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……ぅぁー、もう。
わかってる、ってば、それは。
[親御さんがどうのとか、兄弟がどうのとか、いつまでも子供ではないのだから、とか。
重ねられる言葉は、さて、何度聞かされたのやら。
疲れたように反論すれば、その態度のどこが、との言葉と共に、拳が頭に落ちる]
ってぇなぁ、もう……。
[思わず上がる、恨みがましい響きの声。
屋根の縁に止まって傍観している隼が、こてり、という感じで首を傾げた]
―広場―
[広場に置かれたベンチ、その中の一つに彼の姿はあった。
既に投函した後らしく、手紙はその手には無い]
ほんと。
平和、だねえ。
[のんびりと呟いた言葉ははしゃぐ子供の声に紛れる。
両肘を膝につき、両掌で頬を抱えながら、陽光に煌めく水と風に流れる花を眺めていた]
[恨みがましい声に、再び重ねられそうになる、小言。
これ以上ここにいると、楽団の稽古場に強引に連れ戻される、というのは、本能が察知させた]
あ、と、俺、これの落とし主探さないとなんないからっ。
んじゃ、そーゆー事でっ!
[先ほど掴んだ帽子をひらり、と見せ、何か言われるより先に走り出す。
屋根の端に止まっていた隼も翼を広げてついてきた。
背後に小言の続きを聞きつつ、人ごみに紛れるようにとかけた先は、大通り方面]
─ →大通り─
― 広場・露店 ―
みんな、お財布の紐が固いよ。
お祭りなんだよ。パーっと使っちゃえばいいのに。
[朝に店を広げた時とほとんど変わらぬ商品の山の中心、両腕を伸ばして大きく息を吸いこむと、嗅ぎ慣れた花の香り。気持ち良さそうに笑みを零した後、心機一転、目を凝らしてターゲットを探しはじめる]
─大通り─
現在地は、っと…。
[案内板の目の前]
[観光客も多いその中で異色の雰囲気を放ちながら案内板を隻眸で見やる]
[振り撒く手巻きタバコの薫りに眉を顰める観光客も多かったろうか]
……詰所は反対側らしいな。
まぁ良い、場所さえ分かればいつでも行ける。
[街の地図を頭に叩き込み、隻眸を案内板に向けたまま踵を返そうとする]
[人混みを駆けて来る誰かに気付くのは数瞬の後]
[相手が気付かなければぶつかりかける位置に居るか]
―広場:露店近く―
[真っ黒に汚れた姿のまま、広場の露店を見て回る。
と、そこに見たことのある姿を見つけて。
小さく声を上げた。]
あっ!
ベッティ?!
[行儀悪く、指を指す。]
─大通り─
どーにか、まけた、かな?
[背後の威圧感がなくなった所で小さく呟き、ちら、と後ろを振り返る。
意識が後ろにそれていれば、当然の如く前は疎かになるもので]
……っと、わっ!?
[前に向き直ったなら、わりと至近距離に人の姿。
慌てて足を止めるも、急制動にバランスが崩れかけ──]
[お客になりそうな人を探していると、名前を呼ぶ声に振り返った。目に飛び込んできたのは真っ黒に煤けた姿]
うひゃあ!
……だっ、誰よ誰よ?
[店に座ったまま、胡散臭そうに声の主の顔を覗くように見やる]
― 広場・露店 ―
わー! 久しぶりっ!
オレオレ、カヤだよ! 忘れるとか酷ぇ!
[真っ黒な姿のまま店に両手を着いて、乗り出す。
べたり、手形スタンプ。]
さて。
そろそろ宿舎に……?
[噴水から視線を外し立ち上がり、ふと瞬く]
何だろう、あれは。
…人?
[遠目に映したのは、真黒にも程がある、広場には異様な色彩。
その姿が露店の一つで立ち止まるのを見て、どうやら興味を引かれたらしい彼はそちらへと足を進めた]
─大通り─
[右側は死角、そちらからの視覚情報は全く無い]
[はずなのだが]
………!
[僅かな風の動き、そして上げられた声に右手がポケットから滑り出た]
[滑り出た右手が伸ばされたのは──]
[わしゃり]
[ぶつかりそうになった人物の頭]
[広げた右手が相手の頭を鷲掴む形に]
カヤ……?カヤ……
[手を顎に当てて、悩める顔]
なんだ、カヤかー。伝説の黒い人かと思ったよ。
……きゃー、手っ、手っ!そこで止まってー動かないでー!
[黒い紅葉模様が目に入ると、思わず悲鳴をあげて立ち上がった]
……あっぶね……。
[どうにか転ぶのも、再度帽子を飛ばすのも免れて、ほっと一息。
なんて、悠長に構えている場合ではなかった。
らしい]
……はい?
[不意に頭上にさす陰り。一体なんだ、と思うのと、頭が掴まれるのとは、ほぼ、同時]
って、ちょっ!?
何すんだよ、いきなりっ!
[状況が全くわからない事もあり、上げた声は、僅か、上ずっていた]
[右半身の状態から顔だけを右へと向ける]
……何だ、ライヒと話してたガキか。
[見覚えだけある姿に紫煙交じりにそんなことをぽつり]
何かがぶつかりそうになったんでな。
つい手が出た。
[悪びれも無くそんなことを言う]
― 広場・露店 ―
あ、あーー。
うんちょっと今日仕事とヘマとしちゃってさァ、
ごめんごめーん!
[ケラケラと笑いながら、黒い手で頬を掻けば
更に黒は伸びる。
立ち上がる相手にもにこにこの笑顔を向けてから
ふと横を向き、向こうに見える影に、固まった。]
…ぅぇ…
つい手が、ってそういう問題かよっ!
[悪びれた様子もない言葉に、大声を上げつつじたばたする。
やや勢いが弱いのは先ほどの自衛団長との遭遇のせいか、それとも漂う紫煙のせいか]
仕事帰りなんだ。
もう……顔くらい洗ってから来なよ。
[伸びた黒に溜息をついて、商品を拭くための布を桶の水に浸してから絞り、カヤに向かって放り投げ]
カヤ、どしたの?
[視線は、カヤの視線の先へ]
そう言う問題だ。
俺の右は死角なんでな。
[ばたつく相手にようやく掴んだ右手を離す]
[右手はそのままポケットへと捻じ込まれ、半身から相手へと正対した]
弱点突かれてぽっくり逝くわけにはいかねぇ。
防御行動だ、気にするな。
[どこまでも態度は尊大]
[右が死角、という言葉。
手が離され、ようやくその意を認識する。
先の広場では、ロクに顔も見ないで脱兎したから、気づいてはいなくて]
防御行動とか、弱点とか……なんか、物騒なおっさんだなぁ……。
[改めて見た風貌と言葉に、思わずこんな事を呟いた]
[黒い人が振り向く頃、距離は大分近くなっていた。
だがすぐにそれと分かる状態ではなかったらしい。
首を傾げて、数刻]
…ああ。
誰かと思えば、きみか。
随分と奇抜な格好だね。
[手を打つ。
固まっているのには気付いたのかどうか、全く悪びれもせず笑みを向けた]
それと。
そちらのきみも、お久し振りかな。
[次いで視線は露店の主へ]
― 広場・露店 ―
帰るよりそのまま見てった方が効率いいだろ?
[濡れた布を、小さく礼を言いながら受取り
顔を拭きながらライヒアルトの方へ、半眼を向けた。]
奇抜で悪かったな。
こんなトコでまで説教すんなよ?
[腰を落として力いっぱい警戒体制。]
さっきまで裏路地に居たんでな。
[さらりと問題発言]
[呟かれる言葉にはくつりと口端を持ち上げた]
この風貌で難癖付けられることも多い。
身に染み付いた行動なんだよ。
んで、人混みん中駆けて何してんだサボり魔。
鬼ごっこか?
[手巻きタバコの煙のこともあってか、良い玩具と認識した模様]
[ニヤニヤと笑みを浮かべながら訊ねかける]
効率の問題じゃないわよ。景観の問題。
[カヤに言いながら、視線の先の人物が近づいてくるのをじっと見つめていた。かけられた声には]
ええ、お久しぶりです。
……何か買っていきませんか?今ならこちらの壷なんてオススメですよ。
三千五百年前に作られた、とおっても貴重な代物なんですよ。
[極上の笑顔(商売用)を作ってお迎え]
裏路地、って……。
[『そこ』がどんな場所なのか、一応、知らぬわけではなく。
それだけに、目の前の男への危険人物認定度は上がった]
ま、なんも言わなくてもケンカ売ってるっぽくみえるもんな。
[また、ぼそ、と呟いて]
……っつか、サボり魔じゃない。
アーベル、って名前が、ちゃんとある。
[サボり常習犯の自覚はあれど、そう名指しされるのはやっぱり癪で。
むっとしたように、名を告げた]
酷い言い種だね。
[警戒の視線も素知らぬ顔で受け止める。
わざとなのか天然なのか]
別に何も言いやしないさ。ぼくはね。
尤も、神父様に見られた場合は保障しないけど。
…はは。
随分と仕事が板について来たようだね。
[少女のほうはと言えば、挨拶もそこそこに向けられた商業スマイルにやや苦笑い。
しかし勧められた壺を目にすれば、途端眼差しは真剣そのものに変わる]
興味深いね。
それ程の代物、どうやって手に入ったんだい。
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