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[しかし今一番するべきことは、何よりも自宅の整理だということはわかりきっていた。
深く溜息を吐いて、部屋の中に戻る。]
よし。とりあえず…っと。
[――しかしすぐに、また大きな音を起こして、なだれがおきるのだった。
運良く怪我はないものの、二度目となればまわりでもひそひそと話されているのかもしれない。
何をどたばたしているのかしらというような…。]
─村の通り─
…そっか。
[ゼルの顔を見ながら話していたので、眉を寄せる様子にはやっぱり怒られるかな、などと思いもしたが。
やがて常通りの顔で、大丈夫だと前を向いた彼に、ほんの少し寂しげな息をつき。
けれど、少し間を置いて紡がれた言葉に、え…?と声をもらした。]
ギュン爺の、最期…?
…聞いても、良い?
[無理には話さなくても良いと、言外に伝えながら首をかしげた。]
─白雪亭・自室─
…………よし、とりあえずレシピはこれで。
[傍らに乱雑に散らばったレシピの書かれた紙を順番通りに纏め、どさっと置く。
そうして、チラッと残っている白紙を見ると、]
…………。
[俯き何か考えていたようだが、無言で再び座って筆を取る。]
………………っ。(くしゃっ)
[だが、数行何かを書いたところで紙をくしゃくしゃに丸めると、唐突に立ち上がり部屋を出ていく。]
[その後、ふわりとユリアンの後を追いかけて、少し離れた所から、様子を見ていた。
感情のない表情に胸が痛むが。
死者が生者に出来る事は何もない。
せめて誰かに慰めてもらえるようにと、*想った。*]
[誰かがもし中を見たら、なんだか悪化したような家の中が見えることだろう。
しかし怪我は無いようで、筆記者は片づけをしているのだった。
人が来ることがあるのなら、外に出たりはしたかもしれない。
最終的には、しっかりと床が見え、動きやすいスペースになっているのだろう。
その頃には体力のない少年は、そのまま眠ってしまうのかもしれなかった。
鍵は開けたまま。
ゲルダ宛の本は、ドアのそばに置かれた袋に入れられたまま。]
[────部屋に残された、最後に丸められた紙。]
[────くしゃくしゃになり全容は読めないが。]
[────僅かに窺える表面には『ウェンくんへ』という冒頭文。]
─自宅─
へぇ、じっさまにそんな友達が。
そうだな…それなら伝えてやらないとな。
[真面目に言う様子に、またユーディットの頭を軽く撫でて]
うん、よろしい。
[いつもと遜色ない笑みを見て、こちらもにこりと笑み返した。ユーディットがカタツムリの下へ行くと言うならばそのまま見送り。自身は使用したカップを片付ける]
……『刈り手』がもう動いてる、ってことで良いのかな。
じっさまの場合は、寿命ってことも無きにしも非ずだけど。
[呟いて、自身の両手に視線を落とした。手に何かあるわけでもなく、何か見えるわけでもない]
───自分しか、護ることが出来ないんだよな?
この、諸刃の剣は。
[その問いに対する答えは、自分の中から*返って来た*]
―村の通り―
[ミハエルに手を握られ瞬くこと数回]
[語られる言葉をじっと聞きながら見つめていた]
[一通りを聞き終えると促して共に道を歩く]
[エーリッヒの家と分かれ道になる所で足を止めた]
そうだね。私もいつか消える。
あるいはそう遠くない間に。
…隠しても意味ない気がしてきたから教えておくよ。
[左腕の袖を捲る]
[まるで実際に蛍を中に宿したかのように]
[肘近くで鮮やかに浮かび上がっている釣鐘のしるし]
伝えたいことは、既にミハエルがもう感じてくれていた。
命は消えても次に廻ってゆくというのを忘れないで欲しい。
それが思っていたよりずっと短いものであっても。
[狩られて消えても姿を変えて伝わってゆくと]
―村の通り―
私は言葉にするのが得意でないから。
そこはミハエルにまかせるよ。
[花の咲く腕で抱き寄せる]
命は全て繋がって次へと向かうものだということ。
それを誰かが知っていてくれれば。
私はそれでいい。
[金の髪の上から軽く口付ける]
母のように伝えられたら一番だろうけれどね。
[顔を離し翠を覗き込んで微笑んだ]
―村の通り―
[視線がこちらに向くのを感じて、けれど己は前を向いたまま。
は、と短く息を吐いた]
未練とか、最期の想いとか、……そういうのかな。
昔っから、ぼんやり視えることがあんだよ。
曖昧だし大抵がすぐ消えちまうから、きちんと汲みとれたことはねぇんだが。
[ちらとだけ隣を見てから、淡々と言葉を続ける]
……けどさっきは、結構長く残ってた。
よっぽど想いが強かったのか、今と何か関係してんのかは知らねぇけどな。
─村の通り─
そう、だったんだ。
[昔から消えていった人達の遺した想いがぼんやり視えることがあるというゼルの言葉に、ただぽつりと零しただけで続く言葉を聞いて。
さっきの、というのがギュン爺を指していることはわかったので、淡々と話し続けるゼルの横顔をじっと見ながら邪魔せぬよう黙ったまま。]
―村の通り―
で、例によってぼんやりとしか視えなかったんだが。
誰かを心配してるみたいな、そんな感じは伝わってきた。
……自分の心配しろって話だけどな。
[悪態のようなそれにすら、感情は伺えない。
一度話を切り、息を吐いた]
まぁ、だから。
俺自身はどうってことない。
『死神』って奴は益々嫌いになったがな。
……あんまり、視たいもんじゃねぇし。
[小さな声を最後に、言葉は途切れた]
─村の通り─
[と、と、とん。と分かれ道に到着。片足軸にして、くるりと回りそこで止まる。
手は、後ろに回して組み]
……うん。
[捲られた袖の下に見える──しるしに、
見せぬ手指を、く。と、折り曲げた。]
やっぱり。ユーディだけでなく、
……しるしが現れたのは、レナーテも…なのだね。
そんな気は……、ちょっと。…していたのだよ。
[どうしようもないように──その花を視界に写し取って、
浮かべた表情は、笑みだった。]
[引き寄せられて、とてん。と額がレナーテの胸につく。]
は…、レナーテは、…欲がなさすぎる。
[視線を落としたままで息を吐くように笑ってぽつりと呟き]
…うん。
[髪に触れる感触に、ぎゅっと一瞬だけ目を瞑り]
[ゆっくりと顔を上げて]
短くとも。
知り得た、実感も。
その心も、
忘れたりは──しないから。
安心すると……いいのだよ。
ボクはウェンのような健忘症でもないからな。
[目を開き紅瞳を見つめ返して、そう。と、
レナーテの肘に咲く、釣鐘草に、手を添える。]
─村の通り─
ギュン爺らしい、ね。
[ゼルの言葉には、くす、と苦笑を零して。
一旦間を置いてはかれた言葉には、表情を曇らせた。]
…そっか。
[死神を嫌いになったという言葉に、一旦目を瞑って。]
死神が憑いた人は、大丈夫かな…
辛いの、我慢してないと良い、ね。
…一人で抱えてないと、良い。
あたしなら、きっと…辛いから。
[その人のせいじゃないのに、と言う言葉は自分が当事者じゃないから思えることだから。
そんなことを言って、視線を落とし。
ゼルの小さな呟きが耳に届くと、自分には視えないものが視える彼に、何を言っても気休めにしかならないと思い哀しげな表情で微笑んで肩を軽く叩いた。]
[痛くはないか?と、触れて、首を傾け目で訊ねる。
自分にないしるしを見る目は少し陰るけれど]
レナーテの…母様?
[母の様に、とそこに軽く首を傾けて聞いて]
─村の通り─
…いこ?
[そう言って、彼の家へと急ごうと促し。
歩くスピードを先程よりも速めながら、ぽつぽつ言葉を落として。]
…ゼルは、視えるだけって辛いと思う、けど。
ギュン爺は、きっとゼルに姿が視えたの嬉しかったと思う。
今までゼルが視た人たちも、きっと。
ただ、消えてなくなるだけじゃないって、思えたはずだから。
…ゼル一人がそれを背負ってるのは、辛いだろうけど。
[あたしは一緒に背負えないかな、という言葉は、口の中で小さく呟かれただけで。]
─村の通り─
気がついていたのか。
[隠された指の動きは知らず]
[ただ自分の思うところだけを伝えた]
そうかな?
自分では分らない。
[それと悟っても恐怖は覚えなかった]
[ゆっくりと見上げてくるミハエルの顔をいとおしげに見つめる]
欲はきっと満たされてしまったのだと思うよ。
こうして思いを受け止めてくれる相手を見つけられて。
[花に触れる手の熱を強く感じた]
[ゆっくりと頷き最後に付け足された一言にクスリと笑う]
―村の通り―
……、だな。
[間が空いた末、返す言葉は短かった]
見ているだけなのは、辛いだろう。
[一拍置いて、もう一言。
ある意味では同じなのかも知れなかった。
肩を叩かれて、]
……悪ぃ。
[再び歩き出してから、
滅多に謝罪することのない青年は、ぽつりとそう洩らした]
―村の通り―
ああ。
[頷いて、スピードを速める。
いつもならば先導する筈の青年が、今日は何だか引っ張られるかの様で。
親友が見たら何か言っただろうか]
背負うなんて、そんな大したもんじゃねぇけど。
……嬉しい、か。
[聞こえない呟きは、耳に届くことはなく。
聞こえる言葉だけを静かに聞いていた]
─村の通り─
[ギュン爺らしいという言葉に同意する彼に、だよね、と笑って。
見ているだけは辛いというゼルには、ただ頷いた。
続いた言葉には、きょとりとしたもののすぐに柔らかく、ん、と微笑み。
自分と同じように歩を速める彼が、返してきた言葉にも微笑とともに頷いた。]
うん。
あたしも、嬉しい。
ゼルに視てもらえたら、良いと思うもの。
あたしが居た証を遺さなくても、ゼルが覚えていてくれるなら。
それで良い。
─村の通り─
[道具屋で呟きが耳に入ってなんとなく。と、気づいた理由を答え]
……
[紅が映す感情も。その色も覚えておこうとするように、目を開いたままレナーテを見て──何かを言いかけるように、口を開きかけ]
…欲がないと、思うのだよ。
やっぱり。
[一度目を閉じて── ぐい、と、腕を引いた。]
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