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[残された小さな灯火。
嘆息。
手を伸ばしたなら、触れる事はできるか否か。
触れられたとて、無理に捕えるつもりはないが。
ただ、撫でるよにそれぞれに触れるのみで]
……先の世へと転じたとて、同じ事となるのなら……。
[消えた方が幸いなのか、と。
呟きは声にならず、心の内へと、ただ、落ちる]
― 集会所一階・廊下 ―
[顔を上げる。
服には染みの痕。
頬にはじんとした、痛みが残っていた。
濡れた目と、渇いた喉。
水を欲していた。
壁にすがり、立ち上がる。
定まらない視界の中、額に手を当て、歩みだした]
―厨房―
[小気味良い音を立て、刻まれていく野菜。
此処で料理をするのはもう何度目で、そして後何度有るのだろうと、ふと思う]
…終わったら、エーリッヒとマテウス兄さんと一緒に。
[それらの約束を信じてでもいなければ、崩れ落ちそうで。
今はただ日常の名残に縋る。
出来上がった一皿は、アスパラガスのスープ]
……二重人格では、なかろう。
共に、産まれ、育ち。
一方が喰らわれた後、残された方の側に在り続けた……というところか。
本来は二人、文字通りの『対なる双花』だったようだ。
[暗き翠は二色を見つめたまま。
淡々と、言葉を綴る]
置いてゆくのも、置いてゆかれるのも。
辛かったのだろうな。
[過日、ゼルギウスと交わした会話の中、自らが言った言葉を思い出す。
薬箱の中の導眠剤。
皿に盛ったスープの上、入れるつもりは無く、けれど導眠剤の瓶を傾けた]
…。
[扉が乱暴に閉められる大きな音に、首だけを曲げ、その姿勢のまま固まった。
幾ら首を曲げても、何が起こったか見えるはずもないのだが]
─広間入り口付近─
[扉を開け、廊下を見やると]
[ふらつくようにしながら歩むウェンデルの姿]
[服の染み] [頬の痕]
[ああ、外に居たのは彼だったか]
[何を見たのか、何をされたのかが見て取れた]
[彼も青灰と同じ場所に送ったら喜ぶだろうか?]
[そんな考えた頭を擡げ始める]
[俯き加減に。
半ば、壁に身を預けるようにして、廊下を歩む。
右手はともすれば落ちそうな頭に添え、左手は捨てられなかった十字架を握ったままだった]
……ああ。
[かわいそう、という言葉に、小さく呟いて]
場が如何様な結末を迎えるのであれ。
この子らは、全てから解放されてほしいところだ……。
[教会の組み上げた因果が、どこまでの束縛となるかは知らない。
けれど。
それは、純粋な願い]
ああ、どうやら、そのようだな。
[動く、という言葉に、意識を現世へと向ける]
……さて。
選び取られるは、如何様な選択肢か。
[どのような選択がなされるにせよ、自分は見届けるのみ、と。
割り切ってはいても。
現世には、未だ、気がかりな者たちがいる。
特に、対なる者を失った朱花の主は気になっており。
暗き翠は自然、その動きを辿っていた]
今の、何…?
[行くべきか否か、悩むも、容易に動く決意は固まらず。
暫くの後、聞こえてきたのは引きずるような足音]
…っ、ウェンデル。
[瞬きは二度。
手に持った薬瓶を慌ててスープ皿の横に置き、ウェンデルの近くへ駆け寄る]
大丈夫?何か有った?
[問い掛けながら、身体を支えようと手を伸ばす]
[ぱしり。
払い除けられた手が、高い音を立てる。
少しの痺れと、遅れて伝わる微かな痛み]
…。
ウェンデル?
[咎めるでも無く、名を呼ぶのは、問い掛けるもの]
[眺めているうちにウェンデルは厨房へと入って行った]
[微かに聞こえた高い音]
[他にも誰か居るだろうか、と視線はそちらに向けたまま]
………。
[口元に薄く笑みが浮かぶ]
[渦巻く混沌の気配を感じ取った]
[ウェンデルがゲルダに向ける問い。
微か、眉が寄る]
……対を喪い、均衡を失した……か?
[呟く声には、案ずる響き]
ゼルギウス。
今の音は何だったんだ。
[広間へと歩きながら声をかける。
蒼花が既に散らされていることはまだ知らずに。
薄く浮かべられた笑みが見えれば、こちらの表情も硬くなる]
…違うよ。
信じてもらえるかは分からないけど。
[抑揚に欠けた声。乏しい表情。
ただ、エプロンの裾をきつく握る]
あたしを殺しても、何も終わらない。
[余計な言葉を口にせず、短く答える]
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