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……、
………っ……。
[声すら、出なかった]
[腕を取られて、顔を上げる。
定まらない視界に、灰銀色が映った]
ごめ、ん、イレーネ……
僕の方が年上なのに、ね。
[体勢を直して、彼女に向き直る。
片手でバンダナを解き、前髪を掻きあげた]
美味しかったですかね、人は。
[囁いた声は、――届いただろうか]
[狼だけの言葉は使えずとも、人には聞こえぬだろうほど小さい声]
[ふるり、と頭を振る。
涙無く慟哭している青年に]
…誰か、呼んでこないと。
シスターか、クレメンスさんか。
[先にその二人が浮かんでしまったことで。
嫌でも再確認させられる]
身体を拭く、布とか、も。
もって、こないと。
[立ち上がろうと、ベッドに手をついた]
あの子がリューディア。
リューディアはぼく。
でもあの子はそこで寝ていて、
ぼくはここにいて、
でも同じリューディアで、
あの子は、ぼく?
[少女の上には緋色の花が咲いていた。
左肩にも胸にも。
あの色は、アマンダがいなくなった時にも見た。ノーラが運ばれてきた時にも。
彼女らが、死んでしまった時に。]
[解いたバンダナをリューディアの胸上にかけた。
汚いと言って嫌がるかな、そんなことを思う]
……ん、僕が呼んでくる。
具合、よくないんでしょ。
無理しないで。
[作ろうとした笑みは、上手く行かなかった]
[もう一度見上げれば、強張った表情。
無理に笑おうとしている様子に、身体ではない場所が痛んだ]
…うん。
お願い、します。
ユリアンも。
…無理は、しないで?
[バサという羽ばたきが聞こえた。
クァという小さな鳴き声も]
うん。ザフィーアも。
よろしく、ね。
−二階個室−
[目が覚める。][ぼんやりと瞬きをして、頭をかいた。]
[部屋の外から声が聞こえる。悲鳴のような、怒声のような。][はっきりと届かない内容。]
[何を騒いでいるのか。][聞こえなくても。][よく、判っていた。]
…ぁーぁ。
たくさんたくさん……って
言ってたのにネ。
[一人ぽつりと呟く声色は、少女の響きをしているのに。][どこか、低い。]
ザフィーアは、いいよ。
ここにいて。
昨日は、僕のそばにいたんだし。
それに今は少し明るいから、平気。
[途切れがちな言葉は、やや淡々としていた。
鴉の返事を待たず、部屋の外へ、そして、ひとまず階下に向かう]
[我に返った]
ああ、いけない。
まったく、気持ちよすぎますねぇ。
誰が洗ってくれてたんでしょう
[呟いて、持ち直す]
[暖かい湯で濡らしたほうがいいのだろうかと、廊下に出た]
…だネ。
美味しそうだったから、ね。
蒼い花はとっても。
[一人呟くそれは。][返した返事は、誰へのものか。]
[ぼんやりとした眼差しは変わらず、窓の外を見つめ。][空は白と青が混ざる。][とても、綺麗な。]
…あ。
[カラスは立ち去る背にクァと鳴くと、こちらにやってきた。
覗き込まれるように見られれば、小さく息を吐いて目を閉じた]
戻ってきたら。
手伝おうね…。
上手く、やってたってのに。
嬢ちゃんは嬢ちゃんのままで、いられるはずだったのに。
[たとえ破綻していても。][それでも、こんな所で色々なものが崩れることはなかったはずで。]
…これがシステムの力、かネ?
何もかもが狂ってくような…
[それを口にすれば、ちくりと頭に痛みは走り。][顔を歪め。]
……それとも、これが正常?
[それを口にしても、痛みは無かった。]
……、
[開いた口から声は出なかった。
浅く息を吸って、吐く。
喉の傷が、僅かに痛みを訴えた]
リューディアが、
……部屋で。
汚れているから、タオルを、って。
あーごめんデスよ。
はいはい、もうなんも考えませんから。
[再び誰かに明るく話しかけるようにして。ベットから降り大袋を手にし。]
…たとえ、限界近くても。
[その手を一旦止めて。][その一言だけ低く囁いた後。]
とりあえずやる事ダケやっときますか。
サボると旦那恐ぇし。
[すぐに明るい声色へと変わり、薬草をすりはじめた。][その手つきだけは、少女のそれと*変わらず*]
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