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[空っぽの硝子玉のような眼差しは、姉に似た髪の弟の姿を映しても見ては居らず。
差し伸べる手。
のばした指先から、ひらりはらり、零れ落ちる白い花弁。]
…俺にはなんにもできなかったよ。
ひょっとしたら、もしかしたら、最初に診療所を尋ねた時に…止められたかもしれねーのにな。
とりあえず、俺は。
こいつを連れて宿に戻るわ…。
自警団の連中は気にイラねーが伝えないわけにもいかねーしな…。
[と、ブリジットの様子を見て]
なんなら、お前も宿に来るか?
随分調子が悪そうじゃねーか。
[少し躊躇した後で、空いている片手をブリジットへと差し出した]
[刃の閃きを知覚する。
そうされても当然だと、ただ静かにそれを感じていた]
ああ、でも、ゲイトが。
[従順なる人の子が反応してしまうのではないかと危惧が浮かぶ。
しっかりと止めてくださいよ、と、既に届かない世界へと願う]
ユーディ!?
[ナイフを抜き取り、振り上げる動き。
何をしようとしているのかはわかる、けれど]
……落ち着け!
もう、死んでる……終わってるんだから!
[口にした言葉には、やはり微かな違和感があるような気がするけれど。
今はそれに囚われている場合でも、ない、と思い、押し止めようと手を伸ばす]
[荷物を持った方の手は下に下ろされ、空いている方の手は頭から耳を押さえるように変えられる。ユリアンに話しかけられればゆらりとそちらを見るが、声が届いているかはわからないような風情で]
大丈夫だ。大丈夫。
大丈夫、……
[自分に言い聞かせるように繰り返し。出てきたハインリヒやティルの方も一瞥し]
大丈夫、だ。
[手を差し出してくるハインリヒにも同じ事を言う。その手を見つめるでもなく見つめるが、ふらつきながらも駆けるように、現場へ向かおうとして]
…何処へ行ってしまったの?
[はらり、ひらり。
ほどけて舞い散り、降り積るのは花か雪?
それともそれは、重ねた月日?
ひとひらごとに、淡く、淡く。]
何方が良いのか、聞いただけだよ。
[ふ、と。
手を伸ばす直前に、男へと言葉を返す]
人の愚かしい部分ばかり見ていたら、
容赦したくもなくなるってものだね。
[その目には何も入らない。
その耳には何も聞こえない。
憎しみの記憶が螺旋のように立ち昇り、アーベルが殺された事実に絡みつく。
今まさにナイフが振り下ろされようとした時、エーリッヒの手がそれを止めた。]
いや……はなしてくださいっ。
[それを振り解こうと足掻く。]
だって、こいつが、アーベルを、殺したのにっ。
ゆるせないっ!!
何処、だろうね。
[触れるもの。
冷たくはなかった。
あたたかくもなかった。
淡く、散り、解けて、消えてしまいそうだった]
――…ごめん、ノーラ姉。
[見殺しにしたのは、自分だ。
それでも。
痛みなどない――筈なのに]
俺は此処に居る。
エルザ姉も、居るのかもしれない。
ノーラ姉の探すものは、何?
残れても、正気を保てた自身ありませんから。
[どちらにしても同じでしょう、と、そっけなく返す]
愚かさを極めると、人ですらなくなりますよ。
[皮肉な声。だがすぐに口を噤む。自らがその希望を奪った相手に掛けられる言葉など、持ち合わせていなかった]
なんて呼べばいいのか、わからないの。
…名前さえ、つけてあげられなかったもの。
[かつてそうしていたように、空いた手は居たはずの場所を優しく撫でて。]
なんて呼んで探してあげればいいのか、わからないの。
[ハインリヒの様子に、やはり問いかけるのは止めて。
戻り自衛団に伝えると言うのに軽く頷いた。]
気をつけて…。
[口にしたが、自分でも何に気をつければいいのかは良く分からなかった。
嘆くティルには、かける言葉が見つからなかった。
ただ心配そうな視線だけを送る。]
いいから、落ち着け!
[振り解こうとするのを、押さえつつ。
何とか、ナイフを離させようと試みながら]
そんなの、俺だって同じだよ!
俺だって許せと言われたら、素直に頷けやしない!
……だけど、ここで屍に八つ当たりしたって、何にもならんだろうが!
[名前さえ、の声に耐え切れず目を背けた。
本当は見詰めなければいけないのかもしれない。
自分が招いたものの結果、その一つを]
あぁ、
……そうか。
でも、ノーラ姉の声なら、
きっと――わかるんじゃないかな。
[それはきっと、気休めに過ぎないだろう。
けれど、それ以上、かける言葉は見つからない]
だって、だって……でも!
[足掻く力が急に無くなり、ナイフが乾いた音をたてて地面に落ちる。ユーディットはエーリッヒを見上げた。
目から涙の筋が幾つも伝っている。]
でも、私、何もできなかった……!
アーベルを、死なせないように、何か、できたはずなのに。
なんにも。
[顔が歪む。]
なんにも……。
[求める姉の声、
叫ぶ女の声、
重なり合う、異なる声は、
反響し合って、耳の奥にまで響く。
世界は暗い。
――如何して。
*何もかもを、他人事のように、聴いていた*]
[大丈夫、と告げるブリジットの様子は言葉とは逆のモノではあったが。差し出した手のやり場に困って、いつものように頭をポリポリと掻く]
そっかよ。まあ、でもあんまり無理すんじゃねーぞ。…これ以上なんかあるのは御免だぜ。ほんとに。
ユリアン、イレーネ。
診療所で何があったかは…自分の目で確かめとけ。
おまえらは、もうガキじゃねーし…。見ない方がいいもんだけどよ…。でも見とかなきゃなんねーもんでもある…と俺は思うんだな。うん。
[うし、と一言気合を入れてティルを背中に負うと]
結構、おもてーな。運動不足の年寄りにゃきついかね、こりゃ。
[そう言いながら診療所を後にした]
[ハインリヒの後悔を聞き、ティルを連れて戻ると言う言葉には頷きを返す。
ブリジットはこちらに視線を寄越したが、どこか自分に言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返すばかり]
…そうは、見えないんだけど。
[診療所の方へ向かおうとするブリジットに、一言そう向けた]
[からり、と落ちたナイフ、その軌跡を辿りつつ。
泣き顔で見上げるユーディットに、静かな目を向けて]
……それは、むしろ俺がいう事だよ。
あいつの性格を考えるなら……手の届く場所にいるべきだったんだ。
そうすれば、こうなる前に。
阻めたかも、知れないのに。
[掠れた呟きは、悔しさを帯び]
……ユーディが、そんな風に思いつめる事は、ない。
そんな風に思われても、あいつの事だから……多分、喜びはしないよ。
自分で考えて、自分で決めて、やった事だから、って。
だから、そんな風に自分を責めずに。
[な? と言いつつ。宥めるように、ぽふぽふ、と背を叩く]
…そうね。ありがとう。
[微笑みは、まるで他人行儀で。
ふわり風に漂うように、裸足のまま歩む。
まだ名の無い子を呼びながら。]
[肩で息をしながらやっとの思いで宿へとたどり着く。自警団が数人まとわりついて来たが診療所での出来事を伝えると慌てたように「報告に行かねば!」と走り去って行った]
やれやれ…こいつの事とか気にならねーのかね。
此の村の自警団もじーさんが居なくなった時が終わりだったかねえ…どーにも。
[自分が泊っていた部屋のベッドへとティルを寝かせると、自分も力尽きたようにその横へと倒れこむ]
色んな事が起きすぎなんだよ…ったく。
[ここ数日で起きた様々な事が頭を巡り、そのまま眠りへと落ちて*いった*]
[びくりと、ハインリヒの言葉に身を竦ませる。
見たくなかった。だが見た方がいいとハインリヒは告げる。
足は竦んで動かないが、どうした方がいいんだろうかと。
二人を見送ったあと、ユリアンを見上げた。困惑したような顔で。]
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