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[試してみるかと思いはしたが。
見えている結果を確かめるのもつまらぬ事、とそれはせずに。
振り返るのは、古城。
そちらに行くか否か。
逡巡は短い]
……特別、興味がある訳でもなし……。
[髭が薄いからまだ良いがやはり剃っておきたいものだなどと考えつつ、廊下を歩く。]
ああ、そうか。剃刀。
[途中で私室の浴室に剃刀があるかも知れないと思い出したことはひとつの収穫だったかも知れない。]
[器の束縛を離れ、呪い呪われ続けた血からも離れ。
呪縛の象徴たる、真紅の蛇は未だ、左の腕に座を占めているものの。
見方を変えれば──それ以外に、なんら自身を縛るものはない。
『番人』の死を持って目覚めた『護り手』の定めも。
『終焉』の交差する輪を離れた今は意を為さぬが故に。
古城で続くであろう紅の交差に対しても、さしたる興味は抱けなかった]
[リィン]
[扉を開けて、すぐに鼻と口許を隠した]
[その指先には、巻いてもらったままの白の布]
……。
[緩やかに緩やかに息を吐く]
[あかが香るその源を辿れば、二人の人影が見えた]
[けれど、そこには女の言うきたないあかが残るのみ]
[静かな響きで、くれないを開いた]
御二方は無事だったのですね。
……それが一番、ラクだからな。
[言われた時に返したのは、そんな言葉だったかと。
晴れきらない霞の奥を辿れど、見えず。
さりとて、無理に思い返すつもりもなく。
ぼんやりとした蒼氷で、緋の領域をただ、見回す]
…何処へ?
[首を捻り。
ふと、廊下の先へと眼を移します。
くすんだ赤い色は、途切れ途切れに伸びていました。
それを見つめていると、こちらへ向かう足音が聞こえました。]
[振り返ったのと、声が聞こえたのは殆ど同時でした。]
ラッセル。
…と、キャロル。
[赤い色と、金と赤の2色。
確認の意も込めて、2つの名前を呼びました。
ふと眼を落とすと、今し方ついたのでしょうか、杖の先に僅かに赤がついているのが見えました。]
……それにしても。
[ふと、思いついたよに。
左腕に絡みつく、真紅の蛇を見やる]
よく、喰らう気になったもんだな、『終焉』を齎す者とやらは。
[何の事だ、と紅蛇は問う。
対し、浮かぶ笑みは意地悪い]
お前、は、不味いんじゃなかったか?
[急ぎ歩を進めれば、行き当たるのは三人の人影と]
あ。
ええと。おはようございます……
[そして、床に広がる黒ずんだ赤。]
[目にして、我ながら間抜けなことを言ったものだと思う。]
[問いに、紅蛇はしゃ、と威嚇するよな音を立てる。
その様子に、くく、と笑いつつ]
腕を狼に喰らわせる、と言った時に、「不味いから喰われもせぬ」と言ったのはお前のはずだが。
……つまり、それに憑かれた時点で、俺も似たようなもののはず。
それでも喰らわれたのは、さて、どういう事やら。
[無論、喰らったものがその際に何を感じたかなどは、知りえぬ事。
それでも、揶揄するような言葉を向けたのは、恐らくは意趣返し。
長きに渡る呪縛。
やり場なく溜め込んでいた、それへの憤りを晴らそうとするかの如く、言葉は綴られる]
[もう一つ足音と、声が聞こえました。
眼を向けると、青い色が一つ。]
…おはようございます。
[思い出して、今更ながらに挨拶をします。
それから少し首を傾げ。]
ええと、…ナサニエル、でしたか。
[誰かがそう呼んでいたような気がします。
記憶にある名前を口にしました。]
[引き寄せられる様に集まる人々の姿]
はい。
[呼ばれた名に、返事を返す]
[男の声には振り返り、挨拶を返した]
これは…。
獣に銜えられ、引きずられでもしたのでございましょうか。
だから、外からも?
[途切れがちなあかの線が向かう先を、碧の瞳が映す]
[それを辿る様に少しだけ、歩を進めた]
あらあら。皆さん、おはようございます。
[努めて冷静に。そして、丁寧に。]
今日は何だか、空が暗いような気がしますね。
私の眼がおかしくなければ…の話ですが。
[左眼がぎょろり]
こんな朝は、気分まで暗くなりそうですね。
[服の替えなどなかったが、部屋の箪笥にいくつかあった]
[黒い服は丁度良く、それはある種の不気味さを覚えさせる]
[恐らく他の部屋にも、同じように衣類があるのだろう]
[昨夜の月はなく、体にも臭いはない]
[男にとって、人を殺した次の日の朝は、普段となんら変わりのないものであった]
[ふと意識が向いたのは、
誰のものか、誰の手によるものかということより]
……ニナには、これって、どう見えるの?
[足下を指差し、問う]
ええ。ナサニエルです。ええと、ニーナ…さん。
[ニーナに丁寧な礼をした。]
[ついでに足元の血痕に目を落とし]
獣が外に引き摺っていった…ですか。
言われて見れば、点々と続いてますよね……
[気味悪そうに眉根を顰める。]
しゅうえん?
[ポツリと声に返したのは、如何程経ってからだったか]
しゅうえん…終焉。
生けとし生けるもの全てに、平等に訪れる、死。
ああ。
[溜息が零れる]
逃げ切れなかった、のですね……。
[廊下に出る]
[と、先、ネリーを殺した場所に幾人かが見えた]
それは、此処で殺した血だ
死体は外においてある
誰か埋葬を手伝わないか?
[もう一つ聞こえた挨拶にも淡々と返して]
…空がでございましょうか。
花のあかばかり見ておりましたから、存じませんが。
[眼がおかしい、との内容に、女はあからさまに左の眼へと、碧の眼差しを向けた]
終焉が来ないと分かるまで、気分が明るくなることなどそう有り得ぬことでしょうに。
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