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[人群れをすり抜けるようにして、ひょい、ひょいと歩いて行く。
さすがにというか、同じ方向に向かう人の数は多いが、特に気にした様子もなく、その足取りは軽いもの]
っと、お?
[不意に、その歩みが止まる。視線の先には、見慣れぬ男と馬]
……そっこのひとー?
そんなとこで、何やってんのー?
ん?
[段々不機嫌になる馬を宥めようとしていたら、何処からか声がした。
周囲を見回せば簡単にその声の主は見付かる]
……私かな?
[明らかに自分(+馬)に視線が向いている気もしたが、とりあえず聞いてみた]
[…コートに赤いマフラー。
顔半分をすっぽりと覆い、村の中を歩く。
その風景は、寒いとは思えないほど盛り上がっていた]
…
[その様子を見て、目元に微かな笑みを浮かべ…]
…
[馬と一緒にいる赤髪の男が目に止まった]
…誰、だっけ…
[村の者ではない…しかし、どこかで…
軽く首を傾げ、男を見つめた]
[彼はひとり、不機嫌そうな顔で村内を歩いていた。
防寒具にと羽織った、淡い茶色のオーバーコートの材質は見るからに上等なもので、素朴な村の雰囲気にはそぐわない。あの、浮かれた柄の法被の人間と擦れ違うと、尚更だ]
……………
[本来ならば、母親の生家に挨拶に行く以外、外に出る気は微塵たりともなかった。しかし、社会勉強だ、外で遊ぶべきだと彼女に促され、仕方なく出て来たのだった。
確かに部屋に居たとて、最低限の荷物しか持って来ていない今は、何度も読み返した書籍を読むくらいしか、やることはなかったのだが]
[とは言え、矢張り、気が進まない。
元々、一人で外を出歩く機会等なかった所為もあるか]
うん、そこの馬つきのヒト。
[言い方が思いっきり、ミもフタもない]
外から来たヒトっぽいけど、こんなとこで、何してんの?
[やや、首を傾げて問う。それに合わせるように、肩のネズミもきゅ? と首を傾げた]
[またも、今度は視線を感じて周囲を見る。
ふと目が留まった赤いマフラー。
その女性に見覚えがある気はするのだが、すぐには思い出せずに頭を捻った]
馬つきって…いや確かに馬とだが。
[見も蓋もない言い方に息を吐き]
いや…宿に向かおうとして…
……ちょっと、迷ってしまってね…
[やはり言い難かったか言葉は淀み、語尾は小さく。
彼と肩のネズミから目を逸らした。
馬はまた呆れたように鼻を鳴らす]
[周囲が騒がしい。人とぶつかりかける]
[酷く、不愉快だ]
[人の居ない方へと歩もうとして、明らかに人が避けている場所があるのを見つけた。視線を遣れば、馬と共に居る、白の装具の男。人々は明らかに、其処から距離を置いている。無理もなかろうか]
……何故、このようなところに。
[呟く。]
[さっくりすっぱりきっぱり言い切られてぷち凹み。
いやもう慣れてるんだけどね、うん。
思わず顔を手綱を持たない方の手で覆って俯いた]
…平たく言えばそういうことだ…
…確か、街…
[で、見た気がするのだが…
喉に刺さった小骨の様な感覚。
小さく眉をひそめ、小さくうなる]
…?
[ふと、また、村の者ではない…
しかし、その纏っているもので、身分が分かる…
金髪の少年が視界に入った。
こちらは見覚えがないものの…]
…珍しい…
[なかなか、身分の高い者が一人で居るのは珍しいと、一つ呟き]
[目の前の青年が手を振る先を追えば、彼女は未だ其処に居た。
控えめに手を振るのを見、やはり見覚えがある気が。
不意に、ぽん、と手を打つ]
ああ、あの時の。
[微妙に手綱を引っ張られた馬がまた不機嫌になった]
ていうかさー、何をどうすれば迷えるのか、聞いてもいい?
大通り真っ直ぐ行きゃ、目の前じゃんっ!
[俯く男に、呆れたような声で言う。
多分、力の限りの追い討ち。それが与える打撃はきっと、考えてない。
いや考えてやれと誰か突っ込まないと無理だろうが]
[それから、手を振り返すイレーネを振り返って]
やほ、今日も寒いなー。
これから、酒場いくの?
[軽い口調で問いかけ]
[視線を感じ、柳眉を顰める。すたすた、と其方に歩み寄り]
じろじろと見るな。
[先に見ていたのは彼なのだが、何処吹く風だ。
相手が顔半分を覆い隠した、不審な格好であったのも、気に障る]
……馬の扱いは、ちゃんとしろ。
[不機嫌そうな馬が目に入り、代弁するようにぼそりと言った]
[手を打つ男に一つ瞬きをする]
…お客、さん…
[しかないよね。
街で会って…騎士さんと知り合いになるなんて…
お世話になるようなことはしたことがない]
…うん、寒いね…
今から、ご飯、行くトコ…
[マフラーの下でもそもそとしゃべると、うなだれる男を見て…]
…知り合い?
[追い討ちは見事に決まった。
古典的表現ならばその文字が書かれた大岩が降ってきて潰されているような心境か。
思わず座り込む。
片腕は手綱に引っかかって情けなく垂れているが]
…私も聞きたいよ…
[声は地を這うが如く沈み込んでいた]
[と、また新たな声がして顔を上げる。
身なりから何となく彼の身分は察した]
これは…申し訳ありません。
[す、と立ち上がれば一礼を]
[こっちに歩み寄ってきた少年に一つ瞬きをし…]
…ごめん。
でも…珍しいな、って…一人で居るの。
[やはり、マフラーの下でもそもそとしゃべった]
そか、奇遇だなー。
俺もしばらくは酒場で手抜きする予定だったりして。
[肯定の返事に、軽い口調でこう返し。
続けての問いには、ふるふる、と首を横に振る]
いんや、今初めてここで見た。
[それから、凹み→立ち直りの連鎖を決めた男を見やり。
更なる連鎖で、全く見たことのない、金髪の少年に気づいてきょとん、と。
それからまた、男を見て]
……まあ、宿に行きたいなら、案内してもいーけど。
どーせ、俺もこれから行くとこだし。
[赤いマフラーの女性の言葉に表情を緩め]
ああ、以前ランプを買わせて貰った者だよ。
持ち帰ったら同僚が気に入ってしまってね。
危く奪われそうになったよ。
[その時を思い出してかくすくすと笑い]
君は此処の人だったのか。
[知り合いかと云う言葉に首を横に振る。
記憶の限りではそうではなかった筈。
方向音痴を織り成す記憶力では怪しいものだが]
[赤髪の男の礼に、些か気を良くしたか。
解ればいいと言ったふうに、頷きを一つ返す
[が、もそもそと喋る女の台詞を聞けば息を吐いた]
……僕だって、好きでこうしている訳ではない。
[皮の手袋を嵌めた右手を、額に当てる]
[宿に行きたいならと云う言葉に安堵したように頷く]
それなら是非お願いしたい。
いい加減休ませてやらないと更に機嫌を損ないそうだ。
[苦笑して馬の鼻面を撫でる。
馬はふん、と鼻で思い切り息を吐き出した]
…手抜き、と言うか…
ランプ、作ってたら…こんな時間になってただけ…
[…少し情けなさに頬を染めるが、マフラーで良い具合に隠れていた]
…ふーん…
初対面、なのに…へこませてるの?
[瞬きをすると、微かに首を傾げ…赤髪の男の言葉に小さく頷き]
お買い上げ、ありがとう、ございます…
この村に、ちなんで…お店の名前、つけたぐらいだから…
[小さく笑むと、少年の言葉に目を向け…]
…大衆酒場、で、良いなら…風避け、出来るよ?
[なら、何で?
そう思ったが、おなかはすいていたらしい]
[本当に辞めるのか? と口にするほんの一日きりの同僚に困ったように頷く。
理由は…言える訳がない。
言ったとしてもきっと理解されない。
…いや、理解されて…しまう事が怖いのか。
お給料と休暇の契約を反故にされ、縛り付けられることが何よりも怖い。]
…ありがとうございました。
[真新しい靴下をきゅと握り締め、宿を後にする。
片方だけの靴では汚してしまうから、もったいなくて履けないから。]
いい加減休ませてって……一体どんだけさ迷ってたんだよ。
[思わず、呆れたような声が出た。
肩のネズミが、哀れむような視線を馬に向けたかもしれない]
[それから、イレーネの言葉になる、と妙に納得して]
夢中になってると、ついつい時間、忘れちまうもんなー。
俺の場合は、師匠がでかけてるから、ラクするってだけだけど。
……っていうか、素直な感想言っただけだけどー?
[その『素直』がタチが悪いとは、思っていないらしい]
大衆酒場。
……成る程、興味はある。
[下賤の民の食事に。
――と口に出さなかったのは、幸いだっただろうか]
[青髪の男の肩に乗せられたモノに、気付き、緑眼を瞬かせる]
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