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……内は年月を重ねてはいても、私は未熟。
幼児と大差ないとも言えます、お気になさらず。
単純に力であれば、封じてどうしようと言うのでしょう。
そうすれば竜郷に待ち受けるは何れの滅びの時。
干渉した者が予想する者と相違なければ、
揺らすことは好んでも単に滅ぼすは望みではないはず。
―東殿の一室―
[椅子に座り目を閉じていた青年は閉じた時と同じように静かに目を開いた。
白昼夢は短いようで長く、長いようで短い。青年が再び動き出せる程度に休め、完全な体調とはまだ言えないが如く]
……少しはましになったかな。
[立ち上がる動作も滑らかに呟いてあれからどうなったかと知る為に部屋を出る]
未熟とは思えませんが。
[困ったような顔をした。]
……そうですね。
でも竜王方なら、あそこを出ることも出来るのではないかと思いますけれど…
[西の方に目をやった。どこか疲れた顔で。]
あなたは、目的を、何だとお思いですか?
[運がいいのか悪いのか、回廊に旧友の姿はなかった。他者を求め回廊を歩く途中、独特の香りが流れてきた。立ち止まり記録を辿る]
………触媒かな。ならば若焔か。
[離れた場所から扉を見つめ、袖から覗く指先を口元に添える。青年の司る智の中に触媒に関するものはあまり多くは無い。匂いだけでは判別できず、また邪魔をするのはよく無いと判断し足を外へ向けた]
いえ。
私が過ごした時間のみで言えば……
貴方よりも、大分、短いかと。
出るだけならば力技でも不可能とは言えないでしょう。
ですが、周囲に与える影響はどうなるやら。
それに長と言えど、必ずしも安定を好むとも限りません。
そうなのですか?
[驚いたように尋ねたが、すぐに言葉は止まり。]
……そうですね。
影竜王はおそらく苦労しているでしょう。申し訳ないと思っております。
[そうして傾ぐ顔を見る目は、暗い肌の色をとらえ。]
王を封じることにより――
あなたは、思い当たるふしが?
[引き寄せられるように、手が伸びた。]
―中庭―
…おや、あれは。
[竜の気配を求め今は静かな中庭に出ると、三対の二つである影輝と月闇が座り跪いているのが見えた。大切な話の途中であればと足を止め様子を見守る。影輝の髪の影は遠目からでは見えなかった]
……そうですか。
[少しの間を挟み、呟くようにこたえ。
それから、そっと伸ばした手は、止められずに暗い色の肌へと触れる。]
[視線を追い、顔はそこから、アーベルの方に動いた。]
[ 一時、その色を移ろわす。]
――触れるな。
[ 光の如く温かくも闇のように冷たくもなく、虚無でもない。月闇竜の手には、何かが蠢く感覚が纏わりついたろう。
それすら許したのは一瞬、影の手を、その手を払わんとさせたが。奧に在る眼は見せはせぬ。]
お邪魔してしまったかな。
[視線を合わせぬように、けれど完全に逸らす事なく青年は近づいていく。影輝の纏う衣装と違い、抑えられた風に黒に近い紺の上衣の裾と広口の袖が揺れた]
あれからどうなったか、話を窺える方を探していたのですが。
ギュンター殿とはあいにく会えず此方に。
[ギュンターの事を聞けば納得したように頷いた]
……失礼。
けれどオト殿、影に踏みいっても、
よいことはありませんよ。
[ 一転した声色は、幼児をたしなめる響きを持つ。]
月と輝き、闇と影は近しくも、
異なる存在なのですから。
申し訳ありません。
[触れた感覚は何なのか。
理解することはなかったが。
それは不快であったのだろうと、頭を垂れて。]
お怪我をなさったのでは、ないのですね……?
[僅か心配げな響きをもった声が零れた。]
[近づききる前に起こった光景に青年の口元に浮かぶ笑みは消え、光を反射するレンズの奥で二人の様子を観察するように紫紺が見つめる。
直に何事もなかったかのように近づき、話しかけたのだが]
異なる存在であるとは、存じております。
[声音に何を思うか、まなざしを伏せ。]
知りたいと、わずかに思ってしまったのです。
無作法をお詫びいたします。
[それから近付いてきた精神の竜に頭を下げ、挨拶を。]
側近殿はお忙しそうでしたから。
[そうして聞いた話を、口にした。]
いいえ、そのようなことは。
此処は皇竜王の居城、
誰かが占有出来るものではありません。
[ 訪れたアーベルに答え、ノーラは首を傾ける。問われる侭に、影の語れる事を述べる。
その黒き瞳は、真なる色を知りはせぬ。]
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