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…だめ?
たのしそう、なのに。
[萎れる様な声に、内心私は安堵する事になる。
窓から飛び出て行ったのは見て取れたが――まさか真似したいなどと言い出すとは夢にも思わなかった故に。
地竜殿にお止め頂き助かったと云わざるを得ないであろう。]
うん、あのね。
[目線の近しくなった地竜殿を真直ぐに見据えつつ、仔は先を促され地竜殿の耳元へと顔を近づける。――不要に口外してはならぬという言葉に従ったか、さては秘密裏の会話で話すのを気に入ったのやも知れぬ。
何れにせよ地を這い、未だ仔よりも距離を置く私の耳元には声は届かぬ。]
けん、もってる?
すっごい、つよいやつ。
…聖魔剣。
[胸元を押さえて小さな声で呼びかける。
けれど応えは無い。小さく唇を噛む。
この中では特に力を抑える理由、そんなものは聞くまでもなく分かっていた。だからこそ外に出されたのだから]
申し訳ありません、我君。
[それでも何があっても干渉された者に渡すことはしまいと。そう決意を込めて顔を上げた]
―東殿・個室前の廊下―
[西殿の方を見ていた時、不意に風が動くのが見えた]
あの影は、風竜……ティルの?
[何が起きたのだろう。
感じた胸騒ぎは、徐々にではあるが、膨れて行く。
先に西殿へ向かおうと、踵を返したところで。
部屋から出てきた、命竜の姿が見えただろうか]
なんつーか……わっかんねぇ。
[ぽつり。
雨の中に零れるのは、小さな呟き]
どいつもこいつも……そろいもそろって。
何がしてぇんだよ?
揺らされた連中も、竜王も。
ひそひそこそこそして……ワケわかんねぇよ!
[吐き捨てるよに言いつつ、結界を殴りつける。
鈍い音が、雨の向こうに響いた]
風邪をひきますよ?
[ そっくり同じ口調で、影は言う。
外へと歩み出せば、同じく濡れるのだが。水を含んだ土は普段よりも柔らかく、微かに沈んだ。数歩の距離を置いて立ち止まる。]
―東殿・廊下―
[なにやら慌しい声が聞こえるが、原因は分かっていた。
先ほど、西殿の中で会った――彼女の件だろう。
ダーヴィットあたりはめっさ凹んでるんだろうなと思いながら、自身も再び、今度は徒歩で西殿へ向かおうとして。出くわした影一つ。]
よう、氷竜殿。
騒がしいようだが…何かあったか?
[さも今しりましたと言った風に尋ねかける。]
…クレメンス、様。
[グッと息を呑んだ。気をつけろと再三言われてきた相手。
しかもこの西殿の中に居られるとなれば、その答えは一つ]
干渉を受けましたか。
…それすら気付いておられないのやもしれませんが。
[だがこの相手は恩人でもある。
覚悟はしていても、苦いものが広がる。
壁の向こうから響く音に少しだけ気をとられながらも、目の前の相手を睨んだ]
[ ふ、とノーラの意識を深淵に引き落とす。
光と闇の分かたれぬ今、浮上するのはかなり億劫ではあるが。]
引かなかろ。影なればな。
[ 紫に変わりし瞳を向け月闇の竜を映す。煙る雨に、視界はやや霞んだ。]
己であるを望むが故に、力を求めるか?
[しばし、壁を睨むように見た後。
東殿には戻らず、庭園の木の上へ]
…………。
[そのまましばし、枝の上から雫をこぼす空を*睨むように見つめ続け*]
―東殿/食堂―
[大地の老竜と翠樹の仔竜の話は内緒なので当然聞こえない。
風を聞く疾風の竜ならまだしも、青年では何か冒険めいた仔竜の心の動きを感じる程度だった。
そちらに意識を向けながらも開け放された窓へと歩き、雨風が入らぬように閉じる。
そして振り向いた時、意気消沈した若焔が食堂へと入って来た]
……エルザ殿が?
それは…どのようにしてですか?
[飛び出した疾風竜の言葉により概ねわかっていたが、正しく刻む為に問いかける]
―東殿・廊下―
ごきげんようかしら、命竜殿。
[意味無く同じ呼び方で返した後には、ふるりと首を振り]
騒がしいほど、騒がしいのかは分からないけれど……
今、ティルが結界のほうに駆けて行ったみたいなの。
……もしかしたら、また誰か「引き込まれた」か。
それとも、揺らされたものに襲われたか。とにかく、何か起きたのかも。
[ふるり、首を振るう]
―― 食堂 ――
[飛び出していく風竜をただ見送ったのは、恐らく珍しいことだろう。ダーヴが食堂に現れてから、ようやく、息を吐く]
…他は、無事かな?
結界を見に行くか、人の集まっているところに行こうかと思ったんだけれど。
貴方は?少し、疲れているようだけれど……。
[どこか疲れているような命竜に向かい、尋ねる。
また探査の為に力を使ったのだろうか。そんな風に、気遣うように]
振り向いた時にはもう、無限の輪に捕まってた。
十中八九、虚竜王様の手によるものだと…。
[半ば鱗の生えた手をきつくきつく握り締める。]
―結界内―
自覚はおありになるのですか?
それでもこのように動かれるのですか。
[対照的にキリキリと張り詰めた空気を纏う]
ええ、そうです。
…刻印を傷つけ力を使ったこと。覆いを外してダーヴィッド殿に見せたこと。その辺りが引き寄せてしまったやもしれません。
[幾つもの失態を重ねている自覚はあった。
師は気にするなと言ってくれたが、それでも悔しかった。
常と変わらぬ相手を前に、感情が揺れる]
[だが、数合斬り込んで、外殻は斬れないと判断したのか、スッと眼を細めると、]
鎧が駄目なら……鎧の隙間を斬るっ!!
[そう気を吐くと、見事次の交錯で片方の翅を根元から切断。
バランスを崩したテントウはあらぬ方向へ墜落。
──だが、彼女は見てしまった。その先にクレメンスとエルザの姿があることを。]
……どうもせぬ。
出来ぬ、というが正しいか。
此の器に、我の震える力は無きが故に。
陽光の仔竜が囚われし今となっては尚更にな。
[ 素直な肯定に、胸に手を当てつ吐息を零す。
細い滴が肌を伝い、纏う布を濡らしてゆく。]
好きなようにするがよかろ。
お前も、あれも。
願いの在るならば。
―東殿・廊下―
うむ、ごきげんよう。…って言うと偉そうだな俺。
[へらり、笑みを返すも、続いた言葉には眉を顰める。]
…引き込まれ、ってまたか。
どっちだったとしても厄介だな…とにかく行ってみるか?
[外は雨だが、そうも言ってられないだろうかと。
それでも一応尋ねてみる。]
/*
ありがとん。
ちなみに、一瞬「えっ?」て思うかも知れんけど、記号とか付くようなことにする気は無いんで。
と、先に言っておくのこと。
―東殿・廊下―
あら、なんだか似合ってたけれど。
[へらりとした笑みを見ると、少しだけ笑みが零れたが]
……虚竜の王が機嫌。
結界の中に引き込まれたユディとかでも、治せないのかしらね。
[ほぅと息を零したところで、命竜の問いかけに頷く]
……雨が気になるなら、私の周りだけ雪や雹に変えられるけれど?
[こてんと首を微かに傾げ、尋ねる。
濡れるのと冷たいの、どちらがマシ?とでも聞くように]
[パチリ。警告のように首飾りが主張した。
それは揺れたことに対してか、それとも]
なっ?
[気付いた時にはその気配はすぐ背後にあった。
咄嗟に出来たのは]
失礼!
[目の前に居た人物を突き飛ばすこと。
そのまま振り返り、右手を離した左手を突きつけるが、完全には間に合わない。力負けしたように、下敷きになってしまった]
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