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―自室→廊下―
[いつもより遅く起きたのは、眠るのが遅かったせいだ。
悲鳴には気づいていなかったのか、普段どおり身支度を整えてから部屋を出た。
出た瞬間、鼻に届いた匂いに、眉を潜めてからそちらに向かおうとして。]
シャロ?
[どこか怯えた様子で廊下を歩く彼女に近づき肩に手を当てる。]
どうした、大丈夫か?
[そう顔を覗き込む。彼女はどんな表情を浮かべていただろうか。]
[ラッセルの側に佇んだまま。
漂う、の方が正しいのかもしれない、重さなど感じないのだから。
やがて、叫びと聴きつけて人が訪れる。
マンジローはラッセルに声を掛けるだけで、人を呼びに戻っていく]
[やがて、他の人たちも顔を出す。
一人一人、様子を伺う。この中に、居るはずなのだ…だけど、気がついた所でそれを伝える術はもちろんない]
…ラッセル…
[俯いて泣きながら何度も同じ事を呟いて、また、今までのように人と距離をとろうとするように振舞うラッセルに、そっと呼びかけて手を伸ばす]
……見つけてくれ、これ以上…「おおかみ」が「ひつじ」を食う前に。
─自室前廊下─
…………そうじゃない。
[またふるりと首を横に振る]
……ギルは、ひつじだったの。
ひつじは、おおかみに食べられちゃうの。
僕、ギルがおおかみじゃないって分かったから、信じられると思ったの。
信じたら、ギルも護ってくれるって言ってくれた。
……そしたら、食べられちゃった……。
…僕、前にも、おんなじことしたのに……また……!
[カタカタと震えて、グラスを両手で持つ。
グラスの中間くらいで水面が踊るように弾けた。
ラッセルの表情は歪み、枯れるを知らぬ川のように眼から涙が零れる]
―廊下―
[最初に見えたのは赤髪の青年と少年だった。
其方を見ながら後ろ手に扉を閉める。思ったより大きな音が響いた]
ラッセル様、トビー様。
[意を決して近づいて行く]
─2階・客間/昨夜─
[渡された白い花とその理由。
戸惑いは束の間、返したのは、お上手ですこと、という軽口]
[その後に語られる、能力者についての話。
碧は、険しさを帯びる]
……能力者、か。
それについては、人伝で聞いた程度の事しか知らないわね。
深く調べるような時間も、必要もなかったから。
……できれば、深くは関わりたくなかったけれど。
[呟いて。
深く息を吐いた後の長い沈黙に、僅かに眉を寄せる]
ハーヴ殿?
[どうしたのか、と問うより先に語られた事。
ラッセルも力持つという可能性。
そして、偽り言う者の存在の示唆。
碧の瞳が、やや、細められた]
……そう。
ありがとう、色々と教えてくれて。
[立ち上がるハーヴェイに向けるのは、短い言葉。
そして、立ち去り際に向けられた問い]
……誰を?
あら、わざわざ聞かなければわからないかしら?
[はきと言葉にはせず、はぐらかすよに、笑む。
碧の瞳には、笑みの気配は見えぬやも知れないが]
―ラッセルの部屋の前―
[首を振るのも、続く言葉も、表情も。見て、聞いて、不思議そうな顔をする。
ひつじ、というものが何か、トビーは知らない。おおかみ、というものも、トビーは知らない。
ただ、強いものがおおかみで、弱いものがひつじだというのはわかった。]
ギルバートさん、強い人だと思ってたけど、違ったのかなぁ。
それとも、殺した人が、すごく強かったのかな。
でも、信じたら死ぬって、おかしいよ。死ぬのにそんなことは必要ないよ。
信じなくたって、信じたって、死ぬよ。嘘ついたって、死んじゃうし。
生きるのってとてもむずかしいよ。
綺麗な人は、ちがうのかもしれないけど。
[少し首を傾げて、ラッセルのふるえに、またグラスへと手を伸ばす。持っていたほうが安全かなと思って。]
誰のせいで死ぬなんてないんだよ、ラッセルさん。
あにきが言ったんだから本当だよ。
死んだら、それは自分の責任。ギルバートさんがラッセルさんを護るって言ったなら、ギルバートさんはそうしたかったんだから、ラッセルさんがラッセルさんのせいだって言ってたら、きっと悔しいと思うよ。
[ハーヴェイが出て行き、ひとりになった女はひとつ、息を吐く]
……何が真実で何が偽りか。
それは、人のものの見方、考え方と同じ。
あるものの真実は、あるものの偽り。
全てが重なり、同じになるなど、稀有なこと。
[歌うよな呟きの後、手にした白の花弁に唇を軽く、触れる]
……私は、私の思うままに。
[呟きを聞くものは室内にはなく。
やがて舞い降りる眠りという紗に包まれた女を呼び起こしたのは、叫び声]
……何が?
[訝るように呟いて。
身支度を整えると、廊下へと出る。
白の花は、小さなコップに生けられ、窓辺にひっそりと置かれていた]
―廊下―
[ふらふらと歩いているとハーヴェイから声をかけられる。
声より先に肩に手を触れられていれば驚いていたかもしれない。
けれどもかけられた声はよく知った、慕う相手のものだったから驚かない。
振り向いて向けた表情は不安げで、けれども体の微かな震えはとまっていた]
……こわい……
[小さい声で応えて、きゅっとハーヴェイに抱きついた]
―二階・廊下―
[悲鳴の起きた場所から、墓守の使う部屋までは距離がある。
その為墓守がそれを目にしたのは、既に幾人かがその場所を訪れ、或いは立ち去った後だった]
フェイバーさん、ですか。
[青年の縋る亡骸を見て、確認するように呟く。
彼等が此処まで親しくなった経緯を墓守は知らない。
けれど仕事の為に彼を引き剥がすようなことは無く、少し離れた場所から、少年と話す様を見た。
少し前に来ていたらしい令嬢が二人に近付くのもまた、視界の端に収める]
─自室前廊下─
だって、前も……!
[トビーの言葉を否定する材料は持ち合わせていない。
けれどそう思ってしまう状況が揃っている。
泣きながら言い返そうとして、言葉に詰まった。
その間にトビーの手がグラスへと伸び、ラッセルの手から抜き取ってしまった]
うっ……ぅぅ……。
[空になった手で目元を拭う。
何度拭っても涙は止まらなかった]
―二階廊下―
何が有りましたの。
[錆の匂いが強くなり息を飲む。
下唇を軽く噛み締めて足は止めずに進む]
フェイバー様が亡くなられたのですね。
[近づけば会話の内容も届いて来る。
確認する様に部屋を覗き込もうとした]
―ラッセルの部屋の前の廊下―
[ラッセルに言っていたら、ドアの音でようやく気付く。
声の方を見る。
昨夜もなんだか、へんな目で見られた気がする。]
おはよう、ヘンリエッタさん。
ここは危なくないよ。たぶん。
[ギルバートの死体のそばだというのに、大丈夫だよと言う。
その先に、黒い影があって、そちらにはまた片手を振る。]
―廊下―
怖い?どうした、大丈夫だよ。今は俺がいるから。
一人じゃないから、大丈夫。
[そう子供をあやすように背を撫で、シャーロットをなだめた。
そうして少しした後。]
……向こうで何があったか見てきたかい?
[そう遠まわしに、怯える原因だろう事を尋ねた。]
─2階・廊下─
[部屋を出て最初に感じたのは、昨夜も間近に接したにおい。
眉をひそめ、周囲を見回したなら、その源には容易に気づける]
あれは……ギルバート殿?
[小さく呟く。
亡骸の側には、青年と少年。そして、近づく少女の姿を認め。
歩き出そうとした時、ふと、もうひとつの気配に気づく]
……墓守殿。
[ラッセルの元に現れたのはトビー。
いつもと変わらぬ様子で水を差し出すのを見つめる。変わっていると思ったけれど、こんな時はトビーの存在がありがたかった]
[ラッセルの呟きを聞いて胸が詰まる]
お前がそういう事はないんだ…俺がそうしたかったんだからさ。
[触れられない手でそっと髪を撫でるふりをする。ラッセルが自分のせいと思ってしまうのが哀しかった]
人狼を、退治してやるって言ったろ?
……出来なかったけどさ。
……トビー?
[軽く自嘲を篭めて、聞こえないのはわかっているけれど。
そうして聞こえてくるのはトビーの言葉。それは、言いたいことによく似ていて]
…ありがとうな。
[そっと、トビーに手を伸ばして、頭を撫でるふりをする]
―二階廊下―
お早う御座います。
[トビーに危なくないと言われ頷き足を進めた。
露になった光景からは即座に顔を背けてしまう。
近くに居るトビーを見て。
ラッセルを見ると動きが止まった]
………。
[凝視する様に見詰める]
[ハーヴェイから宥めるように背中をなでられる。
一人じゃない、しかもハーヴェイが一緒。もうそれだけで安心ができる。]
…あり…がと…
[小さな声を返しハーヴェイを見上げる。まだ少し硬さは残るがおびえてる様子はだいぶ消えた]
…(ふるふる
[見てないと。首を振って答える。そこに一人で行くのは怖くてとても無理だったから。]
―ラッセルの部屋の前―
一度でも、二度でも、三度でも、四度でも、何度あっても偶然だよ。
そういう風に、誰かがしてるのだったら、別だけどね。
ラッセルさんが信じたら、信じた人を殺す、とか。
して、楽しい人いるのかなぁ。
[首を傾げて。
コップを取った手は、体の前。ちゃんと握っている。
泣いているのをみて、拒絶されないなら手を、涙をぬぐうように伸ばそうとするけれど。]
水、もっともってくるね。
でも、その前におりてきてくれたらいいなぁ。って思うよ。
ずっと座ってると歩けなくなっちゃうから。
ええと、広間?に行ってるね。
[涙に触れるにしても一瞬だ。
そのままくるりと向きをかえて、広間の方に*降りていく*]
―二階廊下―
[視線がこちらに向いた者には、静かに深く頭を下げる]
人狼ですか。
[そう尋ねたのは片手を上げた少年にか、涙する青年にか。
漏れ聞こえる会話の内容に口は挟まないものの、時折目を細めていた]
御早うございます。
[背後からの女の声にも、常と変わらぬ表情で、常通りの挨拶を返す]
─自室前廊下─
[ヘンリエッタに気付くのはかなり遅れた。
トビーが声をかけたことで傍まで来ていることを知る。
声をかけることなぞあるはずもなかったが]
……そんなの、僕には分からない……。
[自分の信じる者を殺して楽しい人が居るのか。
そう疑問を口にするトビーには一言だけ紡いだ。
その後はただ嗚咽ばかりが口を出て、涙を拭って行くトビーの手を拒絶することも出来なかった。
広間へと降りて行く背中すら見ることが出来ない]
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