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―ヘルガの宿―
はは、別に女将を敬遠したわけじゃありません。
そう邪険にしないで下さいよ。
[女将の皮肉に首を竦め][ヴィリーの所在を尋ねた]
[顔を合わせればどこか様子が違うようにも見え]
[訝しみながらも目的を済ませてしまうことにした]
一つ、不確定の情報が来たから伝えておく。
カヤ君は犯人ではないみたいだ。
少なくとも調べて「何も出てこなかった」ということらしい。
扱いもそうなるだろうと言われた。
─宿屋─
[明かりもつけぬまま簡易ベッドに腰掛け]
[しばらくの間は考え込んでいた]
[そんな中響いたノック音]
[そこで初めて明かりをつけ、その音に応対した]
[出入り口に居たのは行商人]
[いつもの威勢は無いままに部屋の中へと通し、話を聞く]
あのガキが、犯人ではない、ね…。
まぁ良い。
調べて出無いのならそうなんだろう。
全てを解決すれば判ることだ。
[根拠染みたはきとした言葉]
[隻眸は目の前の行商人ではなく、別の何かを見つめている]
あまり良くは無い。
上と犯人が繋がっていれば連れて行かれた者も危険が……。
[言い切られて口を閉じる]
[相手の目はこちらを見ていない]
何かあったのか?
[強くはなく尋ねる]
[奥に居た自警団長が、ベッティを見る少女へと近寄る。
あぐらの足の間に手錠をつけたままの手をぺたりと下ろし
きょとんと見上げる彼女の頬を、老人の手が打った。]
…ってぇ!
[高い音がして、小さな体は冷たい床に転がる。
だが自警団長は何も言わず、また部屋の奥へと行くと座り込んでしまった。]
んだよ、爺っちゃん!
オレ、白だって言われたんだゼ?
[機嫌を損ねて暴れる前の話し。
――とはいえ、自警団長の彼も知っている。
少女が、「誘い出した」コトを。]
[元々捕まった者や浚われた者に対する感情は薄い]
[現状頭を占めていることに比べれば、その他の事なぞ些事に過ぎなかった]
……そうだな、お前には言っておいても良いか。
アーベルにはまだ教えるんじゃねぇぞ。
あいつが知ったら突っ走りかねん。
[それでは己の邪魔になると]
[そう判断しての忠告]
[一拍置き、行商人に隻眸を向けてから口を開いた]
…クロを見つけた。
事件の実行犯だ。
突っ走りかねないって。
それは。
[告げられた内容に一瞬虚を突かれすらした]
[向けられた隻眼は強い光を宿している]
間違いないのか。
[確認する][どうしてそれが知れるのかは教わっていない]
ここで俺が嘘を言って何になる。
お前とは情報の共有で契約したはずだ。
[普段の軽さが無い分、真実味は帯びることだろう]
誰とまでは、まだお前にも言えん。
理由は、解るな?
[そこで初めて、いつものように口端を持ち上げた]
[何かを企むような、あの笑いを]
嘘だとは言っていない。
[流石に唐突で戸惑いもしたが]
まずは直接当たる気か。
一人では危険……も今更だな。言うまでもない。
[口元だけに浮かべられた笑い]
[一度決めたら曲げることはしない]
[とことんまで食いついてくる]
[敵に回ればどこまでも厄介な相手]
分かった。
俺はもう一人とやらを少しでも探すさ。
アーベルには必要になったら見計らって教える。
[それでいいだろうと]
[少しだけ不服そうにしながらも頷いた]
ずっと続けてきたスタイルだからな。
だが今回ばかりは一筋縄じゃいかねぇかもしれん。
殺人犯なら叩き伏せる自信はあるが、手段の見えねぇ誘拐犯じゃな。
俺の方が消される可能性もある。
だから一つヒントだ。
[渋々承諾する行商人に不敵に笑い]
[直後表情を戻して言い、一旦言葉を切る]
…俺が今、事件に関わってるかの裏取りをしてるのは面識のある連中から。
そこからクロを見つけた。
それを覚えておけ。
[相手にその意味が通じるかは分からない]
[だが己が消えた時のヒントにしろと]
[そう言葉を紡いだ]
[奥で黙る自警団長に肩を竦めてから、ふと見ると
大きな水盤が置かれていた。
どうやら、町の様子が見渡せるようで、
ひらりひらりと舞う花弁が、香るほどに映っている。]
…――
[映る人物が話す様子を、目を細めてみた。]
しかも背後にまだ何かありそうとなれば。
そう簡単に絡まったものを解けはしないんだろうな。
[誘拐の手段が見えないのも当然不気味だが]
[自衛団の動きを逆手に使われでもすれば]
[不敵に笑われても感じる不安]
面識のある相手……気分の悪い話だ。
[相手の交友関係全てを知るはずも無く]
[それでも浮かんだ顔は3つほど]
[うち一つはここまでの会話で消える]
悪い結果に終わらないことを祈ってはいるが。
何かあった時にはそのつもりで動く。
[それ以上は何も言い様がなかった]
[邪魔にもなるだろうと部屋を*去った*]
最悪隙をついてぶん殴ってやるけどな。
もし俺が消されずに残ったら。
そん時は黒幕も何もかも全部引きずり出して白日の下に晒してやる。
お前が用意したカードもあることだしな。
俺が消えても痛手くらいは負わせてやる。
[受け取った紙片は万一を考え、荷物の底の隠しスペースへと入れている]
[長期間己が戻らなかったら、荷物は同僚へと送られる手筈にもなっていた]
それでも俺は事件を暴く。
喩え面識ある者が犯人だとしても、な。
気分が悪いなんて言ってられんぜ。
[相手の言葉に何でもないように言う]
[課せられた制約]
[魔導具を身体に埋め込むのは酔狂のやること]
[強制されたものとは言え]
[それは確実に男の精神を蝕んでいた]
[己の感情が僅かに欠落してしまっているのを、男は知らない]
[行商人が立ち去った後]
[男はしばしの休息を取る]
[今すぐ押しかけたい気持ちもあったが]
[術の疲れはいつもと同じで、休まざるを得ないもの]
[休息の合間に起きた風と影の攻防には]
[果たして気付けたか*否か*]
―自宅―
[キッチンに立ったエリザベートは、
まだ熱いケトルから透明なポットへ湯を注ぐ。
中に入っていた小さな球のようなものが揺れて、細かな泡が立った。
香りが湧き、水中で花が開いていく。
工芸茶――花茶とも呼ばれるそれは、街の名産だ]
[トレイにカップと共に乗せ、リビングに赴く。
しん、と静まり返った場所。
泡が生まれては消え、
花の息づく音すら聴こえそうな気がした]
[春先とは言え、肌寒い日もまだ多くある。陽が落ちれば尚更の事。
椅子にかけていたショールを取り、肩に羽織った]
[ランプに火を燈す。
カップに注がれた茶は、灯りを受け仄かな赤を宿す。
念の為と巻かれた包帯の白が目立つ。
両の手で包み込むと、縁にそっと口つけ、息を吐き出した]
[手のぬくもりと、煤のにおいは、今は遠い。
*それは、彼方で風舞う頃の事*]
ふわああ…んんーっ!ねすぎたー!
[起き上がり、大きく伸びをする。]
まだここかぁ、特別助けられてもないの、
へんなとこに売られてもいないの、
なんかの実験台にもなって…
[立ち上がりきょろきょろと自分の事を見回す]
…ないの!よかったー。
あ、カヤちゃ…カヤがいるのー!
[元気だったー?なんて手を振って]
そうか、捕まっちゃったのかぁ、
どっちかわかんないけど…。
コレだけ女の子が集まっちゃうと、
男の子部屋と女の子部屋わけてくれてるのかしら
って考えちゃうわ。
そんなばかなー!
そんな細やかな事してるとは思えないのー!
…あ。すみません。
[自衛団長の存在に気がついた。]
ん、や!
そっちは平気か、怪我したりしてないか?
[ローザの声に、ぱっとエルザを映して居た水鏡から顔を上げた]
捕まっちまった!
[手には手錠、頬が腫れ目に青痣。
少女はにかっと笑った。]
―――自警団詰め所―――
[ハンスとライヒアルトから分かれた後、街中や裏通りなどを散々と練り歩いたが、どうにもそれらしい事件が起こったようなそぶりも無く、夜になり風が冷え込んでくると、湯冷めで風邪引くかもと宿に戻っていった]
[―――明けて翌日。
レナーテは早々に自警団詰め所の扉を開いた]
ちぃーっす。
進行状況聞きに来たぜ。
[そこで聞くのは、昨夜捕まえた対象の名前だった]
私は全然大丈夫!なにもされてないのー。
卑怯だなってちょっとぷんぷんしただけだものー。
[そう笑っていたら、振り返った顔の様子にギョっとした。]
…え、えええ、なにそれ、酷くない…?
[痣とか腫れた頬とかに、ちょっと引いた。が、あまり驚くとカヤに悪いわ!とぶんぶんと首を振って]
…酷いね!
手錠があっちゃ御飯も食べれないじゃない。
なんとか外れないかなぁ、それ…。
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