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[紙が破れる音が、彼の鼓膜を鋭く刺激した。伸ばした手をそっと下ろし、声の主の方に右目の琥珀を向けた。]
舞台に上がるのはお嫌いですか……?マダム。
泉の静かな光と、森の闇。それから、夢幻の緋色の照明……。最高の「舞台」装置と言わずして、何というのでしょう……。
――そう。
ここが本当に「終焉」とやらでないならば。
勿論、現段階ではオカルトの類ですよ。
自分は無から金を産み出せるであるとか、
無数の矢が貫こうとも、自分は死なないとかと同じ。
[呟きが聞こえたか聞こえないか、
鋭い左眼がハーヴェイを射ぬく。]
だけど、彼の言うことは興味を引く魅力があります。
与太話でも、大口で耽美に語れば勝ちなんじゃないかしら。
このまま、無為に時間を潰すのは生産的じゃないわね。
なら、退屈しのぎに彼の話に乗るのも悪くないと思うわ。
[くすくす、と笑みが漏れる。]
舞台に?
舞をやっていらしたのでしょうか。
[先に知らないと言われていましたから、答えは求めていませんでした。
ただ思ったことを言葉にしたに過ぎません。
眼は別のほうへ。]
終焉。
それが嫌なら、人狼を…でしたか…
[受け入れるということは、それを行うということ。
声のした方向を、見つめました。]
演者、傍観者、舞台…。
[話を受け入れると言うイザベラの言葉。更に紡がれた言葉を反芻する]
…ここが、舞台。
…私達が、演者。
[そう言うことなのだろうか、とふと思う。では傍観者とは? 疑問は口には出ず、その答えも得ることは出来ない。しばし考え込んでいたが、ふるりと首を横に振った]
…馬鹿馬鹿しい。
[そう呟いたが、何故かしっくり当てはまるような感覚に陥った]
「舞台には立てない」、けれど「身体は舞踏を求めてる」?
[じぃ、と眼帯の青年を見つめる。緩慢に動く腕の動きを眺め、続き紅紫の瞳は眼帯が据えられた瞳へと]
ええ、嫌いね。そういうのはもっと貌の良い人がやればよい。
[問いに対して、自嘲混じりに]
私が殺したり殺されたり。絵にならないのではない?
顔かたちを思い出せないけど、そう思うのです。
むしろ、そこのシャーロットさんあたりの方が、
「らしい」のではないかしら。フフフ。
そちらの方が、殺すにしろ殺されるにしろ……
[非対称の視線が不気味に上下する。]
観客のハートに訴えると思いませんか?
実際、オカルトのレベルだろ。
「終焉」を齎す者だの、力ある者だの、作り話じゃよくあるさ。
[鋭く射抜く左眼を、臆する事無く見返して言い放つ]
……しかし、そんな与太話も言った者勝ち、か。
純粋に退屈しのぎ、で終わるなら、それも悪くはなかろうが。
[言葉を遮るのは大げさなため息。
蒼氷はちらりと『番人』へ流れ]
……こちらさんを見てると、単なる退屈しのぎじゃ終わらん気がするのが、なんとも、ねぇ。
[うら若き乙女たちの言葉の響きに、口許を歪めた。]
どういうわけか、「舞台」が遠のくにつれて、「舞踏」が妙な迫力をもって俺の目の前に現れてくる。それだけさ。
[そこで、ひとりの乙女の瞳が、己の顔を塞ぐ薄汚れた眼帯に向いたのを感じた。男は――どういうわけか――無言で眼帯を手で覆った。]
[宙に伸ばされる腕を、翠は追いかける。
どこか羨ましそうな表情が掠めていった]
死にたくない。
私も、死にたくは、ない。
[下ろされた腕から外れた視線は、その言葉を発した主に向く前に別の場所へと止まる。
ぼんやりとした瞳を見つめたまま動きを止めていたが、相手を気遣う声に目を瞬くと、ゆっくりと視線を逸らした]
う゛ー…
[ごろりと寝転がり手が布を探す。温度の変化が少ない地下は酒にはいいが寝場所には向いていない]
…ぶえっくしゅっ!
あ゛ー…やけに冷えやがると思ったら酒が切れたか。
[番人の語り]
[ざわめく室内に関わらず、女は唯紅茶に口を付けた]
[リィン]
[最後の一口が終わり、陶磁器がソーサーに戻される]
番人殿は、どうなされるのでしょうね。
[そうして、碧眼は辺りを見る]
そうして、皆様はどうなされるのか。
[くれないは笑みの形を模ったまま]
[席を立ち、一礼を]
[部屋の扉を開け、廊下へと出た]
[周囲の人間達の話す声が聞こえる。
否、耳に入っているのだが、言葉としては認識していない。
それは、暖炉で火の燃える音と同じく、純粋な音、だった。]
もっとはっきり言いましょうか?
彼はきっと、患っているのよ。その…頭を。
[虚ろな方の右眼が、「番人」を捉える。]
その言葉を、頭ごなしに否定しても何もないし、
第一、このままでいるのもつまらないでしょう。
[「番人」を蔑むように。]
なら、一緒に遊んであげましょうよ。
きっと、満足したら何かあるわよ。きっとね。
少なくとも、信じられないと言って、
時間を浪費するよりは楽しいと思わない?
[眼帯の青年が紅紫の瞳を向けた先を手で覆い隠す。その仕草に一度小首を傾げ]
もしかして、気にしてた?
気分を害しちゃったかしら、ごめんなさい。
[視線を外し、軽く頭を下げる]
マダム。
「美は神が与え給う、究極の才能である」という話を聞いたことがあります。
――ですが。
過ぎた「美」は、人間の血の熱さを表現する機会を奪ってしまうのも、また然り――…。俺はそれ故に、完璧なる「美」は好みません。
血がたぎり、筋肉が軋み、汗を流す――そんな美醜を兼ね備えた人間の「舞踏」ほど、この世で人間の魂を震わせるものはございますまい。
そこにいらっしゃる乙女達のそれは勿論――…マダムもまた、それ故にこの「舞台」に選ばれたのではないですか?
全てのことを冷静に感知し処理する貴女の血が沸騰する瞬間は――さぞや美しいのでしょう。
[琥珀色の瞳を細めて、笑った。]
[見知らぬ娘の顔に一瞬ぎくりと身を強張らせたが、]
[ゆっくりと理解がのぼり、それがこの城の前で出会った娘と解った。]
[そしてここがどこかも。]
――ここは……
[男はゆっくりと辺りを窺いながら身を起こした。]
んん。
[壁に凭れかかり立てた膝の上に手を置いたまま、
交わされる会話を聞いていた。
暖炉には、番人の手によってか、
いつの間にか火が点されていた。
低い位置から、揺れる焔を見据えている]
そもそも、終焉――終わりって、なんなのかな。
……はっきり言うもんだ。
[蔑むようなイザベラの言葉に、口をついたのはこんな言葉]
そこの『番人』だけを見るなら、そう言いきれるだろうが……。
[現実的に考えたなら、彼女の解釈は理に適っていて。
しかし、そのまま受け入れるに至らないのは、霞がかる記憶と、唐突にこの場所に現れた、という状況故]
ま、何にせよ……ここで文句だけ言ってても始まらん、か……。
[そこには彼の見知らぬ人間が大勢――少なくとも10人以上――居り、何やら話し合っている様子であった。]
私は一体、
[額に指を当て、眉を顰める。]
城の広間よ。
ナサニエル、貴方廊下で倒れてたらしいわよ?
クインジーと……あら、あの人なんて言ったかしら。
その二人が運んで来てくれたの。
[ナサニエルが起き上がることで額に乗せていた濡れタオルが落ちて来る。それを受け止めながら声をかけた]
どこか痛むところとかは、無い?
[紅紫色の視線から眼帯を逸らすべく上げた手を、そっと外した。]
いや……それほどではないさ。
ただ、この場所が時折疼くだけのこと……。
気がついたら、これは俺と共にあった。
俺にとっては、最初から目はひとつだった……。
それしか覚えていないのだから、仕方ないのさ。
キャロル様?
[鈴の音に振り向けば、女性は立ち上がりこの場を去る様子。
一瞬身体が動きかけるも、途中で止まり頭を下げ返すに留まった]
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