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[儀式が終われば、長老が去っていこうとしたとき、倒れた少年が視界に入る]
……オーフェ……。
[くずおれたそばに寄り、その体を起こすと*様子を確かめ介抱しようとする*]
[カレンの声に、薄れていた意識が覚醒する。すでに儀式は終わり、そこにネロの姿はなく。ただ赤き羽にのみ、彼の残照を見る]
……ネロ……
[呆然とする中、エリカが長老に力のことを告白する言葉が耳に届く]
[余所者であり、翼を見せぬ身。
注がれる視線には、鋭いものも混じる。
――ならば、今の者の正体は。証を見せよ。
周囲から、声が飛んだ。
足を止めた長老は諫めの言葉を発するも、同調の意志を窺わせる]
……、
[首肯。
目を閉じた。
朱唇が微かに震える]
―― AIRANAC, iageno.
[淡い金の鳥を喚び、
二対の銀の翼を出だす。
夜空のもと、
一対は天に伸び、一対は地に下がる]
[封印の痕を示す、赤い羽根の前に、膝を突いた。
手のひらを地に当てて、瞼を下ろす。
ひかりの鳥は少女の眼となり、結界樹の気脈を辿りゆく。
銀の煌めきが、はらはらと、零れ落ちた]
――……、……………?
[微かな疑問のいろは、内にのみ仕舞われて。
やがて開いた金糸雀色の双瞳は、真っ直ぐに、長を見る]
……あの少年は、虚を内包する者では、ない。
[地上へと戻って来たひかりの鳥に手を伸ばしながら、宣言した]
[大衆のざわめきが聞こえてくる。驚嘆、懐疑、好奇、その多くは好意的とは思えず]
……っ
[自然と視線は聖殿内にアヤメの姿を探す。飛び交う声には思わず身を震わせ。凛として立つエリカに尊敬の眼差しを送る。やがて唱えられる召喚の言の葉と共に、目の前に出でたる金の鳥、背に生えたる銀翼をただ眺め]
……ネロ、堕天尸じゃ、なかった……
[エリカの宣言を聞き、胸に訪れるのは安堵と悲哀]
……もうひとつ。
昨日、封じられたものも、同様でした。
堕天尸では、ない。
[立ち上がり、月光を受けながら、口にする。
自身以外の、第三者の口添えもあったかもしれない。
それでも、尚、他者には確固たる証として見え難い力に、疑問の声は止まない。虚偽ではないかと。
真偽を――素質をはかるための方法は公に口には出来ないがゆえか、過ちの判断であることを突きつけられたためか、長老は沈黙を保っていた]
お疑いになるのなら、どうぞ、御自由に。
私は私の、為せることを、為すまで。
[誰にともなく言うと、一礼をして、下がった]
[振り返った先には、
崩れ落ちた小柄な姿と、介抱をする薬師の姿]
……平気?
[そちらへと向かうも、距離を置いて立ち止まり、問いかけた。
ひかりの鳥は、ふわりと二人の周囲を舞う]
ああ、私は、……大丈夫。
多少は、慣れてきたようだから。
[同種の問いかけを受け、ゆるりと首を振った]
リディアさんも……
ということは、まだ、堕天尸……いるんだ
……自分の、なせる……ことを、なす
[エリカの言葉にずきり、と胸が痛む。堕天尸を見つけられない自らの不甲斐なさに、唇を噛む]
……うん、平気……
エリィさん、は?
[恐らく思われていることとは異なる理由から、エリカの顔を直視できず、そう答えるのが精一杯。戻る返答に、よかったと力なく笑みを浮かべる]
そう。
……偉そうに言っても、
私は、封印された者を視ることしか、出来ないけれど。
[頷き、首を傾けかけるも、
眼差しの逸れる様子に、当人の思惑とは異なり、背後を見た。
未だ引けていない人波。広場には入り混じった感情が漂っている]
あまり、共にいるところを見られない方が良いかもしれない。
今日は、施療院の世話にならずとも済みそうだから、戻る。
……昨日は、迷惑をかけて、ごめんなさい。
[緩く手を持ち上げると、淡い金の鳥は、少女の傍らに戻った]
……エリィさんは、強い……よ
[広場の大衆に目を向け、いまだ残るざわめきに小さく震える]
そんな……
……また狙われるかも、しれない……し
[紡ごうとして言葉を失くす。エリカの気遣いは、互いの立ち位置の距離。その距離を縮め、無にするだけの力は、自分にはまだなく、隣のカレンを見やる]
ん――……
そんなことは、ない。
[強いとの評価に、曖昧に声を返して視線を彷徨わせる]
狙われる、か。
それに関しては、大丈夫、とは言い難いけれど。
堕天尸も、すぐさまは、力の行使は出来ないだろう。
今までの間から見て、少なくとも、一日の猶予はあると思う。
……それに。
もし封じられたなら、内部から探ることも出来ようから。
[薬師からは、諌めるような言葉。
明滅するひかりも、同意を示すようで。
次いだ声には、ほんの少し、苦笑が滲んだ]
そうならないようには、心がける。
[そう言うと、会釈をして、*踵を返した*]
[顔を上げると、そこには意を決した者の持つ瞳。封じられることも見据えた言葉、カレンの説得への返答を聞けば]
……気を、つけて……
エリィさん、封印されたら……悲しむ人、いるから……僕も、悲しい、から……
[できるのは、ただそんな言葉をかけることのみ。銀の翼と、鋼の心を持つエリカの背中を見送る]
……ねえ、カレンさん
ネロ、結界樹の中でも……楽しい、って笑って、くれてる、かな……
[寂しそうに笑うと、カレンに別れの挨拶をして、森へと*飛んでいく*]
[ 広場へとやってきた一行に気が付くと、ざわめきは絶頂に。]
――――――…。
[ 聖殿の者が何か話をした後、少年の影だけが連れ出される。
その様子をただ、黙って眺めている。
理由は分からない。
ここまでは聞こえてこないから。
けれど、先程進言したことを長老は鵜呑みにしたのだろう。]
………おやおや。
[ 広場の人々の視線の中心で抑えられる少年。
彼はこの状況を理解、しているのであろうか。]
[ 一緒に広場に来ていたケイジも愉快そうにそれを眺めている。
封印の言葉が紡がれた後、光が走る。
その瞬間左目を庇うように手を翳した。]
………結界樹の中も楽しいかもしれません。
ネロ殿、お達者で。
[ 残された赤い羽根を見て、そう呟いた。]
[ 翳した手はそのまま左目を押さえる。
そのまま、広場を去ろうとした時に事は起こった。]
エリカ殿………?
[ 彼女が何やら長老に進言をしている。
その声は広場にいる者に届く大きさであり。]
結界樹に封じられた者を、見分ける力…ですか。
[ 彼女の言葉を全く同じまま反芻する。
その後、昨日の出来事と照らし合わせて理解ができた。]
嗚呼、成程。そういうことですか。
[ 金の鳥が現れると同時、銀の羽根が広がる。
目の前で起こる光景は右目のみが捉えている。]
[ 封じられた者は堕天尸ではない。
その言葉が告げられて後。
広場の大衆はそれぞれに散っていく。]
………興味深いものを見ることができました。
ケイジ様のお気に召すものかどうかは分かりませんが…。
[ そう言って声をかける。]
では、本日は私、ここで失礼致します。
ケイジ様、どうかお気をつけて?
[ そう言って、薄い金色の羽根を広げ夜空へと*飛び上がった。*]
[湖の淵まで再びカルロスを運んで、彼がそこから歩いてどこかへ行く背中を見送った。
暫くそこで蹲っていたが、体力が戻るとばさりと翼を打って飛び上がる。
25年間住み続けている家へと着くと、脇の小屋から疾風が顔を出した。]
よぅ、今日も美人だな。
[声をかける主に、小さな獣はトコトコと寄って来たが、その後ぐるる、と咽からうなり声を上げた。]
[キュンキュンと怯えた声を上げて小屋に戻る疾風の後姿を闇色の目で追いながら、背の羽根を翼胞へと吸い込むように仕舞う。
扉をくぐって家に入ると、父親が熱を出したようで看病していたらしい母親が父親のベッドに突伏するようにして眠っていた。
軽いその体を横抱きに抱き上げて彼女のベッドに横たえ布団をかけると、ぬるくなった父親の額に置かれた布巾を水で冷やし取替え、その横の母親が暖めていた椅子に座ってじっと眠るその顔を見た。]
[深く皺の刻まれた、疲れた顔。
自分に良く似た父親は正に自分の将来の予想図で。
そのたまに呻きながら眠る顔をじっと、じっと見る。
その視線を外した時の瞳は闇色で、糸のように細められる事は無かった。]
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