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ルイさんの、色?
[かざされるランタンに、一つ、瞬きます。
けれど、何となく言いたい事がわかるのは、自分も色を見るからでしょうか。]
……そうね、本当に綺麗ないろ。
昨日のお花はね、アルベリヒさんのいろだったの。
そして、今日のお花は……牧師様の、いろ、なの。
[小さな声は、少しだけ震えていたかも知れません。]
[牧場にざわめく人の声
微かに漂う、果実の香り]
こんにちは、ベリエスさん。
……どうかなさったのですか?
[牧師の仕事は、祈ること。
死者の旅路を、照らすこと。
与えられた仕事があれば、それを行います]
牧師さまの色はその色なの?
見えないのは、そのせいなのかしら。
〔ぱちくり、今度はアナがまたたく番。
じいっとじいっと、花の色を見つめている。〕
森から採ったみたいな色。
闇を切り取ったみたいな色。
光を押し潰してしまう色?
〔最後の一言は尋ねるようにして、ドロテアを見上げた。
めぇ、
フリーの鳴き声は、ドロテアみたいに、ちょっぴり震えていた。〕
[おじいさんは、牧師に手を振り返して言いました]
旅人どのが、のう。冷たくなっとるのが見つかったんじゃあ。
ありゃあ、人狼の仕業ではないとは思うが……。
[おじいさんはまだ、ルイを手に掛けた人を知りません。
うすうす感づいてはいたのですが]
[アルベリヒの声を聞いた小鳥は驚いて、ぱたぱた、ぱたぱた、辺りを飛び回ります。
けれどもやっぱり、それを見る人はいないのでした。]
[ドミニクの答えには人の死に立ち会ってきた重みが感じられました。ゼルマがそう思っただけかもしれません。]
ええ、そうね。本当にそんなものが居るならまだ残っているはずよ。ルイさんがそうだとしてもまだ一人というか、一頭?
アナはそんなに変わってないと思うわ。変わったことは言うようになったけど、目が、変わってない。
それとね、羊たちが懐いているの。ヴァイスも怖がらない。むしろ今のあなたの方が血の匂いがして引き気味なくらい。アナとドミニク、あなたの二人は人間だ思うの。
[こんな他の人を疑うようなことを話して良いのだろうか、と思いました。そしてまた、本当のところ人か獣か分からないドミニクにこのような話をしてよいものかもとても躊躇われました。
でも老婆は長年そうして生き抜いてもきたのです。]
……ルイさんが、冷たくですか。
[牧師の口調には、あまり驚きの色がありません。
先刻、少女から聞いた話のせいでしょう。
こころの欠片は、どこにある?]
それで、ルイさんのからだはどこでしょうか。
[辺りに、木こりの姿を探しながら
牧師はご隠居に問いかけます]
[アナの上げる例えは、どれも正しいように思えました。
だから、尋ねるように見上げられると、一つ、頷きます。]
押しつぶす、というよりは、食べてしまう色、かも知れないわね。
[震えるような声を上げる子羊は、同じ不安を感じているのかしら、なんて。
ふと、思いました。]
ルイは、蛍のいる川の近くに倒れておったよ。
教会までは運ぼうとしたんじゃが、わし一人ではのう……。
メルセデスや、少し手伝ってくれんかのう。
[そう言って、おじいさんは川の方へと歩き出そうとします]
おいらたちは、こうして見てるしか出来ないんだな。
[ぱたぱたと飛ぶ小鳥に向かって、アルベリヒは悲しそうに言いました]
いっそ見ないでいた方がいいんだろうか?
[だけどやっぱりふわふわと、羊雲のように浮かんだまま、そこから離れられもしないのでした]
[ごくり、と唾を飲み込みながらゼルマはドミニクに云いました]
あんたは、人間、なのよね?
そう信じていいのよね?
だったら、聞いてほしいわ。あたしの、勘が正しくて、ヴァイスの感覚を信じるならば、獣かも知れない人はドロテア、ベリエス、牧師様、しかいない。
もしこの中にいるとしたら、まさかだけど、ベリエス?
[たったこれだけのことを言うのにずいぶんと時間がかかっていたのでした。
その間に二人はだいぶ村近くまで降りてきていたのです。]
ドロテアお姉さん。
黒い森に住む双子は、
同じだけど違っていて。
ひとりの色は白くて、
ひとりの色は黒かったのだって。
〔とつぜん、そんな話を始めるアナ。〕
ふたりは、どうなってしまったと思う?
ふたりは、どうしたかったと思う?
お姉さんは、どうしたいと思う?
〔質問したのに、答えは求めずに、くるりと向きを変えて、また、歩き始めてしまった。後から、フリーもついていく。時々、後ろを振り返りながら。〕
そう、ですか。
[ご隠居の言葉を聞くと
短い時間でしたが、ルイと話をしたことを思い出し
牧師は目にそっと手をあてます]
わかりました。
では、お手伝いさせていただきましょう。
[牧師は手で隠した顔に笑みを浮かべました。
そっと辺りを窺うと、川の方へと歩き始めます]
[木こりはごきりと肩を鳴らし村へと歩き始めます。
歩調はのっそりのっそりと、ゼルマも猫もついて行ける程度。
老婆の長い人生を感じる声に黙々と耳を傾けました。]
……人に狼は化けると言う。
獣はそれでも気づくのか?
[木こりは老婆に寄り添う老猫を見ます。
人狼が老婆に化けたなら、女将が一番邪魔でしょう。
そう考えていたから、老猫を見る目は真剣でした。]
チィ。
[小鳥は少し悲しそうな、落とした声で鳴きました。
けれどもアルベリヒとおなじように、そこからはなれようとはしないのです。]
同じだけど違っていて。
ひとりは白くて。
ひとりは黒かった?
[唐突に始まるお話に、ゆるく瞬きます。]
どうなって。
どうしたかったか。
……わたくしは……。
[問いかけへの答えは、すぐには声になりませんでした。
その間にアナは歩き出します。
時々振り返りながらついていく子羊の様子に、少し、眉が下がりました。]
――川縁――
[冷たくなった旅人のからだは、まだそこに倒れたままでした。
近くには、丸くて重たいものの入った袋が置かれています]
ここじゃよ……。どうか祈ってやっとくれ。
[そう言って、おじいさんも祈りを捧げます]
寂しいもんじゃ。アルベリヒの所にはあんなに人がおったのに……。
オイラは人間だ。
狼でも人狼でもねえ。
[唾を飲み込んだ老婆に返る声は相変わらずの無愛想です。
そして老婆が重ねる声にも木こりは変わらぬ渋面でした。]
ゼルマさんが言う通りなら、そうなる。
爺さんも余所者だったし、それに…牧師さんが狼とは思えねえ。
[最後に付け加えた声は、とても小さなものでした。
ゼルマにしか聞こえないくらいの呟きです。]
……何も、なければ。
……何も、ないままで。
いたかったかしら、ね。
[始まりがどこかなんて、しりませんけれど。
始まってしまったら、止めなくてはならないから。]
……。
[軽く目を伏せて、籠をぎゅ、と抱きしめました。]
〔アナの足も、羊の足も、そんなには早くない。
それに場所をしっかり知っていたわけでもないから、そこにたどり着くまでには、だいぶ、時間がかかってしまった。
川のさらさら流れる音が聞こえてくる先には、既に人がいるみたい。〕
[川べりに倒れたままの旅人のからだの周りには
蛍が弔うように集っていました。
牧師は、旅人のからだを眺めた後、
祈るような姿勢で、言葉をつぶやきます]
ええ、本当に。
寂しいものです。
[牧師はそう言って、
ごちそう、ごちそうと鳴くからすたちを見上げます]
おーい、ドロテア、おーい、アナ、気をつけろー
[心配そうにふわふわと、アルベリヒの声は子羊には届いたでしょうか?]
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