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―ベット部屋―
[武器になる物は決まっていた。
30センチはある裁ちばさみ。
どうせ使うなら良いものをと、丈夫で刃先が鋭い、良い物を買い与えてくれていたそれ。買い与えたのは父親だったか。もうよく覚えていないし、どうでもよかった。
他にもいくつか選んで鞄に入れ軽くするために、中のものを一旦すべて出した。]
………ぁ。
[パンやペットボトル、バイト先からくすねたティーパック。
裁縫道具の入った箱、布。ノート、筆記用具。製図。
それらと共に転がり落ちた、一旦開かれた包み。
渡された時の生きた笑顔が、一瞬鮮やかに蘇る。
おもむろに中を開け、一気に全部口に入れて食べた。]
っつ!げほ!げほっ!!
[どれだけアタリが入っていたのか。
盛大に咽て、それでも吐き出すのは耐え。水で一気に流し込むと、また咽た。]
ち。
[小さく舌打ちめいた音をたてる。
開けた視界は逆さまだった。]
五月蠅いって言ってんのに。
[顔を隠すキャップは無い。
上下逆さまに立ったまま、声の源を睨むように見た。**]
[まばたく。
まばたく]
……ばかゆっきー。
もう、作ってあげられないんだから。
大事に食べなさいよ。
[一瞬だけの接続。
でも。
認識を理解に変える前に。
また、断線。
わかってる、けど。
理解、したくない]
[聞こえた、コエ。
逆さまに睨む、顔。
なまえ。
確か]
……ire-na。
だっけ。
何で、逆さま?
[浮かんだ疑問は、それだったから。
そのまま、それを*聞いてみた*]
―― 回想 資材置き場 ――
[全てを拒絶するかのように、ぎゅっと身を抱きしめる七重姉に、
ぼくはそっと触れようとした手を軽く握り締め。
代わりに隣へと座った。
問いには辛うじて反応できる程度。
でも僕の言葉をも拒絶されるだろうかと思っていただけに、
今の、その反応だけで僕は少し安堵する。]
―回想―
[涼が少し落ち着いたのを見計らうと、少しだけその場を離れる。奏も居れば、その場を任せて。涼たちには、瑠衣の服を取りに行くとでも告げただろう。
シャワー室に戻る。未だ惨劇の痕は残るが、それでも水に流れて薄れてはいた。瑠衣のものらしき荷物を取りまとめると、携帯電話を取り出した。
一瞬、ためらうが。ぱたりと画面を開く。新たなメールが届いていた。中を読めば、ただ悲しげに目を瞑る]
[さて、これから如何しよう。画面を見つめながら考える。
誰か、味方が欲しい。そして、内容を伝えたい。誰に伝えるか。それが問題で]
候補は、ryouさんか、Wen.さんかな…
ryouさんは…あの状態ならば、彼女がときさんを殺したとも思えないし…Wen.さんはずっとあたしと一緒にいたし。それに…
[村での楽しい思い出が、頭をよぎる。そのことは、紛れもない事実で。ぶんぶんと頭を振って、余計な考えを追い出した]
ナタリーさんはやめた方がいいかもしれない…犯人側かもしれないし…そうでなかったら酷でしょうから…
[殺した相手が無実の人である。彼女には、その結果は告げたくはなかった。]
[再び、画面を見つめる。何かを決意するかのように。
程なくして涼の元に戻る。暫くすれば、*聖がやってくるだろう*]
―― 回想 資材置き場 ――
[アートさんは一度席を外し、
戻ってきては手にした白いシーツを手際よく広げ、
中務を包み込む。
布を扱うことに慣れたような手さばきは、
あっという間に僕たちの視界から中務を消し去ってしまうけれど。
零れ落ちていく命のかけらが、滲むように白を赤く染めていった。]
うん、判った。じゃぁお願い…
それと、――ごめん、ね?
[ひょいと中務を担ぎ、短く行き先を告げる彼に、
僕は一つ頷いて返事として。
短く告げた謝罪は、
中務を運ぶアートさんへの手伝いをも出来ないことに対してと、
今はまだ、眠る中務におやすみも告げられないことと、
そして七重姉に対しても掛ける言葉が見つからないことなどの、
色々と入り混じった思い。]
―― 回想 資材置き場 ――
[アートさんの後姿を振り返り見送ると、人影。
話したことも殆どなければ、印象も薄いおんなのこ。
アートさんから状況の説明を求められたなら、
僕は短く簡潔に、でも七重姉のことについては、極力触れずに伝えた。
呆然と立ち尽くすように見えた彼女が一体、
どれ位僕の言葉を聴いているかは、怪しいところだけれども。]
―― 回想 資材置き場 ――
[ぽつぽつと、それでも恐怖からか、
震えながら語る七重姉の言葉を、僕は繰り返しながら
相槌を打ち、話に聞き入る。
責めることはなく、ただ、相手の言い分だけを口にして、
尋ね返すように。]
ねぇ、七重姉…
[どれくらい其処にいただろう?
紡がれる言葉に、終わりが見え始めた頃。
僕は前触れもなく、七重姉を静かに呼んで]
歩けるなら、ここから、移動しよう?
[少し前に命が奪われた場所とはいえ、
閉じ込められていることと、
綾野さんを殺した犯人がまだうろついている事は変わらない。
あまり同じ場所にずっと居続けるのもどうかと思い、
僕は移動を促した。]
PCのある部屋へ、行こうか。
七重姉、立てる? ゆっくりでいいから、ね?
[それから僕らは薄暗い道をなぞるように歩き始めた。
少しでも中務から気を逸らそうと、他愛のない話を振るけれど。
七重姉はただ震えるばかりで。
僕はしがみついてくるその手の力を総て受けとめ、
ぽんぽんと、やさしく二度、肩を叩いた。]
…突っ込むとこはそこ?
[問いには僅か呆れたような表情を見せる。
空を一度蹴って、同じ目線になった。]
他にもっとあると思うんだけど。
[腕組みをして見上げる。]
―― PCのある部屋 ――
[七重姉は入り口から遠い、刺激の少ない場所へと座らせた。
明かりはぼんやりと灯っている。
それとは別に、PCのディスプレイの煌々とした光が、
今は不気味に思える。]
ひと、いないね。みんなどこに行ったんだろう?
[首をかしげるも、向こうには聖がいるだろうから、
大丈夫だろうと踏んで。
それは単におんなのこだけの移動は危ないからと思うけれど、
でも僕を抜かして残す男は聖とアートさん。
聖は無条件で信頼しているからとして、
一緒に行動を共にしていたアートさんも、
なんとなくだけれども犯人には思えなくて。]
……、
[急に考えることが怖くなって、僕は無理やし思考を遮断させた。]
……だって。
ふつーに、驚いたから、逆さま。
[同じ目線、同じ向き。
思ったとおりを答えるところに向けられた、言葉]
……他に、もっと。
[なんか、あったっけ、って、考えた。
ぴり。
ノイズみたいなものが、走る]
……ここが、何処か?
知らない……どこ、なんだろ。
[知らない。
知ろうともしてない。
だって。
知ったら、「繋がってしまう」。
でも。
「繋げる」のは、こわい。
だから。
考えて、ない]
―― PCのある部屋 ――
[やがて姿を見せた聖に、僕は少し疲れた笑みで手を振り]
お帰り、センセー。
ん? こっちの状況?
[小声で尋ねられたことに内心感謝しつつ、
僕は手短に状況を伝えた。
聖からはどれ程離れていた時の状況を聞けただろうか。
ふと煌々と不気味に照らすPCに彼が近づく。
僕も倣うように改めて画面を覗き込む。]
センセー、シスメが…
[其処には更新されたシステムメッセージが、
やはり嘲笑うかのように映し出されていた。]
―回想 シャワー室〜隣の部屋―
[奏に話かけられるも泣きじゃくる様子は変わらず。
玲の死を聞かされたが、今はそれについて何も考える余裕はなかった。
亜佐美が奏に説明する様子もただ聞くだけに]
うう……。
[しばらくして泣くのが落ち着くころに亜佐美が瑠衣の服を取りにいくからと出て行くのを静かに頷くだけに答える。
目の周りは赤かったかもしれない]
ま、聞かれたって困んだけどさ。
僕も知らない。
[腕を解いてかぶりを振った。]
なんでか知らないけど、君しかいないし。
他の奴等は何処行ったの。
[認識しない「向こう側」は未だ見えない。]
[亜佐美がいなくなって目元をぬぐい、
すぐにその誰かが亜佐美だとわかる。]
ありがと……蒼……。
[一度そちらを見てからそう呟いて、
ふらふらと立ち上がる。]
ire-naさん……死んじゃった……の……?
[亜佐美と奏に確認するようにそう尋ねかける]
―ベット部屋―
[シーツを一枚細く長く切り血を拭い、包帯代わりに両腕から手の平にかけて巻き、傷を覆う。
きつく何重か巻けば、外側に血が染み出る事は今の所無いようだった。
荷物の半分は隅に置いたが、鞄の形が崩れないよう、空のペットボトルと、空の裁縫箱を布に巻き適当につめた。
肩にかけると、前よりぐんと軽くなっていた。
長く息を吐いて、出来うる限り気を落ち着ける。]
…行くか。
[何時もの口調で呟いて。
部屋を出ようとして、一旦振り返る。]
………また、な。
[どうせすぐ会えるかもしれないしとは、思っても口にはしなかった。]
そっか、知らないんだ。
[理由はわからない、けれど。
『知らない』と言われて、ほっとした]
みんな……いる、よ。
でも。
……「ここ」には、あたしたちしか、いない。
なんでだろ、ね?
[互いの共通項の認識をしてはいないから。
パズルのピースははまらない。
はまらないんじゃなくて、はめたくない、のだけど]
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