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にい、さ…
[はたはた。はたはた。
抱きしめられても、落ちる雫は止まらない。
むしろ一層、増すばかりで]
ごめんな、さい。
[小さな小さな謝罪の言の葉。
ゆっくりと、身体を離そうと身じろぐ]
[エーリッヒからの問いにも返答は無かった]
[その足取りはしっかりしていて、運ぶことに何ら問題ないことは見て取れるだろう]
[少女を抱えたまま向かうのは、少女が使っていた個室]
─ヨハナの部屋→ベアトリーチェの部屋─
[命の鼓動無き少女の骸を抱え廊下を歩く]
[ゼルギウスが通った場所に紅が点々と続いて行った]
[廊下を歩き続け、自室の隣の部屋の扉を開く]
[そこは抱える少女が使用していた部屋]
[扉を開け放したまま中へ入り、寝台に少女を寝かせる]
……お休み、ベアタ──。
[ただ見れば眠っているように見える少女]
[その姿にそう声をかけた]
[自分の弟を重ね合わせていた少女]
[自分の弟を重ね合わせていた青年]
[そのどちらにも、彼は拒絶され、否定された]
[無条件で信頼し、護ろうとしていた子達に裏切られた]
[蝕まれた精神はそれを負の感情へと変え]
[彼を完全に狂気へと走らせた]
[少女の骸だけが在るこの部屋で]
[彼は立ち尽くしたまま少女を見つめる]
[黒に彩られた彼の真紅から]
[白の残滓が一筋零れ落ちた]
[護るべき者を選ぶ二択で]
[彼が青年では無く少女を選んだのは何故だったのか]
[少なからず好意を持っていたであろうことは]
[今では本人すら知り得ぬ事実と成り果てた]
[ヨハナに近づこうとした子供の足が止まったのは、ウェンデルが部屋を出たのに気付いたからだった]
[狂気に捕われた薬師を追っていくのだと知って、子供は、その後を追おうと踵を返す]
[それを突きつけるようなエーファの言葉。
名前を挙げられなかった三人。即座に否定の言葉が浮かぶ]
…ライ、は。
……ころされた、よ。
[マテウスに応えて声を絞り出す。
残る誰がそうであっても、それは恐ろしい予想]
………人狼に。
ナターリエ、守れなかった。
あたしも、何も出来なかった。
[謝罪の理由を、ぽつりと告げる]
あたしにはナターリエを止められたかも、知れないのに。
[ナターリエに被せたエプロンを引いて。
そのポケットから、昨日渡された小箱を取り出す]
…。
そう…か……。
聞いて悪かった…。
[エーリッヒの言葉に沈痛な面持ちで応えた、
エーファの言葉は耳に入り]
他にも…?
[そういえばベアトリーチェはどうなったのだろうか?
ゼルギウスが抱えてつれていく姿は見えて]
ベアトリーチェは人狼だったのか?
彼女、ゼルギウスが連れて行ったみたいだったが…?
[問いかけながら視線はエーリッヒに向いたまま]
……答えは、一つか。
[蒼花の宣。
暗き翠は、静かに、現世を見つめる]
……家主殿……。
[六年前も、今も。
人狼と、強き縁を持たなかった自分。
親しき者の中にそれがいる。
その只中にいる、家主の胸中は、知る術もなく。
色彩は微か、陰った]
[俺は馬鹿だ。
死んでからそう気付いた。
狼を告発する以上に大切なことを忘れ
少しでも少ない犠牲にとどめるために使うべきものを
守るべき人たちを守るのがおのが義務であることにも気付かず
ただ猟犬のように本能に忠実に振る舞ったその結果
真に告発すべきものを見逃してしまった]
[渦巻く疑惑。信じたくない。否定。
老婆は未だ眠りの内に。
ゲルダとは共にライヒアルトの死に出会った。
感情を表に出さないことの多い彼女。相当な演技でないかぎり、あんな反応にはならないだろう]
あ、ぁ。
花の持ち主が言うんだ。
見極める者ほどの確証はないけれど、多分…。
[向き合う視線。翠は半ば恐怖の色に染まって]
ふぅん、そういうのが残ってるのか。
[ライヒアルトが告げた者等。
その事実は今入れた。]
もっと早く聞いておけば、色々と良かったんだろうな。
…さて。どう動くものやら。
ああ、悪い。あの場に居た『人間』を刺す訳にはいかなかったからな。
見分ける能力なんかあるはずないから、うっかり人狼を人間と判定するとか迂闊な事をしでかしたら、爺様に呪われる。
おっと悪い。ライヒベルトだったか。
[惜しい。]
そういう問題だと思うが。
生きているうちにやれる事はやっておきたかった。
いつ死ぬかなんて、誰にも分からないんだからな。
[それは沢山の死を見、墓を守っていた故感じたものか。]
[白の残滓が乾き消える頃]
[ようやくゼルギウスの身体が動いた]
[視線を落とした先には紅で汚れた服の端]
[着替えなきゃ、と考えて]
[開け放したままの扉の外へと足を踏み出した]
─ベアトリーチェの部屋→二階廊下─
[エーリッヒの応えに]
じゃあ、彼女を殺せば…終わるのか……?
[思わずつぶやいて出た言葉。
まだ、ベアトリーチェが死んだことは察していない様子だった]
………でも………
[子供は、朱花の主を見つめる。ガラス玉の瞳が一瞬揺れて、すぐに伏せられた]
一緒に、いては、だめ?
[彼の意志を問うたのは、初めてのことだった]
……ま、確かにそうとも言うが。
[呟くように、視線は、猫へ。
触れられる距離の、届かぬぬくもり]
……ライヒアルト、だ。
[再び、訂正]
生きている内に、というのは、否定はせんよ。
こうして、彼岸に身を置けば、何一つできる事はない。
……ただ、見届けるのみ、だしな。
[それでも、それが己が役割と、理解するが故か。
その事自体を厭う事はなく]
[自分が短慮を起こさなければナターリエは死なずにすんだだろうか?ライヒアルトは?
自分が追いつめなければゼルギウスはああまで狂うことは無かっただろうか−
最早生者の世界に干渉はできぬ。
嘆くゲルダ。おそらく、彼女の嘆きは……さらに重なることになるであろうと思われた。
その嘆きの大きな原因の一つを作ってしまったことにいかに歯がみしてみても、最早取り返しはつかぬ]
いや。
ベアトリーチェは、死んでいた、よ。
[終わるのか。終わって欲しい。
正確な知識があるわけではない。心が逃げようとする。
信じたくない。信じたくない。信じたくない]
終わるかな。
終わってくれた、の、か…。
[だがもし彼が人狼だったら。
もしも彼女が人狼だったら。
決めたはずの覚悟は既に砕けてしまっていた。
今すぐに新たな覚悟を決めることは。出来かねた]
…ゲルダ、どうしたの?
[小さく頭を振る。
そしてゲルダが何かを取り出しているのに気がつくと、そちらに声を掛けた。結論を出すのを厭うよに]
……ん。
[ふと、感じた気配。
対なる力の波動は微かに]
……レーネ?
の、訳はない、か……。
[わかりきった自己完結]
イヴァン。
いるのか?
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