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ふにぃ……。
[どうにか、中央広場まで戻ってきて、ひとつ、息を吐く。
そこかしこ、聞こえるさざめきは訪れた『周期』への不安の声か]
…………。
[その声に、きゅ、と眉を寄せた後、できるだけ早足で広場を通り過ぎた、が]
……にぃ。
[いざ目的地である薬師の家まで来ると、やっぱり怖気付いていたり]
―自宅―
[奥の部屋に麻酔の瓶を取りに行き、イレーネが部屋から出てきたならそれを渡した。
そうして彼女を見送る頃か]
……あ?
[ぴく、と片眉が上がった。
気付かれたならば何でもないと首を振って]
─村の通り─
そうか、分かった。
…ん、食べて、感想言ってみるよ。
[まだ聞いてるかも、との言葉には同意するように頷いた。そうあって欲しいと思う部分もあったために]
ミハエルに?
ああ、そう言えば宿題にしてたんだったな。
『美人髪』……了解、伝えておく。
[頼みに承諾の意を向けると、自宅へと向かうユリアンを見送る。自分は他の者が集まりそうな場所へと足を向ける]
→道具屋前─
[たた、と道を走りぬけて、大きく深呼吸をする。
道具屋の前まできて、一度、後ろを振り返った。]
………。どうにも
[ぽつ。と金色の睫毛を伏せる]
好きなものが多すぎるな。ボクは。
どうにも、…欲張りすぎて困る。
[ユーディを撫ぜた手を兄に触れた手を、
…ぎゅ、と握って、少し、困ったように笑って、
その表情を払うようにふるり。とかぶりをふって]
─道具屋─
[き。と入り口の戸を揺らす。
中に入るときの表情はいつもどおりで]
レナーテ?
[いるだろうか。と、今度は、道具屋に住む、
兄妹の兄の方の名前を呼んで入り口をくぐった。]
─白雪亭→村の通り─
[食堂の入り口に「本日臨時休業します」の貼り紙をして、重い耽った様子で通りを歩いていると、少し離れた所にエーリッヒの姿。]
あ…………。
[それに気付くと、僅かに逡巡するがすぐに明るい表情を作ると、]
おーい、エーリにいちゃーん。
[パタパタと手を振って、駆け寄る。
だが、何やらいつもと様子が違う雰囲気にこてしと首を傾げ、]
…………にいちゃん、何か、あったの?
[そう言いつつ、嫌な予感は彼女の背を這い登ってくる。]
─村の通り→ゼルの家─
[らしくない、とぼやいた声には返事はせずただくすりと笑みを零しただけで。]
あ…え、ゼル?
[ゼルの家に着けばすぐ手を離されてしまうと思ったのだが、そのまま手を引かれて。
きょとんとしたままつれていかれた部屋でタオルを渡されてもまだすぐ理解はできなかったものの、水を貯めた桶と投げられた言葉でやっと気付いて]
…うん。
ありがと、手間かけちゃってごめんね。
[出て行ってしまった彼の背に、礼を言った。]
[ギュンターは何も言わず、無言のままこちらを見つめ。
ギュンターが物事をどこまで知っているのか知らないが。
告白に驚いた様子を受けなかったのを見ると、少なくとも自分が死神憑きだった事は知っていたんだろう、とは思った。
無言に耐えかね、するりと言葉が零れ落ちる。]
知らなかった。周期の事も、死神の事も。
母さんに死神の事を聞いたら、泣いてしまって、聞けなくて……
[言い訳だ。それでも聞かなかった自分が悪いのにと。
言葉は途中で途切れ、また目が熱くなってきて、俯きは深くなる。
ごめんなさいと垂れ呟く自分の頭に、そっと何かが乗せられた。
幼子をあやすように、皺のある手で、ゆっくりと頭をなでられた。
悲しければ泣いてもいいと言われたが、首を振った。]
─ゼルの家─
[ゼルの厚意に甘えて、顔を洗い。
水に浸した手を瞼に当てて少しでも腫れないようにしばらく冷やした。]
…なにやってんだろ、あたし。
本当に迷惑ばっかりかけてるな…
[じわ、と涙がまた浮かびそうになって、慌てて首を振り。
もう一度顔を洗って借りたタオルで拭き、それを手に部屋から出た。]
─村の通り─
[歩きながら、自分の腹部に右手を当てた。それは先程ミハエルが抱きついてきた位置]
「後悔の無いように」。
……後悔だらけだな。
俺はまた約束を果たせなかった。
誰が消えても、自分が消えても。
きっと、後悔は残る。
[腹部に当てていた右手を外し、顔の右半分を覆う。自嘲的な笑みが零れた]
─村の通り─
[呟いた直後、ベッティの声に右手を顔から外して視線を向けた]
やぁベッティ。
……うん、ちょっとね。
[ベッティに向けるのは悲しげな笑み。一拍置いてから口を開いた]
──ゲルダが、消えた。
ユリアンが言うには、刈られたと。
―自宅―
あ…ゼル。
[部屋から出ると、ゼルが頼んでいた麻酔の瓶を持って待っていて。
タオルを手渡しながら、ごめんね。と謝った。]
迷惑ばっかりかけちゃった。
みっともないとこも見せちゃったし…
でも、わがまま聞いてくれて、ありがとね。
[そう言って、申し訳なさそうに微笑んで。
それじゃ帰る、といおうとしたところで彼の表情に変化があって。
どうしたの、と問おうとしてはっと思い当たって。
なんでもないと首を振られれば、…そう。と頷いた。]
死んだ事が悲しいわけじゃないから。
死ぬのは少し、怖かったけど。
死んでしまったらそんな事、何ともない。
ただ、一人にしてしまった事が…今は、苦しくて。
…だから、自分のために、泣いて悲しんだりはしない。
[二人だったのに、一人にした。
負担を重荷を、全部押し付けて、自分だけ楽になった。
これから一人、終わりがくるまで刈り続けなければならない死神を、一人で見続けなければならない宿主を想えば。
それにもう少しだけ泣いたからと、爺には少し、困ったように笑みながら告げた。
ギュンターの方もまた、困ったような、怒ったような、そんな複雑な顔でこちらを見ていた。]
─道具屋─
おかえり。
…というのも何か違うな。
[瞑っていた紅瞳を開いて顔を上げる]
[いつもと態度も変わらないよう冗談めかしてミハエルに微笑んだ]
[できたはずだ]
[弓を片手に立ち上がった]
イレーネ。
[妹も呼ぶ]
[それからギュンターは、静かに母の事を教えてくれた。
自分の母の、その幼い弟が、死神に憑かれて消えていった事を。]
……そうだったんだ。
[だからあんなに母は嘆いたのかと。
理由をしれば、少しだけ心にかかった靄は晴れた。]
ありがとうギュン爺。教えてくれて……。
にしても、また死神に憑かれるなんて、因果な家系だったのかもね。
[ユリアンの父親もまた死神憑きだった事など知らず。
そう言い向けた苦笑に返った長老の表情は、また複雑なものだった。]
―自宅―
ああ。
[受け取ったタオルを片手に、送り出す言葉は短かったけれど、彼女が見えなくなるまで見送って]
『死神』。
[扉を閉めてから、その名を口にした。
遠く、空に上がって行くように視えたものがそれだと、判ったのは本能的なもの。
それがパン屋のある方角だったということまでは分からなかったが]
……アレが視えた、ってことは……
[ユリアンか、『もう1人』か。
そこに思い至ればきつく眉を寄せて、そのまま暫く玄関に佇んでいた]
─村の通り─
!?
[エーリッヒの口から告げられたのは、ゲルダの消失。
驚愕の表情を浮かべるも、すぐに目を伏せ、]
…………そう、なんだ。
おねえちゃん、『死神』に、刈られちゃったんだね。
[ぎりりと歯を噛み締め、悲しげに呟いた。]
ああ…店、どうなるかな。
だれか住んでくれるかな。
レシピは…お婆ちゃんのものがあるから、それ通りに作ってくれればいいし。
[母に自分以外の兄弟は居ない。家系は絶えた。
自分は何も残さなかった。新しい色々なパンの作り方も、殆ど文字にして残していない。
本を見に行くという約束も果たせなかった。
パンの感想を聞く事も出来なかった。
生きいて欲しいという願いを叶える事すら出来なかった。
なにも、なにも残っていない。
覚悟があれば、自分も何かを成せただろうか。
だけども。]
―自宅―
[時間が経ち。
表で小さな声がしたような気がして、顔を上げた。
再び扉を開けて]
……何だ。
珍しいじゃねぇか。
[ユーディットの姿が見えれば、やや瞬いた]
―自宅―
[やろうとすれば整理は早かった。
普段のものぐさがばれてしまう感じである。]
よし。
『死神』が来ても安心だ。
[古い本・新しい本と並べていけば、わかりやすくなった筈。
これだけやれば平気だろうと満足げに頷いてから、とりあえず渡した本の原本を持った。]
いつも来てもらってばかりだし、持っていくのもありかなぁ。
[少し悩んだ後、まだ食べ終わっていない蒸しパンを咥えつつ、古い本を大切にしまった袋を持って外に出るのだった。]
―キノコ畑―
[そうした方が、きっとゲルダも喜ぶと、エーリッヒには言い残して、
自宅の方に戻るとキノコ畑の手入れを始めた。
いつもと変わりの無い行動]
これはまだ、早いか。
[収穫できるものは籠に入れて、新作のキノコ「美人髪」を栽培する場所を一角につくりはじめた]
いろいろ、残しておくか。
[後悔の無い様に、言ってる自分が、そうしていれば世話無いなと、突っ込むのは自分自身で]
─村の通り─
いずれ誰かが、とは思っていたけど。
いざその時となるとやっぱり……。
[苦しいとも悲しいとも言葉は続かなかったが、落ち込む雰囲気は伝わるだろう。目を伏せるベッティに気付くと、落ち着かせようとその頭に手が伸びる]
『刻』はおそらくまだ続く。
───ベッティも、悔いの無いように。
[誰かが消えるにしても、当人が消えるにしても。やり残したことが無いようにと、言葉で背を押そうと]
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