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[アマンダの工房にたどり着くと、いつも通り外に出されているきっちり空になった油壷に、壷に入れてきた透き通った上澄みを足した。]
…今日のは、良い。
[ひとりごとを呟いて、きっちりと蓋をした。]
[油を持ってきてくれたイレーネに、歩み寄って声を掛ける]
おつかれさま、精が出るね。
[壷を戻すイレーネの呟きに、嬉しそうに微笑む]
そう、イレーネが言うなら、上物だね。
次の玉は、透明にしようかな。
[すっかり次の構想に夢中で、腕の事は忘れてしまいそうだ]
[嬉しそうなアマンダの顔を見て、少しだけ口の端を僅かに上げる。と、ふと気がついて]
…腕。何か…?
[アマンダの腕あたりに、違和感を感じた。]
−朝/ベアトリーチェの部屋−
[あおいそらの遠くには金の薔薇が咲いており、柔かに降り注ぐ日ざしは、ベッドの上に座り込んだベアトリーチェの横がおを照らします。けれども前髪に隠れてしまって、その眼の輝きを窺うことは出来ません。
小さなてのひらの上に乗せられた輪はへんに捻れていて、裏も表も、そして果てもありません。それが無限を意味しており、時空の属性を象徴するものであるとベアトリーチェは知りませんでしたが、触れていると、ほっとするような、ざわりとするような、不思議な感じがするのでした。]
【悠久なる領域を司りし力よ。
無限の輪より解き放たれて、此の世界に出でよ。
そして、愛し児のうちに――天の子のうちに、還り給え。】
[零れた声はすきとおっていて、まるでベアトリーチェのものではないようでした。
お日さまよりも眩ゆい光が輪の中から溢れ出して、昨日の夜のようにあたりを包んだかと思うと、小さなからだへと吸い込まれてゆきます。ふわり金糸が揺れて、顔があらわになると、眼が閉じられているのがわかりました。]
[光が消え、神の御子はゆっくりと眼を開きます。ほんの少しだけ、気をつけて見なければわからない程度に淡くなっていた髪のいろが、眼のいろが、肌のいろが、元のとおりのいろを取り戻していました。]
……お早う。
[宙に眼を向けながら、ベアトリーチェは微笑って、朝の挨拶をします。]
うん、 。
きっと、それがいいのだろうね。
[ひとりごとのように云って、首から提げていた指環をきゅっと握りしめます。
そしてベッドから下りて朝の仕度を済ませると、扉を大きく開いてぱたぱたとお父さんとお母さんのもとに向いました。朝ごはんを食べたあとには、いつものとおり、教会へと*駈けてゆくのでしょう。*]
[イレーネが微笑むのにも気付かずに、扉を開けて壷を中に仕舞う。
冒険者と言う名のごろつきに、せっかくの油を零されては敵わない]
ん? ああ…大丈夫だよ。
明日には、直るから。
[怪訝そうなイレーネの視線と声に、さすがは生命の愛しい子だなと感心しながら笑う。
けれど、アマンダは上手く説明できないし、する気もない]
お仕事の邪魔して、ゴメンね?
御代はまた後で、宿に届けるよ。
[上着の袖の下、微かに見える包帯の手を振って、踵を返そうと]
―昨夜・Kirschbaum―
[カウンターの隅から、一連の騒動を黙って眺めて居たが、やがてオトフリートが立ち去り幾つかの談笑が戻って
子供がするように、アイスティーに浮かんでいた氷を口へ含んだ。注文してから長く経って居たが、グラスの中の氷に溶けた様子は無く、運ばれたときの角を残したままだった。]
[短い挨拶を交わし、空になったグラスの横へ代金分の小さな銀貨を置いて店を出た。]
[少女の放った、強い天聖の力。
この街へ来てから何度か聞いた神童、という言葉とこの日の朝感じた強い天聖の気配とが、ベアトリーチェへ繋がった。]
[袖から包帯が見え、その白さに暫し目を奪われる。
そっと指を伸ばそうとしたが、アマンダが早口に話した事や肩がもう後ろを向こうとしている所を見て、]
…邪魔、じゃない。
気を、つけて。
[伸ばそうとした手を胸元に引き寄せ、そっと手を振った。]
―昨夜・広場、時計の下―
[夜は静まりかえっていた。大時計の、歯車が軋みあう律動までもが消えたように。]
ティル、ベアトリーチェ=ブルーメンガルテン、そしてお前。私もおまえたちの事など何を解るでも無いが……給仕が訳も分からず呆けていたな。
[遠巻きに眺めた蹲る姿に、寄り添う白梟が夜闇の中、さえざえと映える。]
[舌の上に残っていた氷欠を、噛み砕いた。]
[咎めるように、淡々と抑揚無く。]
[アマンダは、イレーネの伸ばされかけて戻された手に気付かない。
けれど、その言葉はちゃんと耳に届く]
そっか、うん。それなら、よかった。
またね?
[顔だけ振り向いて、小さく振られる手に笑う。
千花も円らな目でイレーネを見つめ、小さく鳴いた]
−→Kirschbaum−
―朝/Kirschbaum2F 東の部屋―
[ベッドの上に日が刺した。
白い肌はそれに照らされ、色素の薄い睫毛がかすかに震えた。
開かれたのはあおの瞳。
昨夜、意識を失うように眠ってしまったからか、今もだるそうに右を向く。
そうして服が破れたのを思い出した。]
着替えないと。
[ゆっくりと起き上がり、服を脱ぎすてる。
今まで長い袖に隠れていた右の腕は、枯れ木のように細く、乾いて、固くなっていた]
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