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[小兄の言葉に、その名を知るも]
[こてんと首を傾げて見やるのみ]
[大兄の言葉には、ちょっと驚く]
からすにいさま。
……うーん。ゆるすんじゃ。
じゃけ、おらもごめんなさいじゃ
ありがとうね、臙脂の童。
坊がそう言うのなら受け取っておこうかな。
けれども此方にはこれがあるものだからさ。
[言いつつ指さすは紅緋の花かんざし]
森には鳥に兎に、小さきものが大勢居るよ。
危なくはなかろうけれども、遊びすぎぬようにね。
[ゆるりと歩を進め皆の後をついてゆき]
空の君に、象牙の旦那かね。
何やら好いものを見逃しかけたよう。
さても、白の君は未だ戻らぬのかな。
[館に辿り着けば小さく呟きを洩らした]
…おや。
[烏を筆頭に人がそろそろと戻りくる様子に首をひねり]
…たいした者ではないよ、鳥殿。
…ああ、そちが「ねいろ」か。
[梔子の布を解けば羽毛のように癖のついた髪がふわりと踊る。
烏の袖を握った子供に少しだけ蜜色を緩ませ]
…ああ、我は舞うことしか知らぬ。
ほかには、なにもなかった。
[一度解いた梔子を首の裏でもう一度くすんだ空をまとめるために結わく]
…漣坊の兄君も、舞われるお方か。
それならば、そちは舞手と縁があるのじゃろうなぁ。
[くすくすと、微かな笑い声が風に揺れた]
そうかぁ、あやめねえさまには、綺麗なかんざしがあるんねぇ。
あやめねえさまも物知りじゃあ
[森の話をする彼女に、ふわふわ、小さく笑み零れ]
[それから、名を呼ばれ、その人をみやる]
おら、ねいろじゃぁ。
にいさま?
にいさまは、ゆら、にいさまとおっしゃるんじゃろか?
[烏と音彩の仲直りの様子ににこり、と笑みつ]
うん、舞弥のにいさまも、舞手であられたの。
剣も舞も、とてもお上手だったのだよ。
[揺藍の言葉に、嬉しげに返す。
記憶の淵の若人と、似て非なる揺藍の髪色は、思い出した存在をより強く意識に印象付けるのか。
紅緋の瞳は、嬉しげで]
花の君。
…それほどたいしたものではないよ。
我でなくとも、修練さえ積めば誰でも舞える。
[ふわふわとした髪の先にすこうし指を絡めようか]
…そうか、そちがねいろ。
我は…ああ。揺藍という。仲良うしてたも。
[蜂蜜色の瞳を笑ませて*微笑んだ*]
[大兄の照れた様子に、きょとんとして]
[しかし酒精の気配には、近く寄ることはないだろう]
ゆらにいさま。
おらこそ、仲ようしてほしかぁ
[嬉しそうな笑みこぼし]
……ふぁ
[ちいさくちいさく、あくびが一つ]
坊より長く生きているからね、
物知りにもなろうと言うものさ。
[かんらかんら、口許押えて笑ってみせる]
空の君、
左様に言うものではないよ。
[細める紫黒の眼に浮かぶは羨望の色か]
出来ぬ者から見れば、
出来る者というのは素晴らしい。
此方は左様な機会を持たなかったものだから。
[小兄の問いに、こくり。]
[頭をたてに動かして]
でも、寝ちゃ、あかんのじゃぁ……
みて、まうも……
[小さな小さな声は、届くか届かぬか]
[童子たちの笑い声に、かき消えてしまうやもしれず]
眠いのに、無理はいけないのだよ?
[頷く様に、僅か眉をよせつ。
ついだ言葉は、届くや否や。
ただ、眠りを拒否す、それは確りと伝わって]
眠らないのは、よくないよ。
[ただ、そう繰り返す]
眠りの時は誰にしも来るよ、臙脂の子。
佳き夢を見られるのならば好いのだが。
左様な術は知らぬから、さて、困りもの。
[半ば独り言ちるように言の葉を紡いで]
ああ、そうだね。
きっと、なれるだろうよ。
じゃけん……
いや、なん……
[小兄の言葉に、ふるふると首を振って]
きらわれてまうも……
[ちいさくちいさく]
[口の中で転げて]
……おまもりも、あらんけ……
[困ったようなあやめねえさまの言葉]
[不思議そうな小兄の言葉]
[どちらも聞けたか、聞こえざるか]
じゃって……
おらぁ……
[小さく口唇は何かの形に動き]
……みんな、一緒が、良いもの……
[その言葉は音になったか]
[*ふらり*]
[体が傾いだ]
[さてもあやめの言う通り、ゆくもかえるも出来はせぬ。
いつしか眠る森の奥、緑の香りに包まれて。]
[時は移れど星は出ぬ、眠りを覚ますはなにゆえか。]
う……。
…なんじゃ、これは。
[ゆらり琥珀が映すは膝の上、水飴ひとつ鎮座して。
かさりかさかさ小さき獣、さてさていずれの置き土産。]
……ねいろ?
[紡がれた言葉は、わからぬものの。
ついだ呟きは、かろうじて聞き取れたか。
紅緋は、刹那、苦しげな光を浮かべ]
……あ。
[傾ぐその身を止めようと、手を伸ばす。
ころり、手から逃れた鞠が転がりて]
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