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[青年の視線は目の前の屋台に注がれていて
近づくベアトリーチェに気づけるわけもなく。]
…………
[最初、青年は自分に声がかけられたと認識できず]
[けれど、記憶に新しい、柔らかな金糸の髪と、穏やかな声]
…………
………………
……………………
[少しづつ、映像と音声が脳内で情報に結び付き情報を呼び覚ます。]
[ものすごい沈黙だった、と思った。
やっぱり不審者だった、と思った。
不審者には近づいちゃいけないといわれてた。
子供はそう思ったけれど、もう遅かった。
でも、そういった表情はまったくださずに、
こくり。うなずいた。]
こんばんは、アーベルさん。
ええと……
…………昨日のお礼です。
[これをほかの人にあげて、
彼には、案外、パフェを買ったほうが喜びそうだと
*思わなくもなかった……*]
……昨日の…?
[差し出された綿飴を、覚醒したばかりの脳みそはつい受けとてしまったが
礼をされる理由がわからず首を傾げる。]
[ベアトリーチェ曰く、元紅茶の礼のようだが…]
俺は、既にパンをもらったのだが…
[そう言っても、ベアトリーチェはにこにこと
…でも、けして綿菓子の返却を許す様子は微塵もなく。
あれな所を見られた後とあって、なんとなく弱みを握られた気分で
青年は大人しく綿菓子を受け取る。]
[それはそれとして、と。
果たして青年が何に気をとられていたのか、を改めて見やり]
…………。
[沈黙数瞬]
固まってないで買いに行きゃいいだろーに。
[素でぽそ、と呟く。
あの状況でいけるのか、と問われれば、素で何か問題?と返せるこいつもどうかと言うか]
たっこやーき♪ たまねーぎ♪ ピーマンにんじん…
[謎の唄(作詞作曲・出鱈目)を口ずさみながら、喧騒満ちる通りを歩いていく。
……どうやらあの後、無事に帰省したらしい。
親に貰った小遣いをポケットに早速祭りへと繰り出した彼女の手は、
たこ焼きのパックの他にも、既にリンゴ飴やら風船やらで埋まっていた]
次は何食べよっかなー。……とと、おろ?
[育ち盛りの彼女の胃は、まだまだ満たされない様子。
品定めの様に並ぶ屋台を見回して、ふと見覚えのある姿が目に入った。]
―――ユリアンにぃ?
に、アーベルにぃ…と、ベアちゃんだー。
[覚えてるー?と ひらりと手を振って近づく。
…馴れ馴れしい呼び方なのは最早彼女の癖らしい]
[笑むベアトリーチェの頭を撫ぜつつ、ユリアンの方を向く。
ユリアンは青年の視線の先を追って、硬直の理由を悟ったようで。]
[硬直した理由は察したようだが……]
……行けるわけ…ないだろう
[ユリアンの呟きに憮然と言い返す。
女装で舞台に立つことだって気にしない(違)彼には他愛がないことでも
青年にとっては、とんでもない無理難題で]
[屋台の前で不審者然と硬直する隙に買いに行った方が
断然恥ずかしくない…ことには気がつく様子はない。]
[不意に、陽気な声で呼びかけられ]
……お?
[瞬き一つして、そちらを見やり]
リディかぁ。祭り見に戻ってきたんか?
[色々と抱えた様子に、笑いながら問いかけ]
ていうか。そこにぼさっと突っ立ってる方がはるかにどーかと思うけど。
[憮然としたアーベルの言葉にこう返す。肩の相棒も、同意するようにきゅう、と鳴き]
[夜の帳が下りて陽の光は消え失せるも、未だ賑やかな村内は、天に満ちる星だけでなく、ランプの灯とそれを受けて煌めく装飾の色とりどりの輝きで、幻想的な美しさを魅せる]
……………
[彼はその光景を、人込みから少し外れた場所で眺めていた。
薄明かりに照らし出された横顔には、長い睫毛によって作られた影が下り、些か物憂げにも見える]
認めたくない事実だ。
[小さく、口唇を震わせ音を紡ぐ]
[認めたくない事実ではあるが、――迷った]
[食後の休憩の後、体調の優れない母親に代わり、彼は、彼女の生家に挨拶に行く事になった。
明日に回すべきだったかとも思ったが、妖精祭りの準備に向け、益々忙しくなる事は目に見えていた。それに彼と祖父母とが顔を合わせるのは初めての事で、前々から早く顔が見たいと言っていたと、母から伝えられたのだった。
夜分にという不安はあったが、侍女であるユーディットもいるのだし、と。
そういう訳で、彼は再び、村の中を歩いていたのだが。
ユーディットとはぐれ、うっかりと地図を無くし、迷ってしまったのである。
彼とて、何処かの騎士とは違い、人並みの方向感覚は持っていたが、何分土地勘が無いのだし、この人込みである。迷ったって、仕方が無いのだ――多分]
[屋台を存分に楽しんだと言わんばかりの少女が
ユリアンとベアトリーチェと…そして青年を愛称で呼ぶ]
……確か…ティーレマンさんの所のリディ…だったか
進学で村を離れた…と聞いたが…退学したのか?
[舞姫候補だったリディと同名の少女の名を思い出す。
そして、彼女の背景も思い出し、それと彼女が村にいることが噛み合わなかった為
口をついて出たのは失礼な言葉]
おーう!祭りを見に、遠路遥々戻ってきましたともっ!
[笑いながら問いかけられれば、けらりと笑みを返し。
と、彼の肩に鎮座する山ネズミに気づけば小さく声を上げる]
わー!ヴィントだ!元気?あたしのこと覚えてる??
ヴィントもたこ焼き食べる?というか食べれる?
[きゃあきゃあと手に持ったたこ焼きを差し出しつつ、
アーベルの言葉を聞けば、ばっと勢い良くそちらを見やり]
なっ…!アーベルにぃってば、酷いー!
重い荷物を抱えて、短い休みに遠路遥々戻ってきた勤勉学生にっ!
……えっへへー、祭りがあるからわざわざ帰ってきたのっ!
[実際に荷物を抱えたのは、馬車と自衛団員の青年だが知る由もない。
むぅ、と膨れっ面を向けるも、次の瞬間には笑みを返して]
そのままずーっといたら、マジで怪しいヤツだっての。
[視線を逸らすアーベルに、さくっと一言。容赦なんてありゃしません。
それでも、一応切り上げたいのは察したらしく、ま、いーけど、と呟いて]
つーか、おま、ほんと賑やかだなぁ。
ま、祭りで元気がねーよりはいいけどなっ。
たこ焼き……食えると思うけど。ヴィント、大抵のもんは食べてるし。
[リディの明るい様子に、つられるようににぱ、と笑う。
肩の相棒は大きな瞳をくるっとさせた後、覚えてる、と言わんばかりにきゅきゅ、と鳴き声を上げる]
[ランプの灯りはきらきらと、柘榴石色の少女の瞳に光を映す。少女はゆっくりと辺りを見渡し、楽し気に歩き出す。ちらりちらりと落ち始めた雪が、紅いお下げにまとわりついて、白い粉砂糖をまぶした苺のようにも見えただろうか]
[…工房。竈の火は外と比べられぬほどに部屋の温度を高くする。
その中で、溶かした二色の色ガラスを合わせ…ゆっくりと膨らませていく]
…
[ある程度の大きさになると、くるくると棒を回しながら、雪水の中に浸した。
…ジュワァァァァ…
噎せ返るほどの水蒸気に目を細めながらも、棒を持ち上げると…すっかり冷めた濃い青から明るい緑へと色を変える球体のガラスがあった]
…ん。
[小さく頷くと、こん、と叩き…球体のガラスを落とす]
[周囲に視線を巡らせる]
[村の入り口だろうか。彼のいる布巾には特に灯りや装飾が多く、花を沢山あしらわれた、大きな門がある。恐らく、妖精を迎え入れる為のもの、ところか]
[となれば、目的の場所からは大分離れている事になる。
人の少ない方へ逃れようとしたのが、災いしたか。
冷静に、そんな事を考え。誰かに尋ねるのが手っ取り早いかと思う]
そうか…では、学校は随分静かになっただろうな
[賑やかに表情をコロコロかえるリディに、
短いながらも静かになる学校を思う]
しかし、祭りのためとは言え、重い荷物は大変だったろう。
お疲れさま…………お帰り。
[青年はそう言うと、リディの短い茶色の髪をかき混ぜるように一撫で。]
[妖精の国を彷徨う、異郷の姫のような気持ちで、色とりどりの飴細工や、ふわふわゆらめく風船の群れを眺めながら歩いていた少女の目に、柔らかい黄金の光が映る。どこか憂いを秘めた翡翠色の瞳に引き寄せられるように、少女は少年の方に足を向けた]
こんばんは、小さな妖精さん?
[先に作っておいた、持ち手の部分は馬の頭を模したガラス…
底の部分は芝が渦巻いているようなガラス…
その二つを球体のガラスの近くに置くと、球体のガラスに刃物で線を引く。
こっ…
軽く叩けば、線に沿ってガラスは二つに分かれた。
その断面をヤスリで削っていく。
…しばらくして、ガラスを置くと、手を振った]
…疲れた。
[四つのガラスをそのままに、竈の扉を閉める。
出てきた汗を拭うと、小さく息をついた]
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