる家具が設えられたそこは、眠りについた棲家とは余りにもかけ離れていて。
……未だ、夢の中にいるのかと。
普段の彼であれば、考えもしないような事が、脳裏に浮かぶ]
……なにが、あったんだよ……。
[困惑した呟きと共に柔らかなベッドから降りて、硝子張りの壁へ寄る。
その向こうに広がる景色。花の咲き乱れる庭は、これまでは無縁だった世界と思わせた]
訳、わかんねぇな……。
[苛立ちを込めて言いつつ、こちらは、普通の壁についたドアに目を止めて。
右の手首に愛用の銀糸が収まっているのを確かめてから。
音もなく、廊下へ出る]
……ん?
[その時、目に入ったのは、扉の横の表札]
Name:アーベル=ゲシュペンスト Abel=Gespenst
Sex:male
Age:22
部屋割:C
その他:
糸を操る暗殺者『銀糸の幻魔』として裏通りにその名を知られる青年。
幼い頃、唯一の肉親だった母を亡くした後、持って生まれたその身体能力を暗殺者ギルドの幹部に見込まれ、生きるために暗殺者となる。
右の手首には仕事道具である銀糸を、首には古びた銀のロザリオを、常に身につけている。
……なんだ、コレ?
なんでこんなもんが……。
[それを確かめるためにも、行かなくてはならないか、と思い。
しん……と静まり返った空間を、足音一つ立てずに移動する。
気配を隠すのは、『仕事』上慣れていた。
少し歩くと、階段が目に入り、それを降りた先は、やはり豪奢な雰囲気の広間で。
そこには、見知らぬ男が一人]
……あんたは?
ここは……一体、どこだ?
[低く投げた、問い。
それに対し、男は、自分は君たち……つまり、彼と同じ立場の者である、と。
そして、この場所は神の箱庭である、と。
簡潔な口調で答えを返してきた]
……はあ?
訳、わかんねぇな……。
[抽象的な物言いに、やや苛立ちを感じつつも、大した情報は引き出せそうにない、と判断してそれ以上は聞かず。
開いている椅子の一つに座って、周囲の様子を伺い始める]
何が何だか……っとに。
[そう、呟いてはいても。
少なくとも、ただ退屈なだけの日常とは、かけ離れた事が起きると。
そんな確信めいた思いは、必要以上の不安を感じさせる事はなかった]
旅人 ハンス が参加しました。
それは小さな町の安い宿屋。
その一室からランプの明かりが漏れている。
一人の男が備え付けられた小さな机に向かい、
ノートに鉛筆を走らせていた。
時折考え込んで、鉛筆を横に線を引き、書きかけていた文を消す。
紙ごと捨てはしない。それは高価な消耗品であるから。
夜も更け、暖房器具のない寒い部屋に、男のはく息が白い。
もうすぐ冬だろうか。
時折指を丸め込んで拳状にし、
手をあたためながら男はノートを塗りつぶしていく。
違和感。
見つめていたもの…彼のノートはかわらない。
彼のつかんでいた鉛筆も。なにもかわらない。
それなのに全てが。
全てがおかしい。ぐらりと眩暈。
全身を徐々に固めていくようだった気温がかわり、
階下の酒場の喧騒が消えた。
クッションのない裸の木の椅子に座っていたはずなのに、
下半身に感じるのは、絹の丸みと暖かさ。
違和感。
[視線を上げ、悲鳴をあげた。
先ほどまで隣の家の壁が迫っていたはずの窓は消え、
ガラス張りの壁には、
月光に照らされるうつくしい中庭がひろがっていた。
彼がノートを広げていた机は、
その縦横が二倍もある磨きこまれたマホガニーの机に変り、
備え付けられた椅子も同じく、高価なものだった。]
これは…?
ここは…?
[本棚に並べられた本たちに、視線を釘付けにしながらも、
危機感が勝ったようだった。
男は鞄からごそごそとナイフを取り出して武装すると、
手をかたかたと震わせながら(いざ何かが出たとして、
その震える手ではナイフで自分を傷つけるのがせいぜいだろう)、
部屋のドアをことごとく開けていく。
シャワールーム、クローゼット、そしてカーテンの裏側まで。
一通り調べ終え、ドアに向かう。
慎重に扉を開けるも、外には誰もいなかった。
ただ、表札だけが目に入った。]
Name:ハンス=バチャーニー Hans=Batthany
Sex:male
Age:28
部屋割:E
その他:
紀行記作家。
周辺諸国を回り、その紀行、風土、土俗的習慣等を本にまとめ、職としている。
人気、ギャランティは中の下。中堅にはなりきらない。
家族関係は両親と妹。
ただし母と妹は既に病死しており、父親との連絡は途絶えている。
[どこからか聞こえてきた話し声に身を固め、
部屋に隠れて息を潜める。聞こえてきた単語は
『箱庭』『出られない』『少女の首』そして『神』。
意味がわからない。嫌悪感。恐ろしい。
階下に下りる勇気などない。
部屋に閉じこもり、
持ち上げられる家具類でドアをふさいで、息を吐く。]
少女 ベアトリーチェ が参加しました。
研究生 エーリッヒ が参加しました。
・・・・・・
[きっと他人が見ていれば物凄く間抜けな面に見えるのだろう。今の僕の表情は。
ベッドから半分起き出した姿勢のままで、視線はぼォと宙の一点で止まり、口はぽかんと開かれて。何処からか『目が覚めたらそこは全くの別世界でした。』なんて声でも聞こえて来そうだ。]
[問題は、それが比喩表現でも何でもないって事なのだけど。]
[淡いオレンジ色の光と共に僕の目に映った光景は、眠る前に映した筈のそれ――小さな書店の二階の小部屋からは明らかにかけ離れていた。
何時もより広く柔らか過ぎるベッドから降ろした爪先に触れるのは、硬い木の床ではなく歩き辛そうな白の絨毯。良く磨かれたのであろう硝子のサイドテーブルの上には小さなランプと、水差しと伏せたコップも御丁寧に置かれていた。寝起きで喉が乾いてはいたが、飲んで良いのかは分からない。
部屋の一角にはシャワールームらしき空間があり、黒光るクローゼットや箪笥、調度品一つ一つからその高価さが伺えた。
だが問題は其処ではない。]
何なんだよ、此処・・・・
[頭を片手でわしゃりと掻いて、漸く出た声は掠れていた。]
[今真正面に鏡があったなら、不機嫌を露にした男の顔が映ったかもしれない。
別に部屋自体が僕の好みにそぐわないとかそういう訳ではない。だが此処は僕にとっては非日常な空間なわけで。第一昨日はきちんと家で眠りについた筈。こんな場所に居る理由が全く思い当たらない、それが気に食わない。
ベッドに手をついて立ち上がった。何時もと環境が違う所為か、関節が少し痛んで眉を寄せる。
さっさと家に帰って、少し硬めのベッドで寝たいものだ。其方のほうが僕には合っている。それに両親は――]
[ぐるぐると巡る思考の傍ら、視界に入った扉に手を掛ける。
ドアノブを回せば鍵の掛かっていない扉はあっさりと開いた。]
職人見習い ユリアン が参加しました。
[扉の真横には僕の名前と顔写真の入った表札。まるで見た事もないこの部屋が僕の家だとでも言わんばかりに、当然のように。
不快感を通り越して気分が悪くなりそうだった。]
Name:エーリッヒ=カルゼン=ブラッカー
Erich Callsen-Bracker
Sex:male
Age:23
部屋割:H
その他:小さな田舎の村で祖父の代から受け継がれた小さな書店を営む。年老いた両親と3人で暮らしていた。
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