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ん、お邪魔します。
[片手で盆を支えたまま、静かに扉を開ける。
まだ布団の上で身を起こした状態の兄に]
…寝起き、襲っちゃってごめん?
[軽口を叩いてみたが、笑うのは失敗した]
あー…えっとですね
[どうやら知らない様子の利吉。その質問に困ったようにこめかみをかく]
詳しいことはまだ聞いていませんが、宮司のかたが亡くなられましたようでして
[だが取り繕う方法も結局ないわけで事実を伝えながらも、涼が利吉にタックルする様子に目を丸くする]
[ぎゅうって力いれる。ぎゅう。
力強くないもん、どーせガキだもん。]
…んーん
[顔なんてあげないけど。だってなんか、安心したから、気がゆるんじゃって。]
………だいじょうぶだもん。
りきっちゃんがいるから。
[蜂の子を散らすように帰って行く村人たちに、ふん、と鼻を鳴らす。
その中に葛木の父親と玲の姿を見る。そして、玲の頬を流れているものを見]
…………。
[つい、と視線を戻すと、櫻木家へ綾野を運ぶ面々に付いて行った。]
……襲うのは、俺だけにしとけよ?
[親父が泣くからな、と冗談めかして言いつつ。
枕元に見つけた紐で適当に髪を縛る。
口調は軽いが、こちらも表情はぎこちないものがあった]
している…とは思いますよ。西行院家と櫻木家がとりしきっているでしょうから。
…さすがにそこまで外部の人間を押し出すこともないでしょうしね
[利吉の最もな言葉に少し淀みながらいう。淀んだのは言い伝えや古老のことを思い出したからだが]
[外で起きていた騒動は気付くはずもなく。眠りについてから約半日経ち、榛名はようやく目を覚ます]
…………。
[眠りの影響の余韻。今自分がどこに居るのか把握するまでに時間がかかった]
……ゆ…め……。
[表情に翳りが出る。眠る間に見ていたのは、幼い頃皆と遊んでいた時のこと。史人も、綾野も、瑠璃も、蓮実も、皆居て。そして、自分は健康な身体で皆と一緒に走り回っていた]
[しかしそれは実際にはあり得なかったことで。夢は己の願っていたことを反映していたのだった。願っても叶わないもの。治らない自分の身体。泣きそうになって、手の甲を目の上へと置いた]
それ、どういう意味よ。
[史人が乗ってくれたことで、ようやく笑みのようなものが浮かぶ。
うなじの後ろで結ばれる髪を何となく見たあと]
はい。
ご飯も用意はするけど、まずは喉渇いてるでしょ?
[グラスを差し出して…暫し沈黙]
[榛名が動いたことに気付いた裕樹が声をかけてきた。その声に目に浮かんだ涙を擦ってから顔を向ける]
…うん、大丈、夫。
ついてて、くれたんだ。
ありがと…。
[上手く笑みを浮かべられただろうか。笑んだつもりで裕樹を見た。とにかく何か食べた方が良いと、裕樹はお粥を勧める。時間が経ってしまっていたために一度温め直して来ることになってしまったのだが。改めてお粥を用意されると、小皿に取り冷ましながら少しずつ食べ進める。半分も食べられなかったのは常の小食と疲れが残っていたためだろうか。食べ終えると、旅籠の主人が用意しておいてくれた薬を水と共に飲み込む]
…ありがと、もう、良いや…。
[裕樹にそう告げて、小さく息を吐いた]
うん。
[りきっちゃんがあったかい。]
ありがと、う
大好き
[ぼろぼろ涙があふれてきて悔しい。でもりきっちゃんは許してくれるから。
きびしくいうけど、いつだって、りきっちゃんは優しいから。]
……いらないって、いっちゃ、やだよ
[*涙、止まってほしいのに*]
どういう……って。
[そんなの、言葉通りだろ、と。
返す様子はいつもと変わらないようにも見えるが、微かな、冥い影は消えぬまま]
ん……丁度、水欲しいな、って思ってたとこだった。
[助かった、と言いつつ、差し出されたグラスを受け取る。
まだ少しぼんやりとしていたからか、伸ばした手は、どこかぎこちない動きの右手]
[疲れが溜まっていたのか、目覚めは大分遅くなってからだった。]
・・・情けねーの。
[洗面所の鏡に映る疲れを残した顔。
苦笑を零した後、蛇口から流れ出す水を両手で掬い、勢いよく顔を洗う。]
[気を張っていても仕方が無い。昨夜はとっととそう結論付けて、旅籠の自分の部屋で眠ってしまった。]
[今、いつもどおりの時間にゆっくり起き出して、旅籠の食事を受け取っている。]
…へー、宮司さんが殺された、と。そんで桜が咲いた。
不気味な話だな。
[しかし、殺された宮司とは何の面識も無い。お気の毒、という以上の感情はわかない。]
[すぐにでも警察が来るだろう。祭りは中止だろうな、などと言った事を考えていた。]
[朝食か昼食か分からない食事が乗ったトレーを手に食堂に踏み込むと、見知った顔が。]
よーおっさん。ガキに、旅行家の人。
おはようさん。
あー、昨日
涼さんは色々あったのですよ…申し訳ありませんでした
[とはいえ、涼が逃げ出したことしかわからないから詳しく言えないような説明を利吉にしながら涼に頭を下げ。
利吉の問いに。苦笑のようなものを浮かべながら、やっぱり困ったようにこめかみをかき]
この村の桜に対する伝承をご存知ですかね。
[問いとはまた違う言葉を返す]
…酷いな。
そんなに信用ないのかしら。
[沈黙を切り、言いながら渡そうとして。
僅かに間をずらした。普通ならば、すぐに握れば取り落とすことは無い、そんな微妙なずれ。起きるだろうことは予想しているから、自分でも直に握り直せるようにはしたのだけれど]
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