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[戻ってきたアーベルに気付けば]
アーベル、アーベル――負けちゃった。
“みらい”が取られちゃう。
[お守りをなくしたから?
とアーベルの元に駆け寄ると、涙目で]
いやその、勝負を。
[こうした時にどうすればいいのか。
したことも自分がされたことも記憶にないために困惑したままアーベルに反射的に答えて]
今はそんなことにはならないはずだよ。
それにそれはあの声が言っただけのこと。
放さずに、諦めずにいればいい。
そうすれば繋がることもある。
[困惑の中でイレーネに返した答えは。
ある意味本心そのままだった]
[あくまで、予想だけどね。と
相槌を打つ相手に、僅かに肩を竦めながら言葉を返して。]
――あれ?一年中凹んでるみたい、って…違ったっけ?
[相手の言葉に冗談を交えて、くつりと口端を上げる。
しかし耐え切れなくなったのか、つられた様に小さく噴出した。
口許に手を当てて、くつくつと笑いを抑えながら]
感情がハッキリしてるほうが、フェイらしいって事だよ。
…ところで、その子ってさ。あの時寝てた子だよね?
[随分懐いてるね。と、友人に抱きつく少女を見やりながら
僅かに驚愕の色を滲ませて]
え?
[駆け寄って来たイレーネに、涙目で訴えかけられれば、思わずきょとり、蒼を瞬き]
負けた……とられる、って。
[なんでじゃんけんで、と思いつつ。
ティルが彼女に向ける言葉に、ああ、と呟いて]
大丈夫だよ、イレーネ。
[諭すような口調で言いつつ、頭を撫でてやる]
とられないから、平気。
とられ、ない――?
[ティルの返答には、少しだけ瞼を上げ]
放さなければ良いの?
――でもね、でもね。
どうすれば“みらい”って掴んでいられるの?
“みらい”って何処にあるの?
私も、持ってる――?
[ふと、『取られる』と思った“みらい”の形と在り処に疑問]
[上がり切ったところで立ち止まり、鞄のポケットから取り出した端末を握り締めた。飾り同士のぶつかり合う音は、意識の奥にまで澄み渡る。
大きく息を吐き出した。
歩みを緩めて、個室に戻ろうとして。
十字路の辺りに集まる人々を認める。]
……?
[出来るだけ、人と会うのは避けたかったけれど、部屋がそちらにある以上、行かないわけにはいかない。
ゆっくりと近付いていく。]
[イレーネと、アーベル、ティルのやり取りには、貼り付けた笑みを崩さずに]
未来、ねぇ。あはは。
生きていれば掴める、んだよねぇ。
[しまりない顔で笑う。]
――…、…?
[何か、見定められているかの様な少女の視線に
何かしただろうか、と僅かに眉を寄せる。
しかし会ったのはあの一回きりで、覚えも無い。]
……、えっと。…?
[子どもを扱うのは、得意ではないのだけれど。]
…………。
[金髪の人の様子に、昨日までの少女のような
無表情で判断がつかないように小さく首をかしげ。
相手のこぼれた言葉に、今度はユリアンと相手を交互に見]
大丈夫ですよ。イレーネちゃん。
あなたにもちゃんと未来はありますよ。
[イレーネにそう答える。それは先読みの神子としてでなく、ナターリエとしての私の言葉。]
ち・が・う!
[全力で否定する。断じてその認識は違うとばかりに。
そんな鬱屈とした生活など、この青少年にできるわけがないのだから]
…そりゃあどーぉも。
[べぇ、と舌を出したけれど、抱きとめた少女に向かう視線があれば一拍おいてから]
そそ、寝てた寝てた。
…妹みたいなもんかな?
[飼い猫よりなつく李雪の傍らしゃがんで]
李雪、これはエーリッヒ。
日碧って呼べばいい。
俺の、友達。
[そういいながらエーリッヒを視線で示し]
[アーベルの様子にほんのり安堵]
本当に、取られないかな。
誰かが取りにきたら、やっつければ――良い?
[でも、こんなにじゃんけんに弱くては――と
翼をしんなりさせて]
[広間の様子を微笑ましげに眺め。
横に並び立ったユーディットの言葉に目を細める]
…ええ、生きていれば未来は続きます。
生きていなければ、未来は掴めない。
[続けた言葉が何を意味するか、大抵の人には理解出来るだろう。
未来を理解していない少女が意味を解するかは分からないが]
諦めたら終わりなんだ。
[頭を撫でられているイレーネをどこか複雑そうに見ながら]
僕はそうだった。
一度取り上げられた物を奪い返してきた。
だからここにいる。
[どこか苛立ちを滲ませながら]
掴み方なんか知らないよ。
ただ必死にできることをした。それだけ。
[幾らか躊躇いはあったけれど、]
こんにち、は?
[声をかけた。
随分とユリアンに懐いたらしい李雪に、驚きの表情を一瞬、浮かべて。]
……ま、そうとも言うな。
[ユーディットの声に、ぽつり、呟いて。
イレーネからの疑問には、微か、逡巡]
……ああ。
自分の未来、自分の生き方。
それは、自分で護るもの、だ。
[それから、静かに、こう言って。
しんなりする翼に、また苦笑しつつ、ぽふぽふと]
[金髪の人とユリアンを見比べていれば、
傍にしゃがんでくれたユリアンに
お友達を片腕に抱えなおせば、ぎゅっとユリアンの服を握って。]
…………。りーぴー
[彼の言葉を鸚鵡のように発音し]
[ナターリエの言葉には、にこりとして]
みらい、あるなら探さなきゃ。
私のもの、なのに――私が知らないのは、可哀想。
[何だか違うだろう、という気もするが。
オトフリートには首を傾げて]
生きていなければ――?
[ああ、そうか]
死んだら、何も掴めないもの、ね。
アーベルも、林檎も、空も、
失くした物も、まだ知らない物も。
[少女はユリアンの服を掴んだまま、声がしたほうに
ぼんやりとした緑の眼差しを向け。]
…………。
[おともだちを抱えているほうの手を器用に小さく振って]
[オトフリートの言葉には、にっこり…というよりはにんまり、という言葉のほうが合うような笑みを浮かべ。]
そう、生きていればねぇ。
あはははは。
[苛立ちを感じて、少し戸惑ったように]
取り戻し、て。
そう、ティルは“みらい”を知ってるんだ。
なら、もうきっと放さないんだ――。
取り上げられる前に、分かるかな?
私の“みらい”が何処にあるのか。
[分からなければ、掴んでいられないから]
護る――でも、護る前に見つけなきゃ護れない。
見つけるためにも生きなきゃなの、ね?
[再度撫でられれば翼はゆるやかに一度、上下する]
護りやすい大きさが良い、な。
大きければ気付きやすい、けど。
大き過ぎたら掴んでられない。
うん、日碧。
[ガストンを抱えやすいように腕の位置を僅かに変えたりしていればブリジットの姿が見えて、しゃがんだまま手を振った]
お、どうもー。
あはは、――知ってるよ。
フェイに年中凹んでるなんて芸当、出来そうにないしね。
[向けられる舌には、然程気に留めた様子も見せず、
全力で返される否定にくつくつと笑いを零して。
続く言葉に、へぇ、と何処か面白そうな声を上げる。
鸚鵡返しに呼ばれる愛称に、ゆるりと傾げながら
少女へと薄ら笑みを向けて]
…えっと。一応、フェイの友人やってるんだ。
――李雪、で良いのかな。
[よろしく?とゆるり首を傾ぐ。一応、が余分な気がするけれど。
…と、声のする方にゆるりと視線を向けて。]
[意味を理解したらしいイレーネに静かに頷いて]
そう、何も掴めなくなります。
生きていれば未来は続く。
生きていなければ未来は続かない、掴めない。
では、『未来が取られる』とはどう言う意味か。
[そこで言葉を途切れさせる。
それは少女を試すかのような口振り]
ん、そう。
見つけるため、見つけて切り拓くために、生きる。
[静かな言葉は、目の前の少女に。
同時に、自身にも]
……大きさ、かあ……。
そだな、あんまり小さいと、大変だ。
でも、きっと、大きさは。
それぞれに、丁度いい大きさだから、大丈夫だよ。
[オトフリートの尋ねる様子に、顎に手を当てて考える仕草]
生きていれば未来は続く。
生きていなければ未来は続かない、掴めない。
[確かめるように復唱して]
未来があれば、生きている。
未来がなければ、生きていない。
[でも――と首を傾げてオトフリートを見上げれば]
私、生きてるけど“みらい”を知らない。
[小さな声で呟いただろうか]
ユリアンさんと、李雪。
仲、良いですね。
[それは、ほのぼのとした光景に見えて。
先程の話が嘘のように思え、安堵の笑みを浮かべた。]
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