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[鞄を片手に廊下を歩いてゆくと、前方に小柄な影が見えた]
あ、マイちゃん。
[動きやすそうな格好に銀のバトン、全身汗だらけの状態に小さく笑った]
今日も暑いよね。練習、お疲れ様。
―剣道場―
[ぱぁんっ!と乾いた音が響き渡る。
次いで、響く、踏み込みの音。
鋭い気合。気迫の交差。
夏の熱気とは異なる熱さの支配する空間に響く、音、音、声]
「……レベルたけぇ……」
[離れた所でその様子を見ていた一年生がこんな呟きをもらす]
「各務センパイって、確か中学時代に全国大会二連覇してるんだっけ?」
「去年の新人戦も凄かったっていうよな〜」
「その各務センパイと渡り合ってる香坂センパイも凄いよなぁ〜」
こんな日は気力も萎えちゃいそうだよね。
ええ、ちょっと図書館まで調べ物に行こうかと思って。
あそこなら涼しいし。
[一石二鳥になるから、と笑った]
そうそう!外きっつくって!
練習中断!
[笑って]
そっかぁ
図書館はすずしいよねー
わたしもあとでいこうかなぁ……
あ、シャワーあびたらだけどね!
[*本気で考えているようだ。タオルぱたぱた*]
[そんな後輩たちのやりとりなど、当然の如く意識の外。
ぶつかり合う当事者たちは、相手の隙を読む事に神経を集中させて。
ケンの竹刀が微かに揺れる。
深呼吸、一つ。
気合と共に踏み込み、面を打ちに来るのをいなし、気合を放ちつつ竹刀を横に滑らせる。
伝わる手応え。
竹刀が胴を捉えれば、そのまま打ちきる。
ざわめき、後、静寂]
「っきしょ〜……お前、そこから抜き胴とか、避けらんないからっ!」
避けらんないから、って、避けられたら困るからっ!
[礼を交わし、面を外すなり文句を言うケンに、*浮かぶのは苦笑い*]
[自販機で飲み物を買いながら
寮に戻ると、廊下を駆け抜ける小さな影。]
マイコ、こんな暑い中で練習?
脳が煮えて馬鹿になる。これ以上馬鹿になってどうするの。
ちゃんと水分取りなさい。
[フユはややあきれ顔でマイコを引き止め、飲みかけのスポーツドリンクを押し付けた。
浴場へ向かうのか、マイコは走り去る。]
……暑い中で走り回ってられるかっての。
そうね、汗かいたままじゃ気持ち悪いもの。
それじゃ、また後で。
[頷いて、部屋に戻るマイコと一度別れた。
すぐに用意を整えて出てきた彼女に追い抜かれたりもしたが。
暑くてもまだまだ元気なその様子に笑みが浮かぶ]
[廊下の先、こちらに向かってきた先輩がマイコにスポーツドリンクを渡すのが見えた]
こんにちは、榎本先輩。
先輩も残られていたんですね。
[そちらに近付いて丁寧に頭を下げる。
憧れの先輩を前にして、少しだけ緊張しながら]
−朝/自室−
[帰りが遅かった事もあり、すやすや、夢の中。
二段ベッドの上で、寝返りを1つ、2つと打つ。
一応は身体を覆っていた毛布は隅っこで丸まって、
一緒に蹴られた何かは柵を乗り越えて床に落ちる。
蹴った当人はと言えば、暑さのせいで寝苦しいのか
また何度か横に転がって、
ガツンッ
―――盛大に、壁に頭をぶつけた。]
………ぅうぁ〜…、
…目ぇ覚めた。
脳細胞何万個か、死滅したっぽいケド。
[目の端にじんわり涙を滲ませながら、身を起こす。
カーテンの合間から細く差し込む陽の光に朝を知る。
まだじぃんと痛む頭を幾度かさすると、伸びをして。
柵に手をかけ、身体を乗り出して、ぐるんと下を覗く]
タマキ、はよーっす…って、
[が、空の、整然としたベッドを見て、ぱちくり、瞬き。
―――そういや、家帰ったんだっけ。
ああ、と思い当たって、ひとり納得する]
[転がり落ちていた何か―――
黄色いピーマンに、羽のような手の生えたぬいぐるみを
拾って抱きかかえると、ぺたん、と座り込んだ。
残る眠気に欠伸が出そうなのを堪えると、また涙が滲む。
抱いているそれだけではなく、
机の上や、部屋のあちこちに置かれているぬいぐるみたち。
小さなものから大きなものまで、種類も、多種多様。
何よりベッドの中には大量で、三分の一程を占拠していた]
…慣れねーなぁ。
[暫くぼんやりとしていたが、ぽつん、呟きを落として。
僅かに開いた窓の向こうからは、聞こえる蝉の大合唱。
それを塗り潰すように、遅れて、目覚ましの音が*鳴り響いた*]
はい、私は多分これからもずっとですけれど。
残っている人、意外と多いんですね。
[仲の良いクラスメイトやルームメイトは殆どが帰郷したので、そちらの方が多いのかと思っていた。
初めての寮の夏休みは、案外賑やかで]
先輩は何かご予定があるんですか?
ふうん。
帰らないの。
[『アンタ見てると家庭円満って感じがするけど』
言いかけた言葉を飲み込んだ。複雑な家庭事情の持ち主が居ない訳ではない。例えばフユのルームメイト。
廊下の壁に軽く肩をもたれかける。壁が冷たい。]
本当、人が多くて嫌になる。意外と、ね。
いつも帰ってたから、常にこうなのかは知らないけど。
私は、受験生だから。
こっちの方が敷地が広い。練習には向いてるの。
はい、両親ともに海外ですから。
[飲み込まれた言葉までは分からない。
小さく首を傾げてそう答えて]
そうですね、もっと静かになるのかと思っていましたけど。
先輩は音大を目指されていたのでしたか。
確かに学校の方が練習しやすいのかもしれませんね。
[フルートの音色は朝の生徒会室で良く聞いていた。
澄んだ音色に聞き惚れた、それが興味をもった切欠]
もし良かったら、今度どこかでフルートの演奏を聞かせていただけませんか?
一度ちゃんと聞いてみたいと思っていたんです。
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