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……登っても良いかな。
[無人となった灯台。
その展望台から海を眺めたいなと思い、オレは入口の扉に手をかけた。
が、そこにかかる、オレを呼ぶ声]
うわぁ!
……んだよ、自衛団の。
[扉にかけていた手を思わず引っ込めた。
振り返ると、オレの後ろに自衛団員が一人立っている。
オレは少しバツ悪く思いながら、何か用かと問い返した]
………あそこの、元宿屋に集まれ?
何で、また。
…いやいやいや、ちょっと待て。
容疑者ってどう言うことだよ。
そりゃ、確かにあの日の夜に外には出たけどよ。
オレが親父と喧嘩して家飛び出すのなんて茶飯事だろ!?
[老灯台守を殺した容疑者として呼びだされていると告げられ、オレは少し声を荒げた。
容疑者と言われて気分が良いわけがない。
オレの嫌いな、中性的な顔の眉間に皺を寄せた]
……分かったよ、行きゃ良いんだろ。
…荷物も持ってけって、どんだけ拘束する気だお前ら。
[自衛団長の指示だと言われればそれ以上逆らう事が出来ない。
昔から、あの爺には頭が上がらなかった。
渋々了承の意を示すと、団員はマジマジとオレを眺め見て来る]
んだよ。
………るせっ、これ以上伸びなかったんだよ!
あとその愛称で呼ぶな!
[年の近い団員の言葉を聞いて、オレは相手を唸るような視線で睨んだ。
男にしては低めの身長、長い髪、中性的な顔。
そのせいで、周りから呼ばれる愛称がエルザと言う女性的なものになることが多かった。
今ではそれが周りにウケることも多くなってきたため、我慢するようにはなってきたけれど。
からかわれるように言われるのはやっぱり今でも嫌である]
今度言ったら顎に頭突きして舌噛ますからな。
覚悟しとけよ。
[そう言い捨てて、オレは団員の横を擦り抜け一旦自宅へと向かった]
─ →自宅─
[家に戻るとオレが帰って来たと知った両親が少しビクリとしながらこちらを見て来た。
オレは冷めた眼でそれを見遣り、自室へ向かって荷解きしていなかった自分の荷物を全て持つ]
話、聞いてんだろ。
岬の宿屋行って来る。
[冷めた眼のまま両親にそう告げ、オレはさっさと家を出た。
どうせ直ぐに村を離れるつもりだったから、容疑が晴れたらそのまま村を出る心持ちで]
─ →元宿屋─
[岬の宿屋に到着すると、そこに居た自衛団員に身上書の提出を求められた。
仕方無しにペンを取り、カウンターで用紙に書き込む]
チェックインみてぇだな。
集められた理由は物騒なもんだけどよ。
[皮肉を込めて言った言葉に団員はどんな表情をしていただろうか。
オレは用紙に書き込んで居たから、見ることは無かった]
で、部屋に案内でもしてくれんの?
……勝手に選べってか。
はーいはい、オレが悪ぅござんしたよーだ。
[軽口を叩いたら睨まれたんで、おどけながら謝っておいた。
もちろん反省はしてねぇけどな。
その間に、書いた身上書は団員の手に渡っていた]
5人目、シスター ナターリエ がやってきました。
― 教会/正門 ―
[真白な雪が一面を覆う。
肌を刺すような空気の冷たさもこの季節ならではのもの。
陽の光を弾いて煌く新雪を踏みしめればさくりと心地よい音がした。
白銀の世界にぽつと佇むのは修道服に身を包んだ女。
ヴェールから零れた柔らかな髪は春の木漏れ日を思わせる。
荘厳な教会から連なる雪の小道を歩み門へと向かう。
袖口から覗く指先が開かれたままある門へと触れ掛けたその時、
女の眼下にすっと影が落ちた]
――…あら、自衛団の。
[顔を上げると其処には見慣れた顔がある。
女は軽く握った手を口許に宛がい相好を崩すが相手の表情は険しい]
どうかなさいましたか。
顔色が優れぬようですが……。
[ゆうるりと小首を傾いで案じるように自衛団員に手を伸ばした]
────────────────────────────
■名前:エルゼリート=フォーレルトゥン Elserid=Vollerthun
■年齢:28
■職業:渡りのバーテンダー
■経歴:この村の出身。漁師である父親の跡を継ぎたくないからと16の時に村を出て、近くの街でバイトと修行を兼ねてバーテンダーの仕事をする。その時は時折村にも顔を出していた。
20の時に街を離れ、本格的に放浪開始。様々な街を訪れ腕を磨いて行った。その頃になると村にはほとんど顔を出さなくなる。今回戻るまでに2・3 回あったかどうか程度。
今回村に戻ったのも、移動中の気紛れで寄っただけ。
幼い頃から華奢で、顔立ちも中性的であったためによく女性に間違えられる(身長は160〜165cmくらい)。
その様相と名前から、からかわれて愛称がエルザとなることもしばしば。
当人は女性と間違えられることを気にしている模様。
────────────────────────────
6人目、双生児 エーファ がやってきました。
―元宿屋へ―
[少し前に降り積もったばかりの雪の、既に何人もの足跡で固められた道]
[かつ、かつ]
[もう足跡すら付かないその上を踏んで、エーファは言われた場所へと向かっていた]
[はふ]
[吐息はすぐに真白に溶けてそれと分からなくなる]
[時折足は止まり、赤は目的を探して彷徨い]
あっちかな……
[小さな、遠慮するような声が洩れた]
[ず]
[鼻を啜る音がして、足は再び動き出す]
[触れる前に女の手は自衛団員の其れによって遮られる。
驚きに目を丸くして行き場を失った手を自らの胸元に宛がえば
銀で出来た十字架が重ねた指先に触れた。
彷徨い伏せられた眼差しは白に伸びる影を映している]
あ、あの……っ。
[何か気に障るような事でもしてしまっただろうか。
そんな考えが浮かび記憶を辿り思考をめぐらせるが
ただぐるぐるしてしまうだけで何も思い当たりはしない。
其れを中断させたのは自衛団員の声だった]
……え、その日の夜は……確か、遅くまで教会で繕い物をしていて……
ええ、一人でです。証明できる人、なんて……いません。
あの、それがどうかしたのですか……?
[尋ねられた夜の事を思い出し紡いだ言葉は何処か頼りない。
不安げに揺れる眼差しを向ければ告げられたのは事務的な言葉。
老灯台守殺害の「容疑者」として岬の宿屋へと向かえとの事だった]
7人目、商人 ゲルダ がやってきました。
― 自宅 ―
その日? あぁ、この家に居ましたよ。
証明できる人なんているはずもないですよ。わかっているんじゃないんですか。
そもそも僕が戻っていることを知っている人も少ないのに。
[八年も村には戻っていなかった。戻ってきたのは、少し前の話。
必要最低限にしか挨拶をしなかったのには理由がある。
どうせまたすぐに出て行くことと、それから、]
――うちの親の心中だか痴情の縺れだか、まだ覚えている人も多いでしょう。
わざわざ傷を抉りにいきたいなんて、僕はそんなに莫迦じゃない。
帰ってることを知らない人のほうが多いんじゃないかと。
へぇ、容疑者なんですか、僕。
まぁあの岬には因縁がありますが――…。
可愛くなくなった? ――ご冗談を。
そんな可愛い少女だった僕なんて、もう十年以上は昔の話ですよ。この村で生活していた時だってずっとこうだったと思いますが。
[変わったと嘆くような自衛団員に、あしらうように笑ってみせて、ゲルダは踵を返す。
慌てるような自衛団員に、ひらひらと後ろ向き、片手を振って]
ちゃんと行きますよ、あの、元は宿屋だったところしょう?
安心してください、あの浮気女みたいに隣町に男なんていませんから。
それともあの男みたいに、人生を悲観して死ぬこともない。そう言えば良いですか?
[皮肉げなアルトの声は、リビングに入ってゆく。
団員は追いかけなかった。ただ、部屋を出てくるのを待ち、しっかりと現地までは連行するようである。
この村を出てから知り合った商人の相棒との待ち合わせは、半年後。
それでも村に長く滞在するつもりはなかった為に、商売道具や衣類はトランクにまとめられている。
他の部屋も、戻る前とは違い、埃一つない。調達品が置かれたままの両親の部屋も]
あれか。新婚の邪魔をするまいと、相棒と奥さんを二人にさせたりしたからこんなことになったのか。
善行なんてするもんじゃないな。
― →元宿屋 ―
[到着すると渡された身上書。
慣れた様子ですぐに記入して、自衛団員に渡す。]
はい。
部屋はどう選ぶとか、決まってるんですか。
僕は、…上から覗きこむとほら、両親が居るように見えるんで、出来れば反対側が良いんですけどね。
――
■名前:ゲルダ・エーベルヴァイン Gerda Eberwein
■年齢:26
■職業:商人
■経歴:生まれは村。〜18歳まで村育ち。
村を出る前に両親が死んだ。その後親類だという人に引き取られて町へと行ったが、数週間で音信不通になった。
現在は商人として、普段は相棒と旅をしている。現在、相棒は奥さんと他の場所に商品調達に。半年後に待ち合わせ。
― 村の外れ→村内 ―
小物一匹でも居れば、夕飯に彩が沿えられたんだケド。
[ぶつぶつと呟きながら手ぶらで村へと戻ると、家路の途中で自衛団員に呼び止められその足は止まる。
正直あまり折り合いの良くない自衛団員。
こりゃ帰るのは遅くなるかねぇと内心ぼやきながら、事のあらましをへーぇと聞いていた。
自分が容疑者の一人だと告げられれば、一拍置いた後に皮肉気な笑みが口の端に浮かんだだけだった。]
それから暫くの後、上申書には以下が記載され提出される事になる**
――――――――――――――――――――――――
■名前:アーベル=グライス Abel=Greis
■年齢:25歳
■職業:下男(住み込みの下働き)
■経歴:村の外の人間で、ある日村へとやって来てとある家で働いている。
村に来る以前は放浪生活を行っており、各地を転々としていた。
各所で様々な職を経験していた為、大抵の事は器用にこなす。
狩り暮らしの経験もあり、村周辺(時には遠出してまで)でも趣味を兼ねて狩りを行っており、狩り用のナイフを常に携帯しているため自衛団とは折り合いが悪い。
――――――――――――――――――――――――
─元宿屋・広間─
[カウンターから離れて、オレは部屋の中を見回す。
しばらく使われて無いはずなのに綺麗になったもんだ、と心中で呟いた]
……お?
もしかして、エーリッヒか?
[見回した先に、先に来ていたらしい金髪の青年を見つけた。
昔の面影を探して、思い当たった名を口にする。
最後に会ったのは12年前だったか、8年前だったか。
…忘れたな]
─元宿屋・広間─
[身上書を渡した後は暖炉傍にさっと陣取り、手持ち無沙汰に持ってきた本を開いていた。
そうなると、中々周囲に注意に行かないのはいつもの事。
故に、呼びかけられてもすぐには反応せず。
膝の上の真白の猫がなぁ、と鳴いて足を叩いてようやく活字から翠をそらした]
あれ……。
もしかして、エルゼ兄さん?
[顔を上げ、視線の先にいた者。
覚えのある姿に、ゆる、と首を傾げて呼びなれた名で呼びかける]
[呼び出しがかかったのはつい数時間前のこと]
[既に耳にしていた、老灯台守が殺されたという話]
[その夜に何をしていたか、との問い]
[生来内向的な少女は団員の険しい顔に怖気づいたか]
[懸命に返す言葉は次第に詰まり、最後には俯いて黙ってしまった]
[両親がいたなら娘を庇っただろうが、生憎その日は家を空けており]
[結果無実を証明することができずに、今に至る]
[そっと顔をあげて相手の顔を見る。
向けられる眼差しはいつもとは違い厳しいもののままだった。
からかうための冗談などではない事はそれで知れて
指先に触れる銀の十字をぎゅっと握り締めた]
――…わかりました。
[此処で何を訴えても無駄だろう。
諦めにも似た色を浮かべ小さく頷き了承を示す]
遺憾ではありますが仕方ありません。仕度してまいります。
そんなに怖いお顔なさらないで。
この足で自衛団の方から逃げられるなんて思いませんから。
[そう告げれば自衛団員の視線は女の左足へと向けられた。
小さな頃に岬で怪我をして以来庇うようになった左足首。
日常生活には支障はないが村の者なら誰しも知るだろう事。
相手に一瞬過る同情的な眼差しにゆると頸を振ってから
ふわりと淡雪が溶けるような笑みを向けた]
―元宿屋―
[漸く着いた慣れない場所]
[中からは人の話し声がした]
[少し思い悩むように立ち竦んだ後、エーファは意を決して扉に手をかけ]
[ぎぃ]
[古い扉の軋む音に身を竦ませ]
[ばたん]
[閉まる音にまたびくついた]
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