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7人目、双生児 フォルカー がやってきました。
[とぼとぼと、
そんな音の聞こえてきそうな重い足取りで、雪路に足跡を刻んでいく荷袋を背負った少年ひとり。
足の向く先は村の外れ。けれど前はちっとも見ず、自分の足ばかり見つめている]
「おぉい、弱虫フォルカー! どこ行くんだよ」
[フォルカーと呼ばれた少年は声に足を止め、弾かれたよう顔を上げた。
まだ柔らかさの残る雪を踏みしめ傍に寄って来たのは、数人の子供。年の頃はばらばらだが、みな一様に、にやにやとした悪戯顔を携えていた。
フォルカーの開いた口から音はなかなか出て来ず、打ち上げられた魚みたいに、ぱくぱく、何度も開閉させた]
…………ぁ、
の、えぇと…集会所、
その、呼ばれて…………
「集会所ォ? 呼ばれたって、誰に?」
……それ、は、
「俺、知ってる! 悪いことしたヤツを、自衛団長の爺さんが探してるんだ!」
「悪いことって?」「そこまでは知らないけど……」「なぁんだ、役に立たねーの」「でも、ってことはフォルカー、イケナイことしたんだ」「あの臆病フォルカーが」「やるぅ」
ち、ちが…………っ
[声変わりもまだのか細い声は、子供たちのお喋りに掻き消されてしまう。堪えるよう握った拳が小刻みに震えた]
違……、
僕は、ただ、あの人に会いに行った、だけ……で、
「あ、泣くぞ、フォルカーが泣くぞ」
「出た! 泣き虫フォルカーだ!」
[囃し立てる声にせっつかれたよう、急激に何かが込み上げて来て、眦に、じわりと涙が滲んだ。
それを見て満足したらしい子供たちは、漣のような笑い声を響かせて去っていく。
後にはフォルカーだけが残された]
………………。
[緩く首を振り、気を取り直した様子で、少年は歩みを再開する。
歩みは遅々たるもので、時おり鼻を啜り上げては目を擦った]
[ようやく集会所に辿り着いて、恐る恐ると扉を開く。
その頃にはもう泣き止んでいたが、目もとも鼻頭も、寒さのせいにはし難いほど赤みが差していた]
こん、にちは。
[先客にお辞儀とともに小声で挨拶をしてから、身上書に、丁寧かつ小さな字で記入し始めた]
―――――
■名前:フォルカー・アルトマン(Volker Altman)
■年齢:13歳
■職業:――
■経歴:村長の息子。進歩派の祖父と保守派の父、町出身の病弱な母を持つ。フォルカーも身体が弱い。
また、内向的で泣きやすく、村の子供のからかい対象。
星や鉱石といったものに興味を抱く。
事件のあった日、件の元鉱山夫に会いに行っていたことから容疑がかかっている。
―――――
……あの、お茶。
僕も、いただいても、
[いいですか、と続く言葉は消え入るよう。
承諾が得られると、少年は頭を下げて口の中で礼を言い、部屋のなるべく片隅を選んで腰を落ち着けた。
両の手で支え持ったカップから立ち上る湯気に、眼が柔らかく*細められた*]
─村中─
[集会場へと向かう前。良く相手をする近所の子供や年寄り達に、今日は相手が出来ない旨を伝える。年下の子供達は何故遊べないのかと縋って来たが、年寄り達は話を知っているのか、猜疑の目や不安そうな表情でイレーネを見ていた]
戻って来たら遊んであげるから、ね?
ボク特製のカップケーキも作って来るから。
[年寄り達の視線は気にしないようにして。子供達をそう言い包めて、ようやく集会場へと向かえるようになった。白を踏んで進んで行くと、その先で数人の子供に囲まれる人影を見た]
……アイツらまたやってる。
フォルも言い返してやりゃ良いのに。
[呆れたよな、苛立つよな声色で呟いた。フォルカーを囲んで優位に立った気になっている子供達をアホらしいと思い、言い返せずいつも泣いてしまうフォルカーを情けなく思う。大きな溜息をついていると、フォルカーから離れた子供達がこちらへとやって来た]
「なんだよイレーネ、どっか行くのか?」
……アンタらにゃ関係無いでしょ。
邪魔だから退いてくんない?
「つれねぇの」
「あれ、でもさっきフォルカーもこんな風に荷物持ってたよな」
「てことはイレーネも?」
…だから何?
早く退いてくれないと蹴るよ。
「おー、おっかねー」
「蹴られる前に行こうぜ」
[イレーネの言葉に委縮するでもなく、子供達は笑いながら去って行く。気楽な奴らだ、そう思い息を吐きながら再び集会場へと向かった]
─ →集会場─
[峡谷に掛けられた不安定な吊り橋。危なげなく渡り切ると、玄関の扉に手を伸ばした]
あー、くそ寒い。
[玄関の扉を開けての第一声。直ぐ傍の広間まで届いたのか*どうか*]
―集会所・広間―
[椅子から立ち上がる。
赤々と燃える火の中に薪を一つ放り込んだ]
ほら、そんなとこにいないでこっちで暖まったら如何だい。
[広間の隅で手を擦り合わせるライヒアルトを横目で見、暖炉を指す]
ところで此処に居るってこたァ、兄さんも…
[次いで話し掛けようとしたのだが、丁度そこに茶を運んで来た人物を見て、女は暫し閉口した]
なんだ、天文学者。
給仕係にでも転職したのかい。
それとも…まさか?
[ややあって疑問を口にし、オトフリートと、ついでにライヒアルトの顔を交互に見比べる。
腕を組んだ]
人どころか虫一匹殺せなさそうな奴ばかりじゃないか。
アイツら容疑者とか言ってたと思うんだが、聞き間違いかねェ。
嗚呼、茶は頂くが。
ユエもおいで。寒いだろう。
[附に落ちない表情ながらも、用意された茶を受け取り、黒猫に手招きをする。
カップを両手で包んで、暖炉の前に座り込んだ]
先生もか。
災難だねェ。
[次いでハインリヒが入って来た時には、先の2人程の驚きも無く挨拶を返したのだが]
ハァ?
坊主も容疑者だってのかい?
[そこにフォルカーが現れ、女は再び目を丸くすることになる]
…わっかんないねェ。
御爺、ボケるにゃ未だ早いと思うんだが。
嗚呼、そんなとこで寒くないかい?
[首を傾げながら、茶を啜る。
それから片隅に落ち着く彼に言葉を掛けた]
まァ、それにしてもだ。
来て日が浅い学者先生は兎も角…
如何見てもひ弱そうな天文学者に、聖職者の兄さん、それに子供。
…どんなラインナップだい、こりゃ。
あたし以外野郎だってことぐらいだね、共通点は。
[一部失礼な言葉を交えつつ、面々を見渡す]
…嗚呼、また誰か来たのかな。
[玄関の扉の音を聞き付けて、部屋の入口に目を向ける。
微かに聞こえた声に、女は訝しげな表情を*作った*]
修道士 ライヒアルトが村を出て行きました。
7人目、修道士 ライヒアルト がやってきました。
―集会所/広間―
……お言葉に甘えて。
[薪の落ちる音、爆ぜる音が響く。
音楽家――ヘルミーネ?とにかく、女だ――の声に素直に従い、暖炉の方へと踏み出した。
その時丁度、茶を運ぶ男の姿を見ただろうか]
俺にも一つ、いいか?
[引き続き向けられる視線を感じながら、カップを手に取り口に運ぶ。
一気に飲み干すのは流石に躊躇われた]
虫一匹、殺せぬ、ねえ。
……まあ、だがしかし殺人は起こったんだろ。
[思う部分は多い。だが、村に居てあまり長くない身であるが故、自分を召集した人間を露骨に弾劾する事はできなかった。
――いや、ひょっとしたら、無意識の部分で諦めてしまっているのかもしれない。
しかし子供の姿を見れば、嫌でも気分は重くなる。吐いた息が、持っているカップに微かな波を立てた]
[その時また一つ、玄関の方から聞こえた微かな声。
少なくともそれが子供のものであることは分かった]
…確かに、どんなラインナップだとぼやきたくもなるな……
[暖炉の前に座る音楽家の女にそう苦笑を向けて。
広間の隅に戻り、玄関の方へと顔を*出した*]
―集会所・広間―
[ヘルミーネの声>>36にはやれやれだと肩をすくめて答えていたか。
茶を冷えた手を茶の入ったカップで暖めながら改めて集会所の中を見回した]
おいおい、それじゃぁ俺は疑われて当然みたいじゃぁないか。
手厳しいレディだなぁ。
……ま、子供まで疑われるとは俺も驚いたが。
[集まった面子について発せられたヘルミーネの言葉に軽い調子で返す。
フォルカーをちらと見て僅かに眉を寄せたなら、それを隠すように茶を啜った]
俺だって遊びで来てるわけじゃぁないわけよ。
早いとこ話つけて宿に戻りたいんだがな。
[言いながらポケットに手を突っ込んで小さな石を取り出し、指で上に弾く。
落ちてきては片手で受け止め、くるりと手を返してまた弾く。
よく磨かれた薄黄色の丸いそれは、時折暖炉の灯を受けてオレンジに光った]
[集会所の玄関の方から一瞬冷気がやってきた気がしてそちらへ顔を向けた]
おっと…お嬢がそんな言葉遣いしちゃーぁ、いけねえなぁ。
[その直後、そちらから聞こえた言葉に煙草の煙をぷかり。
煙の中から弾いた黄色が落ちてくるのをパシッと受け止め、
どこかからかうように、にやりと*笑った*]
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