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[ドアをゆっくりと開けて中へと]
なんだ、着替え中じゃないのかい?
それは残念。
…けどまあ、ずいぶんと派手に踊ったみたいだねえ。
[双魚の姿を見ながら]
誰とチークを踊ったんだい?
あちらさんからのお誘いでネェ。
まさかあそこまで情熱的だとは思わなかったさね。
[軽口には軽口を。
肩を竦めて見せたが、問には目を細めて]
…天秤宮のレッグ。
あははは。
なるほどねえ。
さすがに若いだけあって…いや若かったって言うべきか。
[警戒を感じ取ったのか]
安心しなよ。
今なら君を人形にするのも可能かもだけど。
怪我してるレディに手を出すほど無粋じゃないさ。
…それと手負いの獣に手を出すほど馬鹿でも無い。
[口元にはいつもの笑み]
アンタが紳士でありがたいこったよ。
ありがたく少し体勢を崩させてもらうさね。
[薄く笑んでみせ、傍らの椅子に寄り掛かる。
なるべく表には出さないようにするものの、消耗はまだ大きい]
双児の。
レッグと白羊の…エドガーが裏切り者だと言ったら。
アンタは信じるかい。
[緊張を押し殺しながら低く問う。
目の前の男が三人目でないという保証はどこにもない]
シャロンの傍にあった陥没痕、それができる動きをレッグがしてのけた。
確かに同じような跡ができるのをアタシは確かめた。
もっともその跡も爆風で吹き飛ばされちまっただろうけどネェ。
これをどう判断する。
…信じる理由は一つも無いねえ。
けどエドガーが裏切り者なのは確定だろうさ。
ことここに至ってはね。
…まあ、ただ。これは予測でしか無いけども。
君があっち側ならもっとスマートに片付くだろさ。
爆風で証拠が消えているのが証拠というかねぇ。
つまり「殺る時に痕跡が残る」奴がやったって事。
…もっとも君の場合も「残り香」ていう素敵な痕跡を残すだろけどさ。
今はまだ君の言を信じるだけの要素は無い。
だけど疑うだけの要素も無い。
どっちの可能性も考えとくさ。
[袖口から零れ落ちた紙が、ふわりとまってミュウの傷口に貼りつく]
簡単な止血だけしといたげるよ。
情報料はちゃんと払う主義なんでね。商売柄。
フフ、まあそうだろうよ。
下手に信じられたらそれはそれで逆に危険さね。
それで十分だ。
[紙が体に向かってくれば鋭い視線を返し回避しようとするが、その動きは若干遅く。
続いた言葉と実際の感触に力を抜く]
ああ、悪いネェ。
…少し休ませてもらえるかい。
[一度認めてしまえば疲労は澱の様に身体に付き纏い、気だるげな様子で溜息をついた。
了承を貰えればノブを送り出し*休息と回復を図る*]
ああ、ゆっくり休むといいよ。
少なくとも今は。ね。
[部屋を出ると、これからの行き先を考えた]
白羊に今、単独で近づくのは危険だろうしねぇ…。
双魚の言が本当ならば、否、本当で無いとしても。
現状、彼は『片手』状態ではあるけども。
――数年前。
「放せ! 放せよ! お前等! ルイをどうする気だよ!」
叫び声は、かつてはアメリカと呼ばれた国の片田舎に響いた。
だが、声に反応して助けようとする人影はない。
こんな小さな村では、国に逆らう事はイコールで死に繋がる。
だから、軍が動こうが、マフィアが画策しようが、村人は家から出てこない。布団を被り、カーテンの隙間から覗き見、そして心の中で薄っぺらい謝罪を述べながら、ただただ自分達に不運がかからない事を祈り続けているだけだ。
例え、それが両親を亡くし、姉と弟と妹の三人で精一杯生きてきた姉弟であっても、差し伸べる手は一つもなかった。
それゆえ、すぐに身を挺して弟と妹を守ろうとして気絶させられたナナエの代わりに、必死に妹を守ろうとしたレッグの叫びは、燃え盛る家と共に夜空を焦がした。
「ルイを放せ! このやろう!」
レッグの激昂が飛ぶ。
だが、ルイを小脇に抱えた全身黒ずくめであり、また手には様々な銃器を持った連中は、無感情な眼差しで、レッグをただ道端の小石の如く見下していた。
「全員撤収。サンプルγ-7を連れて行け」
「な! か、返せ! ルイ! ルイィ!」
レッグを地面に押さえ込んでいる一人を除き、連中は自分達が乗ってきた車両に向けて踵を返した。
それを見て、レッグは動かないまでも両手足を必死にバタつかせるが、瞬間、押さえ込んでいた一人の鉄拳が首元に落ちた。
――レッグが気付いた時、全焼した家の前で、涙でボロボロになったナナエの表情が飛び込んできた。そして、この瞬間から、攫われたルイを助けるべく、姉弟の闘いが始まったのだ。
姉弟は、最初ルイを攫った一味を調べるべく、村から近くの都市部へと移住した。そこで己たちの体を時に売る程の苦痛を受けながら、とある情報屋から、ある組織の情報を聞き出す。
その組織は各国の暗部に通じており、そこで異能者を使った暗殺集団を内部に作っていると。
だから、潜入するために、それぞれの技能を磨く事にした。
元々家庭的であったナナエは、旧イギリスにある乳母専門の教習学校に進み、乳母資格を取得。同時に近接戦闘を習得し、組織のメイドとして潜入する事に成功した。もちろん、そのままでは疑われるため、元々持っていた戸籍は全て捨て、『マーユ=エングランス』として。
レッグは、同じく旧イギリス軍へ入隊。そこで銃撃、機械工作、マーシャルアーツとコマンドサンボを取得。合わせて外国人部隊に所属していた友人から、彼の故郷であるオキナワの『唐手』を習った。
そして脱退後に殺し屋稼業に手を染め、その実績により組織にスカウトされた。
もちろん、この後も組織によって様々な苦行を与えられるが、それもルイの情報を掴むために、文字通り血の池の中を泳ぐように進んでいった。
そして、ナナエはとある情報を耳にする。
それは異能者を集めて生体改造および一般人に異能を移植や胎児に遺伝子を組み込む事で、人工的に目的の異能者を作成する『第七生体研究所』の噂である。
『第七生体研究所』はボスの直轄組織であり、そこに口ぞえを行うためには、それなりのポストが必要であった。
レッグは決意した。
どんな無謀とも言える殺しを受け、全身が血に塗れても歩みを止めなかった結果、若くして幹部の椅子につく事ができた
ある時、レッグは自分の目に何か映る事に気付いた。
それは特にターゲットから攻撃を受ける時に見えた、
最初は検討もつかなかったが、しばらく気をつけて見ていると法則性がある事がわかった。
殺気と死を糸として認識する。
それが自分の目に映っていたものの正体だった。その後も研究を重ねて、糸の色や発生条件が相手の殺意と命中箇所による事など。
それを使って更に自分の手を血の染めて――。
気付いた時には、もう後戻りも、三人で幸せな生活を営むという夢も、できないのだと……。
―廊下―
[力の衝突と消滅を感じれば、双魚の部屋へと向かったマイルズとは別に自分はもう片方の力の衝突を感じられたフロアのほうへとむかう。
ポケットから懐中時計を取りだしパチンと蓋を開けてから軽くため息をひとつ]
…さて、うちのお猫様はどちらにおいでになるのやら。
[探すのが面倒だとでも言うように肩をすくめながら歩みが緩むことはなく]
[乱舞する黒い羽に紛れて姿を消したディーノ
ふぅと軽く息を吐くと、右手の変異を引っ込める
何度か手を開閉した後、エドガーとアヤメの元に歩み寄る
エドガーによって目を閉じられたアヤメを静かに見下ろしていたが]
……爺ちゃん。お姉様の遺体、私が預かっても問題ないよね?
[そう言ってエドガーを見る視線は、言葉とは裏腹に有無を言わせまいとする強さ]
─廊下─
つか……やべ、きっつ……。
[白猫を帰すべく、数歩歩き出そうとした矢先、感じたのは眩暈]
やっぱコレ……消耗でかい……な。
[膝を突いて、一つ、息を吐く。
離脱する時に行ったのは、時間跳躍。
ほんの少し先の、可変の未来の一つへと強引に飛び込む、というもので]
まずいな……こんな消耗してたら……。
[事態に、対処できない、と。呟く表情は、いつになく真摯か]
[――あれからどれほどの時間がたったというのか。
また闇にとらわれかけて、それを振り払う。
大切な人。
そんな人は居ない。
だからこそ組織に居た。――便利だからだ。
と、猫が気になって。
気付けば、ディーノの姿があった。
――と云うより、猫の姿だが。]
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