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─宿屋・食堂─
[食事を進めながら二階に居た残りの者達が降りて来るのを見て。
ふと、カルメンへ視線を止めると]
(…そう言えば。
人形はどうなったんだろう…)
[自分が依頼した人形は完成をみているのだろうか、と。
考えた途端、完成しても見ることが出来ない可能性を思い出した]
──カルメン、僕が依頼していた人形は、どうなった?
[問いの返答はまだ終わっていないと言うもの。
それを聞いてあからさまに落胆した]
[あげられた声にきょととするも
クロエの表情が笑みに変われば安堵の色を浮かべる]
謝らなくていい。
謝るのは私の方だ。
あ、ゼルギウスか……?
どうもイレーネに隠したい風でな。
無理に診るのも悪い気がしてな。
ゲルダとベッティはー…、あー…
取り替えてねぇがゲルダの方は痛みは引いたってさ。
……って、ひとの心配ばっかだな。
もうちょっと自分の心配もしようぜ。
[やれやれと肩を竦めとクロエの隣に腰を下ろす]
……え、作るのは継続出来るのか?
[それを見かねたか、作りかけの人形を持って来ていることは聞けて。
僅か喜色を浮かべる]
完成、楽しみにしているからな。
[その時はそう言って、食事を終わらせたのだった]
ン―――…
[外を少しだけ覗いてみるが当然望む人陰は見えず。
出入り口付近の椅子に座ると脚を抱えるようにして。
イレーネ、ゼルギウスの二人のやり取りを見詰めながら、
何処か落ちつかなさそうにしていた。]
帰るなら一緒にだ。
連れて帰るって言って出てきたしな。
[クロエの笑みからその心は知れない。
軽く笑みを彼女に返してから湖面へと目を向けた]
―宿屋 食堂―
[幼馴染がカルメンとユリアンを伴って降りてきたり、
皿が割れる音がしたり、クロエが出て行ったりとしたが、
夫の傍を離れる程の理由にはならずに。
別の幼馴染が夫に何かを渡したのには気づかず、
何となくそわそわとした夫の様子を見て、少し首を傾げたが]
ゼル、お水いる?
[水でも欲しいのかしらと尋ね、所望されれば席を立ち、厨房へと向かおうと。]
そうなの?
ゼル兄が隠そうとするんじゃ、イレ姉余計心配しそうだけど。
ゲルダは、そっか…良かった。
それじゃベッティに…って、ライ兄?
[大丈夫かな、と宿屋の方角に視線を向けて。
ゲルダは痛みが引いたと聞けば、少し安心したように表情を緩ませた。
ベッティがまだらしいと思えば早く戻って、と言いかけたものの隣に座ったのを見るとその顔を見てきょとんとした。]
[同じ罪悪感をダーヴィッドに対しても少しは感じているのだけれど、それほど強く思わないのは、いや、思えないのは。
奇行っぷりしか目にしなかったからだろう。
ベッティなどは助かったと言っていたが。
あれも結果オーライだっただけだと思っているし]
え?
[隣に座り湖面を見つめるライヒアルトから言われた言葉に、約束の相手が誰か推測できて。]
…ごめんね。
心配かけたくなくて出てきたのに。
[ライヒアルトが来る前と同じ姿勢に戻って、小さく謝った。]
隠しきれなんてしねぇのにな。
あいつ、すぐ顔とか態度に出るから。
それでも、……心配かけたくないから黙るんだろうな。
[苦い笑みを浮かべクロエに頷く]
え、って、何だよ。
一人飛び出したお前さんをほって帰るほど
薄情な男にみえるか?
[見えるから言われたのかもしれないと思えば
カリカリと後ろ頭を掻いて]
心配の一つや二つ、掛けても誰も文句言わねぇよ。
この村のやつらはほんと甘えるのが下手だねぇ。
[謝る彼女に小さく首を振る]
[イレーネが願いを聴き届けてくれ、厨房に向かったなら、こそっと貰った薬を取り出し粥の上にざっとかけた。
それを、彼女が返ってくる前に、もごもごとかきこんで、ぜぇっと息吐く様は、ゲルダやミハエルが注視していたらバレバレであろうか。]
ゼル兄は真っ直ぐだから。
…うん、そう、だね。イレ姉は、赤ちゃんもいるしね。
[苦笑を浮かべゼルギウスのことを話すライヒアルトに頷きを返して。
薄情に見えるかと言われれば慌てて顔を横に振った。]
ち、違うよそうじゃなくて!
…じゃあ。
甘えるていうか…懺悔、聞いてくれる?
[ライヒアルトの顔を見つめた後、湖へと視線を向けて、ぽつり。]
―――…大丈夫かな
[椅子の隣にはカーテンが掛けてある窓を覗き。
漆黒の闇が広がるのを眺めながら物想う横顔。
視界の端にゼルギウスを収めたまま、唯無言で様子を覗い。
御粥の上の薬は苦いだろうなとも思いながら。]
ン、ダメダメだね
こんな時どうしたら好いんだろ…。
[恐らく強い悔恨の念が、死者として感じ取れるのか。
ユリアンの心の声が彼女へと伝わってくる。
だが、その声を彼女は一笑に付すると、]
ハッ。あいかわらずユリアンは生真面目だな。
…………俺がんなこと気にするわけないだろーが。
朽ちた俺で誰かが救えるなら、そこに悲しみなんてない。
だから、ユーリにぃはきにすることなんてねーんだよ。
[と、自分の口から出た「ユーリにぃ」という呼び方に、くつりと笑うと]
ああ、そういえば「ユーリにぃ」なんて昔は呼んでたのか。
[そうして思い返すは、村を飛び出す前。
ちょうど、粗方の村に残る人狼伝承を読み解き、自分なりの解釈を持ち始めた頃のこと。
年数にして、確か7、8年前くらいの頃だったか。]
ねぇ、ユーリにぃ。この村の人狼伝承って知ってる?
……外には他にもそういう話ってあるものなの?
[そう言って見上げるのは、ここ数年夏に訪れるようになった商人親子の子の方。
歳も近く、ゲルダやベッティ、クロエといった親が商いを行なっていた幼馴染経由で話すようになっていた。
……ああ、そう言えばこの頃、まだ俺も女らしい口調だったな。]
[そうして聞かされた外の伝承は、俺の興味を引くに十分すぎるもので]
そっか、外の世界にもそんなにいっぱい伝承があるんだ。
…………ねぇ、ユーリにぃ。わたしも外の世界に行きたい。
だから連れて行って。わたし、なんでもするから。
[ああ、若さってほんと恐ろしい。
「なんでもする」なんて、外の世界を知った今となっては、とてもじゃないが言えない言葉だ。]
まっすぐだな。
ま、お前さんもまっすぐだと思うけど。
[クロエが慌てる様子にはふっと笑い]
そんなに焦ると図星さしちまったかと思うぞ。
……ま、違うってンなら信じるか。
――…懺悔?
[紡がれた言葉は彼女の印象と重ならず
僅かに首を傾ぎながらも一つ頷き]
それでお前さんの心が少しでも軽くなるなら
いくらでも聞くよ。
―翌日 早朝―
[起きるのが夫より早かったのは、
昨日のように目覚めて傍に居ない不安のないようにという想いから。
目の前で寝息を立てる人にほっと息をついて、唇に軽く口吻けを落としてから
腕から抜け出しベットを降り、起き抜けに水を貰おうかと思い、部屋を出た。]
…………。
[廊下に出れば、微かに鼻に届く鉄の匂い。
それに眉を潜めながらも、
その元を知ろうとしてか、引き寄せられるように足が向いた。
たどり着いたのは一つの部屋の前。
それが誰の部屋かは宿主でない自身は知らない。
だがその扉に手をかけた。
鍵はあいていたのか、それとも何度も回しているうちに古い鍵は解けてしまったのか
ともあれ、扉は開かれて――――]
―翌日 早朝―
……ユリアン、さん。
[扉を大きく開けたまま――その為、血の匂いはより濃く廊下に広がる事になるか。
床の上に仰向けに転がる死体は、人の大切な部分が欠落しており
投げ出された四肢はまるで未完成な人形のよう。
――口元を抑えながらも、視線を逸らすことなくじっと見つめていた。
それは呆然と、立ち尽くすようにも見えるか。
誰かが来て声をかけるまで、母になりかけの女はその場から動く事はなかった。
顔色は悪く、微か震えて、
瑠璃の瞳はじわと湧く涙に濡れたか、*鮮やかな濃い色をしていた。*]
[ライヒアルトの返答を聞けば、ありがとう、と泣きそうな表情で笑んだものの。
すぐにその笑みは消え、ただ真っ直ぐに水面を見詰め。
小さな声で、話し始めた。]
昨夜ね。
自衛団の人に連れてかれて、あの男の人のこと見たの。
あの赤い髪の、ベッティのこと助けてくれた人。
私、あそこで横たわってたのがあの人だって気付いた時…
良かったって、思っちゃったの。
[そこで一旦言葉を切ると、視線が下に下がり。
少し、声が震えた。]
ゲルダやベッティ達じゃなくて良かった、って。
そんなこと、思っちゃった。
人が死んだことが、殺されたことが、良い訳ないのに。
だから、ね?
今日、ブリジットが、殺されたの、もしかして。
私がそんな事思ったから、罰が当たったんじゃないかって。
私のせいでブリジットが襲われたんじゃないかって。
そう、考えたら、止まらなくて。
ブリジットが聞いてたら、きっと怒るって、そんなことあるわけないって言うだろうって思うけど、それでも。
それでも、私、自分が、許せなく、て…っ
ねぇ、ライ兄。
なんで私の目は、死んだ人のことしか視えないのかな。
生きてる人のこと視れたら、ブリジットは死なずに済んだんじゃないかな。
あの男の人だって、私の目がもっと役に立てるものなら、死なずに済んだんじゃないかって…
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