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─海へと向かう道─
[地面に点々と続く朱は、まるで己を追ってこいと道しるべを残されたようで。
それを辿り走る自分はきっと彼から見れば滑稽だろう。
だが、それでも立ち止まるわけにはいかなかった。
彼を止める為に。]
―海辺―
[男の眼差しは、海の向こう遥か遠く]
[其の足元は、紅に染まる砂の浜]
海の向こうで得た絆は、奪われ、断ち切れ、消し去って。
けれど、何時も通りとも言えるかな。
きっと此処で得た絆も、直ぐに壊れる。
[二条の傷口に痛む足を動かして振り向く]
[足音が近付いている気がした]
― →海―
みたいだな。
手負いの…いや。
[走ることは出来ないが、足を止めることはなく。
しっかりと右手を握って海へと向かう]
ものがたりを世に送り出してきたひとは。
どう終わらせるつもりなんだろう。
[それは問いの形ではなく。
いまだ島を閉ざす波の音に紛れるように落ち、浜に近づくにつれて強くなる風に流れていった]
[潮の匂いが徐々に強くなってくる。
波の音が徐々に耳を強く打つようになってきて。
足を、止める。
そこに立ち尽くしているのは、足元を朱に染めた、金の髪を持つ、男。]
………ルーミィ。
[だが、呼んだ名は、彼女から名乗られたもの。]
[後ろから来る気配。
ふと、振り返り、右手に銃を携えたウェンデルの姿に一瞬だけ目を丸くしたりしつつ。
風に流れる、ものがたり、という言葉に、再び向かう方へと黒の瞳を向ける]
……わかんない、けど。
最後まで、みないと、ね。
[小さく呟いて。
こもる力に返すよに、自分も手に力をこめる。
小さいけれど、確かな繋がり。
それが、感じ取れて。
恐怖感は、余りなかった]
[浜に居たヘルムートは遥か水平線を見ているらしく。最初に見えたのは風に靡く金の髪。こちらを振り向くのを見て足を止め、ヴィリーよりも後方になる位置へと立った]
………。
[何も言わず、ただヘルムートを見やる]
―海辺―
……なぁに?
[呼ばれたなまえのとおりに、返るのは甘いひびき。
うかべる笑みも、以前とかわらず。
焦げ茶のひとみがヴィリーをみつめる]
―海辺―
[やがて見えてくるのは砂浜に佇む人影。対峙する二つの背]
ああ。それだけはしっかりと、ね。
[後ろからの足音は追いついてきたか。追い越してゆくか。
その手に拳銃が握られたままなのが見て取れた。
そこにも覚悟の形を一つ見つけ、小さく頷くよな動作をした]
[初めて会った時と変わらぬ態度に、ただ険しい表情で見つめ。]
………お前は。
物語のつもりかも、しれないが。
俺達は、作り話の、登場人物じゃない。
[そう、告げてから、一呼吸置いて。]
…ライも、お前も。
だから。
美しい幕引きなど、必要はない。
物語の結末なんて言葉で、全てが終わらせられるわけがない。
お前は、償うんだ。
生きる為でなく、己の愉しみの為に命を奪ったことを。
[銀の剣は握ったまま、一歩、近付いて。]
─海辺─
[たどり着いた浜辺で目に入ったのは、先に駆け出した者たち。
荒事に加われない自分は、ただ、見守るしかできない。
共にやって来たぶち猫も、同じ意思があるのか。
対峙する者たちを見つめ、低く、鳴く。
銀の鈴の音が、風に流れた]
―海辺―
[驚く顔を見てか、頷くような仕種を見てか。
男はニヤリと口許をつり上げた]
[そこに言葉は無く、歩く2人の横を抜けて、更に3歩、4歩。
さくり、砂を踏む音をたてて、止まった。
対峙する人影のよく見える位置で]
[増える足音の数]
[先程まで宿に居た人数が、その全て]
勢揃い、かな。
[左足には、ちりちりと灼かれる痛み]
[けれど、表情は何一つ変わらない]
[痛みは感情では無く、感覚の筈]
[そうである筈なのに指先が触れるのは、心臓の上]
つもり、じゃなくて。
物語なんだよ。
[けれど低い声は淡々と紡がれ]
[浮かべる笑みの質が変わる]
[柔い女の笑みから、獣の凄惨の滲む笑みに]
―海辺―
[一際強い風に、焦げ茶の瞳を細める]
[厭わしいと、そう言わんばかりに]
だから、償ったりなんてしないよ。
[告げられる言の葉に、首を振る]
[詰められる距離に其々を見回す]
僕は、一番の悲劇になりそうな人を狙うだけ。
[宣言と共に、白金の煌きがクロエに向かって宙を駆ける]
[獣が紅に穢れた砂浜を蹴った]
……させる、か…っ!
[構えた銀の刃が軋んだ音を立てて、白金の煌きとクロエの間に割って入る。]
………いや。
物語なら。
全てが息絶えた後も、続いていく。
読む者が居る限り、永遠になる。
…これは、現実だ。
お前の思いも、俺の痛みも。
失ったもの、得たもの、全てが、真実だ。
[視線を逸らさぬまま、言葉を紡いで。]
[握った手は今もまだそのまま。
人狼への武器となるものは、既に失われた後]
クッ!
[だからできるのは。
身体を張って守ることだけ。
強く右の手を引き、白金の獣に背を向けて、クロエの身体を抱き寄せる]
―海辺―
御託は要らねぇな。
[場違いに笑みを浮かべた男は、為された会話もたったの一言で片付けた。
右腕を上げ、傷付いた左足に狙いを定め、引き金を引く。
そこには鉛弾しか込められていないけれど]
……誰もが、息絶えるまで、終わらない……。
そんなの。そんな終わり方……!
[思わず声に出すのと、白金が駆けるのは、どちらが先か]
……え……。
[ぶち猫が鋭い声を上げるのが聞こえた。
手が引かれ、抱き寄せられる。
視界が狭くなり、状況が掴めなくなった]
[クロエに狙いを定め駆けるヘルムート。それに割って入るヴィリー。老体は即座に反応することは出来ず、ならばと別の行動をとる]
[ヘルムートに隙を作るべく、彼の右側へと回り。手にしたままだった血濡れた短剣を振るう。タイミングはウェンデルが放った鉛玉とほぼ同じだったか]
[白金の獣がクロエへと向かうのを見る。]
ああ……
[手渡したお守りは唯の気休め。
アーベルが庇ったのを見るけれど、二人ともが襲われてしまえば――]
どうか、無事で……
[小さく、祈るように呟く。]
[女性に向かって行こうとする姿に、思わずヘルムートの前に立って。
けれど既に実体を失ったその身は、生者たる人狼を阻むことなどできるはずもなく。
己の身をすり抜けていったヘルムートの姿を。泣きそうな表情で振り返った。]
………私は…本当に、無力ですね。
[フーゴーの短剣を避ける為]
[白金の狼は、傷ついた脚を引きずり軌道を変えた]
[けれど、其れが大きな隙を生む]
[キャリンッ]
[金属同士の擦れ合うような其の音が獣の音には大きく聞こえ]
[更にもう一つ届く音は、銃声]
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