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この婆から皆に、ひとつだけ我儘を言わせてくれないか。
今日だけ、この婆のことを信じてほしい。ネリーの魂を送れば、それで狼は全ていなくなる。
もしも明日また誰かが犠牲になったなら、そのときは婆を殺せばよかろう。
皆が不安なら婆からでもいいが、そうするとまた一人、誰かが死ぬ。
もうそんなことは見たくない。
[考えておいてもらえないか、と言い残し、デボラは*居室へと引き上げていった*]
もしも、この人が本物なら。
しゃべれない方が、人狼には都合が良く無い?
[笑っていたと言う言葉に、胸を突かれた様に押し黙りかけ──、沈黙を挟んで言葉を続ける。]
何処から来た何者で、何故霊が見えて…、この街に流れてきた理由や怪我の理由が分からない方が、みんなが疑って都合がいいじゃない。
能力があると言ってる人じゃない人が、利害関係のない人が、カミーラの味方になるなら…。
一瞬、そう思ったの。
考え過ぎで意味が無い事かも知れないわ。
[キャロルの言葉をききとろうと、紅い唇をじーっと見る。]
…やだ、ノひと こワい イたい
デも……
[その後の言葉は聞き取りにくいものになり、うまく伝えられないのをもどかしそうにしている。]
[首を振る。
ギルバートに続いて、デボラが言葉を残して二階へ上がって行く。]
あたし、誰が人狼だかわかんないわよ。
でも、さっき…そっか。
ネリー、ミッキー、シャーロット。
婆さん、カミーラ。
…って線がふたつに分かれたんだね。
[もどかしそうな様子のカミーラに、]
痛い、怖い。…嫌ね。
あんた、何でも良いからもっとしゃべりなさいよ。…ね?
[パラパラと辞書を捲り、今、それ以上の質問の言葉が思い付かずに*顔を伏せた*。]
デボラお婆さんに何故言い返さないのでしょう。
[ぽつり。
イストー家のお墓に参りに来たミッキーのある日の姿を思い出す。片手に何時ものように大きなお菓子の紙袋と、それと大きな花束を持って、母親のお墓の前に供えていた姿。]
カミーラさん…
[彼は、シャーロットに投票はしなかった。
けれど、彼にはシャーロットにほぼ投票されるであろう事は分かっていた。
どうしたらいいのか、分からなかった。
彼は投票しなかったけれど、他の人は投票をして間接的に殺しているのだ…。]
カミーラさんは、どうして海に倒れていたのですか?
[キャロルから辞書を借りると、「海」と「倒れる」を探し出して、指差しながら尋ねる。]
[はっ!と突然顔をあげ、立ち上がる。]
ナシィン!!ナサァク!!
[うろたえたような、何かを探しているような様子で辺りを見回し、
外へ駆け出そうとする。]
…ァ………。
[また、喉がヒュウと風切り音を立て、苦しげに床へとうずくまる。]
掻き毟ると傷になります。
落ち着いて。
落ち着いて下さい。
[彼はカミーラと視線を合わせようとする。
それから、掻き毟ろうとする手を留めようとしてみた。]
─集会場・二階─
[彼は、キャロルがカミーラの体に毛布をかけるのを見つめる。先程、船の絵を描いた紙とペンは、カミーラの傍らの小さな机に置かれていた。]
ナシィン…ナサァク…
[何度か口の中で繰り返してみた。]
誰かの名前でしょうか?
[答える声はなかったけれど。
ふと、彼は最初にカミーラが倒れていた時の事を思い出す。自警団の青年が抱き起こしていたけれど、あの時も、聞こえなかったけれど、カミーラの口が動いて何かを言おうとしていたような気がした。
その事を、彼はキャロルに伝える。]
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