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[部屋の主が居ない事に気付くと、茶色の瞳は不安気に揺れた。胸の花を押さえ、そこに変化がないことを確かめる。以前に対を失った時は、その花が教えてくれたのだ]
………?
[…けれど、その行動の意味も子供の記憶からは消えていたから、なぜ自分が安堵したのかを子供自身は知らなかった。ただ、突き動かされるように、起き上がり、部屋を出た]
やはりか。あの、馬鹿が。
[はじめから狼だったのか、どこかで狼になったのか。そんな事は知らない。しる必要もないが。]
ゲルダを裏切るような事したら呪ってでも殺す。
ついでに死んでも殺してやる。
[ぼそりと無茶を*呟いた*]
/中/
聖痕者って二人も要らなくないかな。
どうしても対立関係に絡まないから要らない子になると思うんだけど。
この人数だと一人には出来ないの?
[お酒。
聖誕祭には遅いけれど、グリューヴァインでも作ろうかと。
話には、そんな風に加わって。
暫くの後、部屋に戻り、机に伏せって。
眠ることすらできず、ぶ厚いレシピ集を捲っていた]
…。
[扉からのノックの音に、ぱたりとそれを閉じて。
所在の証明の代わりと成す]
……死んでも殺す、と来たか。
[それは、想いの強さからの言葉なのだろうけれど。
ナターリエの物言いに、浮かんだのは、やはり、苦笑で]
拗ねるな。
いずれにせよ、彼岸に漂うものは、現世には願い託すしかできんのだから。
[ベアトリーチェに向けるのは、こんな言葉]
[同じ人物に対して向けられる、対照的な想い。
それが、向けられる側に如何様に返るのか。
ふと、思うはそんな事]
[聞こえてきたのは、ゼルギウスの言葉。
淡々とした響きの伝言]
ヨハナ様が。
[ぽつり。扉越しに声を返す]
…わかりました。
少ししたら、行きます。
[立ち上がるにも。僅かに気力が必要だった]
今更、正体なんて。
あの時、人狼の存在を疑ってたのに。
全部嘘だったのかな。
[酷く柔らかな呟き。
その柔らかさは、疲労がもたらしたもので]
…それなら、今からのお話は。
本当なのかな。嘘なのかな。
―二階個室―
[開け放たれた窓の向こう、空を見る。
僅かに欠け始めた月。
指に挟んだものはただ灰と化してゆく]
はい?
[ノックの音に応えを返す。
右手の中身はそのまま火を消して、扉へと向かった]
― 集会所一階・厨房 ―
[用意を終えて、また一つ息を吐く。
ポットを二つ。カップは七つ。
初めに来た時に比べれば、随分数が減ったものだ]
ゼルギウス。
[一見普段通りの相手が淡々と語る。
正体という言葉に眉は寄ったが、結局コクリと頷いた]
分かった。
窓閉めてくるから、先に行っててくれ。
[去ってゆく足音。
小さな溜息を落として中に戻ると窓を閉めた。
冷ややかな光に背を向けて、ヨハナの部屋へと向かう]
[ふ、と息を吐いて。口を開く]
ううん。
あたしは、あたしが信じたいことを信じるだけ。
エーリッヒは人。
花の二人も人。
あたしと。兄さんと。ヨハナ様と。薬師様。
選択肢はたったのそれだけ。
あたしが諦められる順番なんて、決まっているもの。
[ヨハナの言う正体とは一体何なのか]
[僅か興味は引かれたが、それが何であれゼルギウスには関係無かった]
[誰が人狼であるかなどと言うことも関係は無かった]
[今望むのは、不要物の廃棄のみ]
─二階・ヨハナの部屋─
婆ちゃん、全員を呼んできたよ。
[部屋に入りヨハナに告げる]
[そのまま寝台の傍にある椅子へと腰掛け]
[全員が集まるのを待った]
[ナターリエを運ぶ前に拾っていた、箱の聖銀と。
エプロンに入れていた折り畳みナイフ。
その両方を服にしまって、身支度を整える。
ぱたり。
部屋の扉を閉じて、ヨハナの部屋へと]
―→ヨハナの部屋―
……。
[皆が集まってくるまでのちょっとした間。
そして、その後に来る終わりを迎えるのを、老婆は異様なまでに静かな感情で待ち望んでいた]
[老婆は、今の自分はとても危ういと思っていた。
一度死に掛けたせいなのか。それとも、狂信者となる元凶となる腹を傷つけたせいなのかは分からないが、少しずつ、自分が人狼のそばにあるべき人物ではなくなっていることに気付いたからだ。
もしも、完全に人狼からの呪縛を断ち切ってしまったのならば、人狼にとって、これ以上にひどい裏切り者はいない。
内訳を全て知ったうえで、人間につくものは、もはや、狂信者ではなく、ただの狂人。最悪の存在だ。
だからこそ、人狼の呪縛が断ち切られる前に全てを終わらせなければいけない。
老婆の最後の気まぐれで、「あの子」の頑張りを無にするわけにはいかないのだ]
……ん。
[生ある者たちの動き。
未だ、月を見ていた暗き翠は一つ、瞬き]
……動き出す、か。
[呟いて、その場へと向かう。
ただ、見届けるために]
[階下向かおうとした時、紅茶の香りが漂ってきた、広間から姿を見せた探し人の姿に、子供はほっと息をつく]
ウ……
[名を呼ぼうとして、子供は思いとどまった。そのまま、くるりと踵を返して早足にヨハナの部屋へと向かう]
ウェンデル。
[ヨハナの部屋の前。
トレイを持った青年と先に出会った。
乗せられているカップは全て揃っている。
そう。欠けたカップより、欠けた人の方が多くなってしまった]
どうぞ。
[扉を開けて、促した]
……。
[皆が集まると、老婆はゆっくりと全員の顔を見つめて、そして、重い口を開く]
……みなさん。
このばばの話のために集まっていただいてありがとうございます。
[まずは、そう言って、頭を深く下げた]
もう知っているとは思いますが、ベアトリーチェお嬢ちゃんは人狼です。
……それは疑いようのない事実。
彼女がいつ、どうやって、人狼になったのかは私にも知りません。
けれど、それよりも、もう一つの大事な事実を伝えなければいけません。
人狼は……もう一匹います。
それが―――。
[老婆は、皆の目を同時に見つめ最後の言葉を口にした]
[小さな音に顔を上げると駆けゆく影が見えた。
僅かに疑問は抱けど、追求することはなく。
足取りはゆっくりと、ヨハナの部屋へ歩んでいった]
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