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[何か黒いものがカレンを覆い。そして霧散する。
それを眺め。ぽきりと指を鳴らしたのを聞きながら]
でも……他の人と…なんの差があったんだろうね
[ぽつりと呟く声が誰かの耳に届いたかどうかは*知らない*]
[肩に手が触れる感触。
唐突なそれに、身体が震えた]
……旦那……。
アタシ……まもれなかった……カレン……。
目の前にいてっ……手、届いたのに……っ!
[一緒に育った、妹分。
自分を孤独から救ってくれた者の一人。
その存在が、目の前で消された事が、心に衝撃を与えていて。
スティーヴの手の反対側の肩に止まったラウルが、くるる、と案ずるよに鳴いた]
[ほんの少しの間の沈黙すら苦痛で、見上げることはできなかったから、その表情が変化したことには気付き得ず。
名を呼ぶ声、衣擦れの音に顔を上げれば、頭に掌の乗る感触。
つい最近、くしゃくしゃとかき回された感覚を思い出せば、連想されて浮かぶのは眼を細めて笑うラスの顔で。
思わずまた、一つ、二つ、頬に滴が零れる]
そも、そも…23にもなって、良い子があるか…。
…拗ねてなんぞ、ない。
[けれど零した滴は意識的に無視して、呟く言葉は常に似せた]
[荒れる感情を吐き出させる為、その慟哭に黙って耳を傾ける。
ラウルの鳴き声に合わせて、疾風も小さく鳴いた。
やがて言葉が途切れた頃、その肩に置いていた手を動かした。
緩く拳を作り中指を曲げて、綺麗に切り揃えられた額へと。]
………何でもかんでも一人で出来ると思うな、馬鹿娘。
[中指を軽く弾く。]
お前はさっきラスを…堕天尸を捕まえただろうが。
それに俺も守ってくれた。
………何も出来なかったのは俺の方だ。
[眉間の皺を深くし、銀色の消えた場所を見る。]
[ 暫くの間、ぼうっと目の前を見つめる。]
広場に…また人が集まりだしているでしょうか…。
[ 空を仰ぐ。
目に映りこむのは何色であるか?]
……行ってみますか。
[ と言っても広場からそれを見る気にはなれず。
あまり人が来ない、広場の見える場所へと身体を浮かせる。]
― 聖殿 ―
『また、お前か。今度は何の用だ?』
[長老の前に出ると、付き人をはじめ周囲から浴びせられる、うろんな者を見る視線。その数に圧倒され、ごくりと唾を飲む。小さく深呼吸をすると、口を開き]
……堕天尸の影、見つけた……
確認……したい……から、同席、して、欲しい
[確認とは何のことだ?と周囲はざわめきたち。躊躇いがちに、それでも薄金の羽根の持ち主、ラスの名前を口にして]
証拠……
呼ぶなり、出向くなり、して……
……僕の力を、使うから……見て……欲しい
疑わしい、だけで、人を封印するの……は、止めて
[信用がないのは百も承知で、長老に告げる]
[降りて来た鳥は、手の器の上に。
白が、村の方角へと往くを見送る。
眉が深く、寄せられた]
封印の……
それとも、誰かが、捕らわれた、影響?
[独り呟いて、視線を落とした。
撫ぜようとしても、ひかりに感触はなく。
代わりに、ふっと――何かが、失われた感覚を得る。
それは、己と近しいちから。
見上げた月が、翳ったような気がした]
まだ十分と子どもだと思うが。
[くつりと哂って、一度、撫ぜる。
そのまま手を離し、]
――虚ののぞみは聞いたか。世界のことわりを壊す、というらしいぞ。
その望みがかなおうがかなうまいが、俺はどうでもいいが。
――その望みに、エリカ嬢は魅かれかけた。
完全に、堕としてこい。
[囁くことば。]
あァ、それと、羽根を見せてみろ。
ずっと見てやってなかったからな。
[痛がるようなら、*癒してやろうと*]
[額に与えられた衝撃に、思わずきょとり、と瞬く]
……んなこと、言ったって……。
[ぽつり、反論しかけるも。
深くなる眉間の皺に、続く言葉を飲み込む]
……ん……ごめん。
それより、早く、戻ろう?
ローディに、このバカの頭、冷やしてもらわないとね。
……兄さんも、きっと、こっ酷く叱ってくれるだろうしさ。
……それに、『堕天尸』は、他にもいそうだしね。
やれること、やらない、と。
[落ち込んでいる暇はない、とばかりに言いつつ。
肩のラウルを*そう、と撫でて*]
[ 少し高い所にある其処へと腰を降ろす。
足は宙へ投げ出し、手で地面を握る。
眼下に少し遠くある人の輪を見ようと首を傾けた。]
――――――…。
[ ただただ黙ってその光景を見続ける。
其処に、男が連れて来られるのはまもなくだろう。]
………そうだな。
このまま転がしてたら馬鹿でも風邪を引いてしまいそうだ。
[ラウルを撫でるアヤメから転がるラスに視線を投げ、呟く。
紫紺の翼を仕舞い、闇色の翼に触れぬ様に肩に担ぎ上げた。]
……歩きで行くぞ。疾風もいるしな。
[疲れて飛べないだろうアヤメに短く告げて、足を踏み出す。
ゆっくりと、だが確実に踏みしめて、儀式の間へと運んで行く。]
[詰問は始まる。力があるなら、それを今まで黙っていたこと、先刻の密告について、名を上げた青年を確認したいと思った経緯、そして、お前は何者か、と]
……っ……
虚を、視る……者……
[婆様から聞いた話を告げる。本来は、堕天尸がその素質のある仲間を見つけるために使った力。虚に引き寄せられ、取り込まれる者も多いと言う。話すたび、嫌悪の視線は増し、周囲からは拘束して結界樹に封印すべきとの声がちらほらと聞こえてくる]
――…虚の望み……?
それ、に…、エリカちゃんが。
[ふと、考え込む。彼女が以前、何を考えていたかと。
翼を厭ってはいなかったかと]
…ああ、分かった……。
[翼が無い世界なら、この関係はどうなるのだろうと思い至り、声は小さく掠れた。
手入れもしたばかりで、翼に痛みは無かったけれど、緩慢にそれを広げる。
今はただ、穏やかな*眠り*に付きたかった]
−聖殿−
[辿り着いた時には既に人垣が出来ていた。
それを無視して大股で進み、アヤメとラウル、疾風が続く。
肩に担ぐ細長い背に濡れた光を放つ漆黒の翼を見、競うように道が開かれていった。]
長老、ラスを連れてきた。
………お前、こんな所で何を。
[見覚えの在る小さな子供を見下ろし、眉を寄せる。
資質のある事は薄々感付いていたが、それが何かは知らず。]
……ラス、さん……?
[耳に聞こえた名、担がれたラスの姿に、思いがけず裏返した声をあげ]
……役目、と……禊。
[緊張から喉をごくりと鳴らし、意味不明な単語をスティーヴに告げる]
[闇色の翼に、戸惑いや恐れ、好奇などの喚声で場が満たされる。ラスの体がスティーヴの肩から降ろされ、スティーヴと長老が何かを話しているのが見える。やがて長老がこちらに向かって頷くと、それを合図にラスの前に歩み寄る]
……ラス、さん……
どうして……なの?
[闇色に染まった翼に、唾を一つ飲み。長老に顎で促されると、自らの白き翼を軽く撫で、ラスに手を翳す。徐々に縦に細められていく深紅の瞳に、かの者の姿が映し出される]
……っ
[白翼から湧き漏れる光は一点に凝縮し、やがて一枚の黒い羽根を地面に残す]
……終わった。
ラスさん……虚の、虜……だった。
[それを示す儀式に、様々な声が上がる。半数以上は非好意的なもののようだが、どうでもよかった]
……はぁ……っ……
[間近で触れた虚の気配は濃く、その甘美な誘惑に頬を紅潮させ、恍惚とした表情を浮かべて、定まらない視線をゆらり泳がせる。必死で意識を保とうと耐えながら、ラスの封印の準備をするスティーヴの姿を*眺めていた*]
[ 聖殿の中のできごとを捉えることができず。
広場の人々のざわめきなどから、到着を知った。]
嗚呼、やはり。
残念ですね。
[ 気が抜けていたのか、羽根は闇に紛れる。
虚が踊るように自分の周りを飛ぶ。
極力、気配を消すように。]
肝心なところは見られませんね、これでは。
[ そう言って首の傾きが増す。
言葉に反応するように、虚が踊った。]
[ やがて光の波動が聖殿から漏れれば、虚は羽根へと姿を隠す。
それと共に、幻視を強めると金色に輝きを取り戻す。]
気配が消えましたね……。
[ 淡々と事実を述べた。]
全てのものは表裏一体。
それは結界樹ですら同じこと。
強い光の傍には底のない闇が潜んでいる、と。
私はそう思うのですが。
まぁ、救われるのでしょうか。
結界樹の中で。
[ 立ち上がり、羽根を広げる。
結界樹に向かって言葉を紡いだ。]
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