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[自分の目で確かめろ。
ハインリヒの言葉に顔を顰めた]
……簡単に、言うなよな。
[昨日アーベルが紅く染まった姿を見ただけでも足が竦んだと言うのに。
本来の現場すら見に行けなかったと言うのに。
直ぐには足が動かなかった]
ブリジットさん、無理は…。
[ふらふら奥へ行こうとする人を心配そうに見る。
だがそんなになりながらも奥に行く人をみて、やはり自分も行くべきだろうかとはどこか思った。]
[動けずに立ち尽くしている。
儚さと同時に、母の強さを目の当たりにして]
ノーラ…。
[すみません、という言葉は紡ぐことが出来ない。
謝って許されることでもないし、今もし同じ状況に落とされて同じ事をしない自信もまたなかった]
[イレーネに見上げられ、深呼吸]
…見たく無いなら、見ない方が良い。
──代わりに、俺が見てくる。
[深呼吸の後に決意したことを、はきと言葉にした]
あ、や。
…一緒に行く。
[ふるふる首を振ったあと呟いて、意を決して診療所の奥へと足を一歩踏み出した。
ゆっくりと、歩く毎に覚悟は出来てくる。]
それでも、でも、私は。
っ………。
[肩を叩かれれば、再びじわりと涙がこみ上げる。
こく、と頷いて、俯いた。
手で顔をもう一度拭って。]
……ごめん、なさい。
取り乱して、しまって。
[顔をあげた。
そこにはもう憎しみの色は鳴りを潜めていて、その陰さえ見ることはできなかった。]
自衛団の人が来るまで、ここにいて、いいですか。
[その声はまだ弱々しかったが、エーリッヒの目を見てそう言った。
許可が貰えれば、その場でアーベルの横に座って、人が来るのを*待つことだろう。*]
[辿り着いた現場。ユーディットにエーリッヒ、落ちたナイフを順に見るともなく見ながら、残骸の傍へと真っ直ぐに――傍から見れば揺れていたが、真っ直ぐに歩み]
……。
[赤い残骸らを、見下ろす]
いいから。
今は、無理に何か言わなくても、いいから。
[向ける言葉は、どこまでも静かで。
謝罪の言葉には、気にしない、と返す]
……ああ、構いはしない。
落ち着くまで、いていいから。
[穏やかに笑みつつ、言って。
座り込むユーディットから少しだけ離れるのとブリジットが来るのとは、どちらが先だったか]
……ブリジット。
何か……聞こえる、のか?
[亡骸を見つめる彼女に、そう、と声をかけ]
[突然ぐるりと視界が変われば、ハインリヒの背中に背負われていた。
そのまま、背負われて宿屋に向かう。
大きな背中は温かくて、やさしくて。少しずつ落ち着きを取り戻してきた]
おっちゃん…ありがとう…
[小さな小さな声で、搾り出すように言葉を紡いで。
泣きつかれたのか、そのまま眠りに*落ちていった*]
[一緒に行くと言うイレーネ。
本当ならば止めたかったが、足を踏み出す様子に付き添うような形で隣を歩く。
ゆっくりとした歩みで進み、やがて見えてくる。
──紅に染まりし二つの姿]
……っ!
[片方は胸から、片方は首から赤き雫が流れ落ちていて。
オトフリートと思しき身体は、まるで獣のような姿だった]
…これって…。
そう言うこと、なのか?
[治まりかけていた震えが再び強まる。
オトフリートが人狼であったと言う現実。
俄かには信じられないものであった]
[一人では決して見えてこなかったろうそれを、ユリアンと共に見た。]
――――――っ、ぅ。
[アーベルの血に染まった亡骸も当然ショックだったが、それよりは、明らかに異形と化したもう一人の―ミリィの傍に居た人の姿を見て、顔が引きつり、口元を押さえた。]
おいしゃ、先生…。
[それ以上は言葉も出なかった。]
……聞こえる。
[エーリッヒの問いに少し間を置いてから答える。耳を押さえたまま、どこか彼の声を聞き取り辛そうに]
赤いモザイク。
黒き影。
交じり合い、
――怒れよ!
怒れし影は――欠けたるか!
[ノートなどを持った手を腕ごと掲げるようにして。僅かに掠れた叫びを重ねてから、ぽつりと]
……異形。
異形に殺されしと、殺されし異形……
赤き賽は……
[イレーネの様子にこれ以上は、と考え。
紅き惨劇から視界を遮るように立ち、少女を腕の中へと収める]
[自然、紅く染まった二人に背を向けるような形となり。
自分の視界からも惨劇を遠ざけた]
[後からやって来た二人には、軽く視線を向けるに止め。
ブリジットの言葉に耳を傾ける]
異形に殺されしと、殺されし異形。
[小さな声で繰り返す。
力あるもの、それもまた異形、異端と言えるのかと。
ほんの一瞬、自嘲的な笑みを掠めさせ]
……これで……終わる、のか?
[問いはブリジットへ向いたか、それとも、独り言は定かではなく]
[ブリジットが叫ぶ。
叫びの内容は理解出来なかったが、続き落とされた呟きは先程見た二人のことを示していると理解し]
…やっぱり、そうなんだ…。
[人狼が誰なのか、真実を突きつけられた。
信じがたいが、それが事実で。
不意に漏らされたエーリッヒの問いが聞こえたが、自分には知る術はなく。
何も言えずただ押し黙ったまま]
終わる。
終わるか、否か。
塔は崩れた。崩れた塔は一つか。
一つだとして。二つだとして。
黒き影は……
[エーリッヒの問いとも呟きともとれる言葉に対してか、ぼそぼそと。一歩、二歩と後ろに下がり]
留まらないのなら。
どうしたらいい。
変容が続くのなら。
[最後は独りごちるように]
[ユリアンの腕の中で、嗚咽をもらす。
辛うじて泣いてはいないようだったが、酷く怯えたように震えていた。
ブリジットの声も耳に届く。
異形、そうだこれが――人狼。
エーリッヒが言うように、これで終わるのだろうか。
これからの事を思い、震えは止まらなかった。]
[そうしている間にも掠めてゆく思考]
(もし、伝承の通りなら)
[それは微かな希望にして、最大の恐怖]
(会いたい)(会えない)(会う資格が無い)
[生命散らす前と代わらぬ想い。
どちらも今はまだ直視できず、顔を俯けたまま。
幾つもの声が意識の中を*響き渡っていた*]
[腕の中で震えるイレーネの身体を抱き締め。
首だけをエーリッヒ達へと向ける]
……ここ、任せても良いか?
イレーネを、休ませてくる。
[これ以上長居してはイレーネの負担が大きいと判じ。
この後来るであろう自衛団の対応などを頼む]
[ぼそぼそと、途切れた言葉は相変わらず抽象的で。
下がる様子を見つめつつ、一つ、瞬く]
変容が、続くのであれば……。
[それは、終わらない、という事か、と。
口に出しはせずに]
……ああ。
ユーディの事もあるし、ここは引き受ける。
[ユリアンの方を見て、一つ、頷いた]
[頼む、とエーリッヒに返し。
腕から解放したイレーネを促し、診療所から離れていく]
[未だイレーネが嗚咽を漏らすようなら、宥めるように、慰めるように、その背中を擦りながら歩を進める]
…すみません。
[エーリッヒとユーディットに聞こえるかどうか、掠れた声でそう告げて。先に診療所を出て工房へと戻る。
人狼が死んだなら、明日は娼館に戻れるのだろうか。
そんな事をぼんやりと考えながら。
ユリアンの腕の中は、やけに温かく*感じられた。*]
……大丈夫、か?
[工房へ戻ると整えたイレーネの部屋へと連れて行き。
イレーネが落ち着くまで、その傍に*ついていてやった*]
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