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[ともあれ、ここにいても何が変わる訳でもない、という思いはあり。
逡巡の後、手をかけたのは、窓]
……ああ、悪いが、中から閉めといてくれ。
[広間にいる者たちにこう、声をかけ。
返事を聞くより早く開け放つと、窓枠を身軽に乗り越え、月の照らす世界へと*飛び出した*]
忘れたい、何か。
[落ちた視線は布に包まれた足に向く。
踝の痕は翠からも隠されている]
足掻いて、抗って。
そうすれば違う終わりを迎えられるでしょうか。
[口元だけで笑う男に投げた言葉は、確認の響きを帯びて]
その通りのようです。
私も少し…。
[立ち上がり、一瞬の停滞を挟んで椅子の傍を離れる]
死に急いでいる心算はありませんよ。
自分の限界は知っています……その筈です。
ああ、すみません。
意地を張っているのではないですよ。
目眩さえ治まれば……多分。
それに幾分かましになってきました。
[少しまだ疲れの残る顔に刷毛で刷いたような脆い笑みを浮かべた。]
あ。
[窓から抜け出してゆく青年は止めるまもなく。
残された声に何となく従い、開け放たれた窓に近寄り閉じた]
…失礼します。
[それから広間に残っている人々へ礼をして。
ゆっくりと扉から*出て行った*]
[部屋を出てゆく面々を見送り、軽く会釈をする。
それからゆっくりと大きな息を吐き、]
[どさり、とソファに倒れ込むように深く身を委ねた。]
ふーん、作為ねえ…。
[かわされた白い面で長い睫毛が伏せられ、離れていく姿を見送る。与えられた熱が消えて行く]
あーあ、行っちまった。
素直に乗りゃ美味しい思いが出来たかねえ?
惜しいことしたかも知れねえが…今はお前が一番さ。
[抱えた酒瓶の一本を持ち直し、音高く口付ける]
あ、ちょっと。
[窓から出て行くハーヴェイに声をかけるも、既にその身は外へと躍り出て]
…一階だから良いものを。
二階とかだったらどうするつもりだったのかしら。
[一度トレイを置いて窓を閉めるかとも思ったが、それはネリーがしてくれたようなのでそのままその様子を眺め。広間を出て行くクインジーとネリーを見送る]
ナサニエルも、眩暈が治まらないようならそこで休んでおくのよ。
また途中で倒れたりされてもかなわないわ。
[ソファーに身を委ねる様子を見やってから、「それじゃ」と告げて自分も広間を辞した]
女の尻追っかけるのも悪くねえが、一晩の宿の為に貸しでも作っとくか。
[外への扉を一瞥し、重いブーツを前に動かす。途中見かけたクインジーに内心の冷や汗を隠し、シャーロットとすれ違いに広間へ戻る]
ほらよ、気付け持ってきてやったぞ。
[ソファーに沈む青年に場違いに緊迫感のない声を投げ、無遠慮に踏み込んで面々を見回す。ぼさぼさの髪と同色の髭面が呆れを示した]
…おいおい、何そろって湿気た面してんだ。
この世の終わりでも来たわけじゃあるめえしなあ?
[物憂げに、仰のいていた顔を髭面の男に向ける。
瞳は暗い青に沈み、視線に力は無く、]
[掲げられた酒壜にだけ、口の端を僅か持ち上げた。*]
[キッチンへ向かおうと廊下を歩くと、反対側からナサニエルを運んできたもう一人の男性が歩いてくる。あ、と声を出しかけたが、それは漂ってくる特有の匂いにより飲み込まれた。暗がりの中、眉根に皺が寄っていたのは果たして相手には見て取れただろうか]
……お酒くさーい!
どれだけ飲んだらああなるって言うのよ。
[その言葉を発したのは、もちろん相手の姿が見えなくなってから。ナサニエルの恩人と言う認識から一転、酒臭い男として認識された]
[その後はキッチンへと向かいティーセットを片付けて。全て終わると階段を上り空いている部屋を見つけて中へと入った。疲れのみならず、話を聞いての緊張もあったのだろう。それが解けると共に睡魔に襲われ、ベッドへと横になると直ぐに意識は*闇の中へ*]
[終焉。
己が発した疑問を切欠に、頭上で飛び交う話題。
物思う瞳は何も語らずにいたが、
話題が収束する頃、顔を下へと向け、
伸ばした爪先を弄びながら呟きを落とす]
終わりの刻の為に、選ばれた。
それは、誰の為で、何の為で。
[言葉の群れから、一つ一つを掬い取る。
けれど、掴み取れはしない。
音もなく、滑り落ちていく]
……やっぱり、よく、わからないね。
[疎らに人の散りゆく室内に、視線を走らせる。
薪の爆ぜ、朽ちていく音が鼓膜に響く。
焔を生み、黒く染まり、潰えるさまを見送った]
[傍らに置いていた画材を拾い上げ、
立ち上がり埃を払う]
ん、さみしくなった。
[少なくなった人気に独り言ちる頃、男が一人、入って来る。
名は知らぬから呼ぶことは叶わなかったが、
能面とも異なる、しかし表情の薄い顔を向けた]
この世の終わりは来るか知らないけれど、
あなたの終わりは来るかもしれないよ。
そういう話を、していたんだ。
[ほんの一部だけを拾って、言葉を返す。
直後、僅かばかり眉根が寄った]
……変な臭い。
[瓶が差し出される先、
ソファに身を預ける男へと視線を移す]
美味しくなさそう、薬?
[掠めるような笑みは目に入らず、疑問を発した]
ナサニエル――だっけ。
ナットは、きちんと飲んで、ゆっくり休んでね。
治らないで動けないのは、辛いだろうから。
[様相を暫し見詰めた後、勘違いをしたまま広間を出て行く。
薄暗い廊下を歩む足裏に、古びた城の冷たさが*伝わった*]
あ゛ーん、俺の終わり?
人形見てえな面して言うことが穏やかじゃねえな。
[薄暗がりで見たシャーロットより格段に表情のないラッセルの言にも大して衝撃を受けず。ナサニエルへ歩み寄り手にした瓶の小さい方を差し出す]
ほらよ、その顔なら自力で飲めんだろ。
[戻す手で自分も瓶の蓋を開け、一口含んで髭面を歪ませる]
くはー、最高に効くぜえ。
変な匂いもまずそうな味も、薬ってなら納得かい?
[ラッセルの方に酒臭い息を吐き、テーブルにあったクッキーを鷲掴んで大口開けて放り込む。噛み砕きながら暖炉に目をつけ、その傍に胡坐をかく]
まあまあじゃねえか。
しっかし何の統一感もねえ連中だな。
一体なんであんたらこんなところに集まってんだ?
[図々しく暖を取りながら上げた声は現状をつかむ為ではなく*単なる興味本位でしかない*]
信頼?
[近付く気配と声に、閉じた眼を開いて顔を上げます。
声の主がどんな表情をしているかは分かりませんから、それが純粋な疑問なのか、皮肉なのかもまた分かりません。
尤も、見えていたとしても分からなかったかも知れませんが。]
信頼は、…分かりません。
でも初対面だからこそ、何も起こっていないうちからいきなり変に疑うのも失礼じゃありませんか。
それに、
[一度言葉を切りました。
人差し指で眼を示しましたけれど、少しずれていたかも知れません。]
わたしは、これですから。
誰も彼もを敵にしていては、生きていけないんです。
さあ……何故でしょうね。
色々と理由は考えられるとは思いますけれど。
[薄く微笑みながら、蓋を開けようと]
ところであなたはここに来る前の記憶をお持ちですか?
此処に居る我々全員、あの森に現れる以前の記憶を持たないようですよ。
[さらりと無精髭の男に告げて、壜の酒を少し含んだ。]
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