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あ、でも崩れてる場所もあるんだったな。
ルート、変えるか……。
[呟きながら、アトリエを出る。
いつもはちゃんとしまっておく二本の絵筆。
代々の『絵師』が手にしてきたそれを収めた細工物の箱を、作業机に置いたままにしている事には、*気づかぬままに*]
― 図書館 ―
[書庫の片隅のデスクに戻り、今日の日誌をつけていたところへ、薬師の声がかかって、立ち上がった]
・・・と。
[薬師の姿が見える前に、噛んでいた蜜蝋を紙に包んでくずかごに捨てる。彼女には匂いで混ぜ込まれたキノコの少々危ない成分が勘付かれてしまいそうだったから、自分用にいれていたキノコ茶を一口啜って、口の中も洗っておいた]
ああ、調合用の本か。少し待ってくれ。
[所望された本を記憶から検索して二冊ばかり書架から取り出す]
これとこれが参考になるだろう。そちらの写しは、俺が直そう。読んでいる間に仕上げておく。
[渡した二冊と引き換えに、文字の薄れた一冊を受け取り、絵師の事を問われると]
子供を避けて転んだらしい。湿布は貼ったが、全治三日といったところかな。
[あっさりと暴露した]
食事も相変わらずろくに食ってないようだ。一度苦い栄養剤でも処方してやってくれ。
[さらにダメ押し]
[薬師が読書室へ本を持ち出した後、預かった本の薄れたページを別の紙に丁寧に書き写して、差し替えていく。薄れている方の紙は、後で再利用するためにストックした]
[やがて読書室の薬師に修復した写しを渡すために書庫を出て、教え子が残した壮大な誇大妄想を聞かされ、眉間に皺を寄せるのは、もう少し後のこと**]
―自宅―
[エルザを招き。しばしの会話(といっても喋ってるのは主に両親やエルザだったが)の後]
お、帰るのか。また来たい時や何かあれば来いよ。…だろ?親父
[といえば、「うむ」と頷き。母は母でおみやげをエルザに持たしたりなどしていて]
じゃ、またな。結構すぐ会うかも知れねえけど
[何せこの町意外にないしなぁ。と思いつつエルザを軽く手を振って見送った]
― 図書館/読書室 ―
あ っと。
しまったな、時間をかけすぎたか。
[頁を繰る手を止め、顔を上げる。
入って来たばかりの時には賑わいを見せていた室内から
人の気配は幾分失せて、調査は予定の項目を大幅に越えていた。
集中する性質のため、噂話に気付かなかったのは恐らく幸運。
卓上にばらける、幾枚も書き連ねた紙を纏めていく]
それにしても、全く。
原因が原因とは言え……
一度で懲りれば私も苦労はせんのだがなぁ。
[愚痴の内容が誰に向いているかは明白だった。
ずり落ちかけた眼鏡を上げ、代わりに溜息を落とす。
しょっちゅうぶつける割には奇跡的にレンズは無事だった。
度が合わないのはその代償かもしれないが]
[本を返して立ち去っていく人々を見送りながら、薬師の愚痴を耳に止め、僅かに口の端を上げる]
薬師殿は苦労性だな。
[つぶやきは独り言に近く、本人に聞こえたかどうかは分からない]
いかん。
歳を取ると独り言が多くなるな……
いや、私はまだ歳じゃない……
[勝手にどつぼにはまりつつ、
開いたままの本を閉じようと手を伸ばす。
そこには薬のイメージとは縁遠いような、
水晶花との呼び名を持つ花が描かれていた。
その澄んだ紫は、染料にも用いる事が出来ると聞いた事がある。
もっとも、描かれたそれに色はなかった]
先人は偉大だな。
[また独り言。
それに重なるように、別の声が微か届いた]
[のんびり、特に宛もなく……というか、一応、目的地は決まっているのだが。
急ぐ必要もないので、のんびり、のんびりと歩いて行く。
痛みが残っているのは、一応、否定するつもりはない。らしい]
……お。
[不意に歩みが止まったのは、壁になされた様々な落書きが目に入ったから。
自分も昔やったなぁ、と。
ふと過ぎったのは、そんな感慨めいた思い]
好きで苦労しているわけではないぞ。
[紙束は卓上に置いたまま、
閉じた本を手にして声の主の元に向かう]
ああ、そうだ。
治療はお前がしたんだろう?
そちらの薬は足りているかな。
うふふ。
じゃあね、またねぇ。
[満足したか親に呼ばれたか、
家へと帰る子供に大きく手を振り、
白く軽い石がなくなるまで、壁に絵を描く。
鼻歌はどんどん大きくなり、
普通の歌声となって零れている事にも気づかない。]
終っちゃったぁ。
[石が無くなれば、真っ白になった右手を見下ろして
にっこりと、わらう。]
[ふと囚われた物思い。
そこから立ち返った所に向けられた笑みに、いつものよにへらり、とした笑みを返して、そちらへと近づく]
絵ぇ、描いてたの?
[問いかける口調は、常と変わらず、軽い]
[エルザが去ってしばらく後。食事もとって]
なぁ…いや、やっぱいいや。今日はもうやることないよな?
[と聞きかけたのはエルザのことであったが、それはやめて
違うことを聞く。どうやら水も汲んだりしたのもあってないらしく。]
じゃあ好きにしてていいんかな。
― 図書館・読書室 ―
ほう?そうか。
[好きで苦労はしていないという薬師の言葉には、若干疑念を乗せた相づちを打ち、返された本を受け取ると、貸し出しリストに返却の印をつける]
・・・そうだな、痛み止めと傷薬を少し貰えるか。リディやユリアンも相変わらずのようだしな。
[探検や実験に夢中の若者達は必然的に生傷が絶えない、おまけに子供時代のトラウマからか薬師の所に好んで出入りする者は少なかったから、常備した薬は順調に減っていた]
[疑惑混じりの相槌に、眼鏡の奥の大きな瞳が瞬いた。
しかし次ぐ言葉を聞けば追求はせず]
ああ、わかった。
いつも世話になっているからな、今度持って来よう。
が、ユリアンにはやらなくてもいいぞ、
私が特製のを調合してやるからな……。
[ふふふふふ。漏らす笑いとは裏腹に目は笑っていない]
描いてたの。
えっと……
…ええっと…
[白い石の粉が沢山ついた手を頬に当てると
粉が沢山頬に着いたけれど、気にならない。
それよりも、思い出せない事が重要だったけれど、
どうしても思い出せなかったので諦めて]
まぜてもらった、のぉ。
[端的に告げた。
思い出せなかったのは、兄妹の名前。]
描きたかった?
もうなくなっちゃったの。
[真っ白になった手を、開いてみせる。]
―時間軸は少し前か・広場―
わ。わ。わ。
え、絵師さまっ?!
[突如として降ってきた声の主は、
このまちでは誰もが知る、絵師の青年であった]
[憧れの有名人に話しかけられ、耳朶の先まで真っ赤に染まる。
恥ずかしくて相手を直視できず俯いてモジモジした]
え、え、あの、だいじょうぶ、です。
ちょっと疲れただけ、なのだ。
え――薬師さまが?
[きょとんとしていると、目の前には飴玉ひとつ]
こ、これ、あたしに?
あ、ありがとうございます、です。
[薬師の漏らす笑いに、何を感じたか、単眼鏡を軽く指先で直し]
分かった、薬師殿が直々に治療してやるというなら、お任せしよう。
[「また余計な事を言ったらしいな」と心の中では呟いていたとかいないとか]
[その後、ユリアンが飛んで落ちた。だとか。ミハエルが一つ曲を作ったらしいとか話した後]
んじゃま、どっかいってくっから。ちゃんと明日の仕事に支障がでないようにするから大丈夫だって。んじゃいってくんなー
[言って、家から出た]
―自宅→道―
そっか、みんなと一緒に描いてたのかぁ。
[白い色がつくのも気に留めない様子に、自然、口元が綻ぶ。
緑の瞳は、穏やかで]
あー、もう石、ないのかぁ。残念ざんねん。
[軽く言いつつ、ポケットからハンカチを取り出して]
手と顔、拭かないと。
真っ白お化けになっちゃうぞー。
[脅かすように言って、それを差し出した]
[嬉しい。
けれど気持ちを上手く伝えられるかどうかすら自信がない。
俯いたまま礼を述べていると、また男性がみえた]
あ、絵師様の弟さんの、
――ど、どうも、なのだ。
[兄弟が去った直後、
風みたいに現れた若い女性に対しては、自然と、
屈託のない笑顔を向け]
あっ、リディねえちゃんだ。やっほぉ。
ん、絵師様とお話しちゃったのだ。えへへ。
……このこ、かわいい?
そう言ってもらえて、きっとアトリも喜んでるのだ。
[むぅ、唇をすぼめると、
リディの服の裾をつかんで、図書館までついていった]
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