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― 宿屋 ―
[ゲルダの悲鳴が聞こえても直ぐには動けなかった。
部屋の外には人の気配が増えているように感じる。
無垢の玉を胸元でぎゅっと握り締めた]
――…昨日のうちにおまじない、
教えて貰えば良かった。
[募る不安に揺れる蒼が呟く。
おそるおそる扉の方を振り向いて
深呼吸を幾度か繰り返し手を緩めその中の玉を見つめた]
[ロミの骸を抱えて自衛団が退散していく。
その辺りでポケットからリスがひょこりと顔を覗かせた。
今朝の騒々しさは形を潜めている]
…パラッシ、あなた、敏いのね。
[ポケットの住人に語りかけながら、指の腹でリスの頭を撫でた。
死の気配でも感じているのだろうか。
血腥い死に方をした者が出る度、リスは大騒ぎをしている]
……でも、それしか分からないのよね、きっと。
[人狼を探せたら便利なのにと思えど、ただのリスがそんな芸当を出来るはずが無かった。
リスは何を言われているか理解していないため、呑気にポケットから顔を出し入れしていた。
小さく息を吐いてから、エーリッヒは宿屋の中へと戻って行く]
―洗面所―
[胃液を吐き続けると、色が変わるのだと初めて知った。
痙攣する胃を抑えるように水を飲むと、また、嘔吐する。
暫く繰り返して匂いが籠るといけないと小窓を開けると
こんなところにも自衛団員が見張っているのが見えた]
…―――、
[長く息を吐く。
そして、考える――――何をどの順で、成すべきかを。]
任された。行ってこい。
[答えの調子に、ライヒアルトなら問題ないと促す。
が、ミリィの様子には軽い舌打ち]
謝んじゃねぇよ。
それくらいなら、さっさと行け。
自分で動け。
あんたも一緒に、下に行くんだ。
[此処に女が残らないようにと、
不機嫌な面構えは変わることない]
[ウェンデルに制止され、足を止めるノーラに気付き
涙を誤魔化すよう、袖口で目元を幾度も擦る]
……私は、大丈夫。
でも、……。
[恐る恐るといった様子で言葉を掛けてくるノーラに
躊躇うように、一度言葉を切って]
ロミ嬢が――亡くなりました。
[誰も答えぬまま、宙に浮いた問いに答えた]
─ 回想・前日 ─
[気持ちが落ち着くまではゲルダにしがみついたままでいて。
エーリとブリジットが戻ってきた時には流石に泣き止んでいたけれど、>>31笑顔を向けられても瞼が重くて上手く笑えなくて。
ブリジットが泣いていたことも気になってたけど、戻ってきた彼女>>32はもう平気みたいだったから理由を聞くことはしなかった。
団長の死は聞いていたけれどどのような死に方だったか見も聞きもしなかった子供は、危機感が薄かったのだろう。
ヨハナやアーベルが席を外していることも、おうちに帰ったかお仕事してるのかな、くらいに思っていて。
ヨハナの様子を見に行くと言っていたノーラから伝えられた事実を聞くまで、早く戻ってこないかな位にしか、思っていなかった。
事実を聞いても、どこか、信じられなかった。
否。
信じたくなかったという方が正しいだろう。]
[見返す黒瞳>>136に、ひとつ息を吐き。
行きましょう、と声には出さずに促す仕種を一つ投げて、食堂へ。
泣き疲れた少女を休ませること、それを優先すべきと思ったから]
─ →食堂 ─
─ →食堂 ─
[宿屋の外でロミを自衛団に預けた後、宿屋の食堂へと戻って来る]
ロミは、一旦自衛団で預かるそうよ。
今すぐお父様のところへ帰すと言う確約はしてもらえなかったわ。
[交渉の結果を食堂に集まった者達へと告げて。
小さく、エーリッヒは息を吐いた]
[女達を連れ、ライヒアルトが広間へと向かうのを見送る。
そうしてロミの死んだ血塗れた室内は、どうやって人を近づけなくすべきかと、
扉の向こう側を見やる]
拭く、とかしかねぇよなぁ…。
[状況を見れば誰かが襲われた事もわかってしまう。
彼女らの様に、憔悴しては元も子もない。
琥珀色は、ただ赤黒い血の色を眺めていた]
─ →食堂─
……ありがとう、ございます。
[差し出される黒レースのハンカチを受け取り、目元を押さえる]
何であんな娘に、こうまで惨いことが出来るんだろう。
[恐怖からか引き攣るように喉を鳴らし
問いかけるノーラに俯きながら呟いた。
食堂に着けば、程なくエーリッヒが姿を見せ
ロミの遺体を家に返してやることが出来なかったと辛そうに告げる]
ロミ嬢は……人狼なんかじゃなかったのに。
こんな仕打ち、酷過ぎるじゃないか。
[女は拳を握り締め、今も此方を監視する自衛団の男に向けて吐き棄てた]
─ 宿屋・食堂 ─
[食堂まで来て、は、と短く息を吐く。
伏した翠の瞳は、外から戻ってきたエーリッヒの声>>145に、そちらを向いた]
……さすがに、はいわかりました、とは言ってくれんか。
[確約はもらえなかった、というのはある程度予測できていた。
村の他の人々の動揺なども思えば、そうも行くまい、と]
せめて、親父さんが顔見るくらいは、させてやってくれると思っとこう。
…あ、れ?
[どうして抱きつけなかったのか。
それをゲルダに問おうと、振り返って。
彼女が抱き寄せている、それを見て、思考が止まった。
一目見ただけで、死んでいると解るそれは。]
……「私」の、したい?
[自分が口に出した言葉は、まるで他人事のような音をしていた。]
[ゲルダが叫んでいる。
すごく大きな声で叫んでいるって解るのに、まるで耳に入らない。
ゲルダの声を聞いて人が集まってきたのが分かっても、皆「私」しか見ていない。
ここにいる私には、誰も目を向けてくれない。]
…や、だ。
[エーリも、ブリジットも、私には、気付いてくれなかった。]
─ →食堂─
[細工師さんに導かれて、漸く辿り着いた食堂。
暫くの間、僕は黙りこくっていました。
流れ続けた涙も漸く枯れかけた頃、戻って来た彼から顛末>>145が伝わりました]
……。ッ、
[何故と問いかけて、下唇をきつく噛み締めます]
…… 今すぐ、じゃ、なくても、
ちゃんと、返してもらえるん、だよね……?
[少しして口を開いて、途切れ途切れに言葉を紡ぎだしました]
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