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[それは、彼女には一番馴染みの無い人間で。
名を交したのさえ、つい先日のこと。
けれど、彼が抱く緑の髪の少年を見れば、彼が何故、殺人を犯したのかは理解出来た。
また、一人。
あと何人死ねば、これは終わるのだろう?
館に残る生者の数を数え、少女は殺人者を見据える。
彼が動いた。
ヘンリエッタと彼の間に立つお下げの少女に、何事か話しかける。
ヘンリエッタは身を硬くして、それを見守った。
緑の髪の少女の背後、一心に彼を見つめる存在に、気付いていたのかいないのか。
彼の瞳に、赤い髪の少女は映らない。]
[返って来た答えに、目を見開く。]
あなたも…お姉さんも?
生まれながらのって…じゃぁ、アーヴァインさんは……ずっと…。
…どうして?
どうして…人を……殺さずに生きていられたのに……っ!?
[仲睦まじい夫婦だったと、両親から聞いていた。
姉からも、コーネリアスは優しい人だと。
哀しみが慟哭を呼ぶ。]
月の綺麗な夜でした。
…一夜の宿を借りに来た旅人は、その館に住まう美しい奥方に心奪われました。
月のひかりのその下に、奥方が一人…佇んでおりました。
[静かな声が語る、昔話。]
[少年を抱き、背を向けた男が二階に消えるまで見送って、ヘンリエッタは自らの手に視線を落とした。
手のひらに硬く、握り締めるは錆び付いた鍵。]、
旅人は冬薔薇のしげみの影で、思わず奥方を押し倒しました。
奥方は思わず悲鳴を上げ、冬薔薇は赤く染まりました。
あとに残るは喰われた人と、撃ち殺された獣、撃ち殺した人。
あとに残るは、殺された…旅人と奥方、そして殺した主人。
[青年が立ち去る刹那に零された言葉には――]
確かに…そうかもしれないわね…。
でもね、ギルバートさん。
私、神父様が扱う銀の弾丸を何度も目の当たりにしているけど――
私…一度だって怯えた素振りを見せたことが無いのよ。
それに――
[しゃらん――]
[胸元から取り出したのは、銀の鎖と細工の施された、銀のペンダントヘッド。
それは少女がこの屋敷に訪れた際、アーヴァインに手渡したそれと酷似した物で――]
神父様は…、これの存在を知って居たかは解らないけどね…。
それに…。私と神父様はもう…疑うとか疑わないとか…そう言うものは関係なかったもの――
[呟いた少女の声は、ギルバートに届いたのか。少女は知る由もなく――]
[しゃらん――]
[ペンダントヘッドを隠して――]
[ふわり――]
[花を手向ける為に、ルーサーの元へ]
――廊下→アーヴァインの部屋へ――
――アーヴァインの部屋――
[立ち入れば、ベッドに横たわる神父の亡骸に花びらを――]
死して尚――傍に居てくれると言ってくれたから…これは器とのお別れの儀式ですわ、神父様――
[微笑めば、空になった花籠の中には託された『聖書』。
それを籠から取り出して――]
ねぇ、神父様…。信頼を得るのは、なんて難しいのでしょうね…。
私はただ――これ以上みんなに…、私と同じような思いを味わわせたくないだけなのに…
[表紙をそっとなぞって抱きしめる――]
[胸元で銀のペンダントがカチリと音を立てる――]
[そして。
ふと、指に当たる背表紙の感覚に、ふと少女は身から『聖書を』離して――]
アーサー…ロー…レンス…?
[裏表紙に記名された「Arthur Lawrence」の文字に首を傾げながら…]
神父様の残した手掛かりで…人狼を見つけないと…
[少女は再び花籠に『聖書』を仕舞い込み――]
――アーヴァインの部屋→…――
[其れはほんの一瞬の事
目の前、投げ出された物を反射的に受け止める
彼が、其れを手放すとは思わなくて]
[一瞬の隙
しかし其れが致命的であった事に
男が気付いた時は既に遅く]
[其れを傷付けない様にと伸ばした腕を
駆け寄る彼が掴み]
……な…っ……
[男がその意図に気付いたのは
己の翳したナイフで心臓を貫かれた後]
[焼け付く様な痛みは一瞬
間近に見るはなんの感情も映さぬ琥珀
ぎり
と、音をたてるかの様に突き立てた其れを彼が手放せば
成す術も無く足元、崩れて]
……っく……
[声も無く
その場に倒れ
そして男は己の命が尽きるのを悟る]
[既に手足が言う事を聞かぬのは
傷ついた心臓に負担を掛けぬ為と解ってはいた、けれど]
……まて……
[その声は既に囁きにもならず
目だけが其の姿を追って
彼の言葉だけは耳に
翳みかけた視界で天井を見つめて]
[傷は熱を持ち
されど手足は徐々に力を失い
抱き上げられるのに抵抗すら無く
彼が囁く言葉を聞けば、ゆっくりとそれを示し微かに呟く]
[既に視界は奪われ、己の居場所すら知れず
降ろされた僅かな感触で彼の言う場所に間違いなく来たのだと
息を吐く
もう、これで充分だ、と]
――廊下――
[少女は当ても無く彷徨いながら、生前神父の残した言葉を反芻していた]
消えた武器庫の鍵。除外されなかったのは…ギルバートさんと…ネリーさんの二人。
ギルバートさんは神父様の死を知らなかったし、あの人はどう見ても…人狼では無いはず…。
[視線を床に落として、少女は溜め息を吐く――]
鍵を持ち出した可能性のある二人の内、どちらかに人狼が居ると考えた場合――残された人はネリーさんただ一人…。
でも――
[少女は歩みを止め、その場に立ち尽くして――]
もしネリーさんが人狼ならば…。何故武器が必要なの?
それに…ギルバートさんかネリーさん、どちらかが鍵を持ち出したとして、その二人の内のどちらかに人狼が居たのならば…。
[少女は一旦言葉を切り。ルーサーが姿を消した日の事を思い出して…]
――どうして、何事も無かったかのように…鍵は元の場所に返されていたの…?
[不意に、胸元に痛み、其れが最後の
急速に遠ざかる意識、失われる温度
感覚は既に失われ
ただ、音だけが
釦の弾ける音 布の裂ける音
そして何かを啜る音が最後に男の耳に届いて]
[ふわり
感覚は一変する]
[意識は明瞭となり
手足は自由を取り戻す
体を離れて
見下ろす
抜け殻となった己の血を
一心に啜る彼の姿を]
……やっぱ、獣じゃねぇか……
[否、其れは赤子が無心に乳を求める様でもあり
時々胸元を動く手は、其れを強請る様でもあり
やがて全てを終え眠る彼を見据える]
どっちつかずは苦しいか?
あんたは……最後に何を望む?
[もはや声の届かぬ彼に向け呟き*虚空へと目を向ける*]
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