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[ナサニエルの言葉に、静かに首を振る。]
……分からない。
気がついたら、身体が勝手に動いていた。
ただ……彼の側に、誰も居なくなるのは、良くないような気がしたんだ……
彼の遺体が隠されてしまうかもしれない。
そう、思ったんだろうか……
[右目の瞼が、ゆっくりと降りる。]
とにかく、終焉からの使者は、まだ生きている……。まだ生きて、俺達の中で……殺人者は、次の獲物を狙っているのかもしれない……
そうね……え?
[言葉は自然と出た。尤も、疑問符は「訊けない」ことに対してではなく、「変な感じ」と言うことに対してだったのだが。ネリーの死を知るが故の疑問符だったかも知れない。しかしそれは別の意味にも取れるような物言いとなった。紅紫の両目がラッセルを見つめ瞬く]
……知らなかった?
強い臭いがしていたから、
てっきり、シャロも知っているかと思った。
ああ、でも、誰かは分からなかったかな。
[疑問の向けられた箇所は悟れず。
此方を見る両の眼を見詰め返す。
色を映さない瞳では、喩え違っていたとて、
理解出来なかったろうけれど]
私たちは、ネリーの弔いを。
[静かな声で告げ、十字を切る]
ハーヴェイ殿も、そうしなければなのですね。
[チリン]
[もの悲しく、鈴の音が響く]
やれやれ。それにしても、敷地が広かったのが幸いです。
哀れな犠牲者を埋葬するには事欠かない。
[ふう、とため息をつきながら。]
仮に、外に出ることのできない閉鎖空間に閉じ込められたとして、
死体とともに生活を営まなくてはいけないことを想像すると。
腐っていく死体を見ながら、朝の食事なんて。
ネリー……?
ああ、あの、メイドさんか……。
彼女も、獣に?
まだまだ若かったというのに……。
[琥珀色の瞳を微かに曇らせた。]
え、ええ。
[咄嗟に、知らないことにして答える]
そう、だったのね…。
匂いは、昨日のイザベラの料理で鼻がやられてたのかも知れないわね。
ちょっと、気付かなかったわ。
[適当なことを言って誤魔化す。瞳を見つめ返されるとほんの少しだけ息を飲んだ。ラッセルが瞳に色を映さないのは知らず、僅かに緊張はすれど今は元の色であるために取り乱すことは無かった]
それで、クインジー達が弔いに行ってるのね。
…後で祈りだけでも捧げようかしら。
あの子には少し世話になったもの。
[ふ、と瞳を伏せ呟いた。それから小さな扉を閉め、廊下へと出ようとする]
私は行くけど、ラッセルは?
死体を弔っていただけだ
ネリーが終焉の使者かと思ったから、殺した
[それだけだ、というように]
[男にはそれ以上の感慨などないようだ]
――まあ弔うか
いつまでもここにいるわけにもいかないだろう
マダム・イザベラ。
フリークスショウだけは、今は勘弁ですね。
殺されてしまった人々には申し訳ないけれど、我々は殺されたとは……。
……ベルって、料理できたの?
[心底驚いたというように、眼が見開かれた]
オレは、いいや。
きっと、虚しくなってしまうから。
[シャーロットが通り易いように身を引き、
ゆるゆると左右に首を振る]
[クインジーの言葉に右目を見開き、唇を開いた。]
ネリーが終焉の使者だと思ったから……殺した?
何故だ?
彼女に何か「手掛かり」があったのか?
終焉をもたらす者のニオイを、感じたのか……?
それでも、死者に触れた手で食事をするのは変わらないのではありませんこと?
早めに終わらせるに越した事は無いのでしょう。
[そうして、僅かだけ切った指先を見つめる]
[また薄くあかが滲んでいた]
ネリーは。獣ではなく、
[答えは当人の口から出たので告げる事なく]
彼岸と此岸を明確に分けるという意味で、
埋葬行為を行うという指摘ですね。
なるほど、大変高度なご指摘です。
[ギルバート本人にそのような意図があったかわからないが、
深読みをするようにほうほうと頷いている。]
その「齎す者」とやらが見つかるまでは、
連日の埋葬ですね…ひどい労力になりそうです。
[そう言いつつ、ネリーの亡骸の近くへ寄る。]
[とはいえ、流石に全てを落としきることはできません。
一番赤の広がった――恐らくは殺害現場なのでしょう、その場所だけは何とか薄くなったようです。
すっかり赤く染まった水が揺れています。]
……壊滅的だったわ。
[イザベラの料理の腕に関してはその一言に留めた]
そう…。
それじゃ、私は行くわね。
[無理に引っ張って行く理由も無いため、空けてくれた場所を通って出入口へと近付く。一度首を横に振るラッセルを見てから、廊下へと出て行った]
己には、生きている誰が終焉を齎す者かはわからないぞ
わかるのは――死したものが終焉を齎すか否かだけだ
[ギルバートへとつげる]
こんな自体、真夜中、一人で外に居たからな
力の無い女なら、部屋にこもりでもしているかと思ったんだが――
まあ、違ったがな
なにやってんだよ、オイ。
そんなふらふらして廊下をずぶ濡れにされちゃ迷惑だぜ。
[ネリーがバケツを用意して拭いていたからニーナも出来るかと思えば見ているだけで危なっかしく、文句を言いつつ結局は手を貸す。それもバケツを下ろすまでの話で拭く方には感知せず。顎に歯形の残る親指を当てて目に映る光景と別のことを考える]
[階段へと向かえば廊下に広がる黒ずんだ紅を拭き取るニーナと、手伝わず眺めて居るだけのような不精髭の男の姿があった]
[夜中よりは薄くなった紅。それでもあの時の光景はありありと思い出される。その光景を打ち消すように一度瞳を閉じ、一呼吸置いてから彼女らの横をすり抜けようとした]
なるほど、な。
殺した側から、うら若き娘の何かを探ったのかな?
あくまで想像の域は越えないが、なかなかグロテスクな光景だなぁ……。
殺した者を何とか探ったのならば、それなりに頭の中に入っていくが……
[ギルバートの琥珀色の目は、少しずつ色を失い、口許は緩く開く。]
もし貴方が、探る為に乙女を殺したのなら、貴方の行動は魔物の仕業と変わらない……
そうだろう?クインジー殿……
土を盛るお手伝いはいたします。
[ネリーの元に行く人の背を、歩み、追う]
[男手が必要だと言いたそうに青の男を見る事も忘れず]
[ここに来る前出て行った者達の姿と獣の爪と牙が裂くや振るわれたかどうか。明らかに害しやすい目の前の少女が生きている理由。獣はどこに――誰を隠れ蓑にしているのか。
思考の時間は思っていたより長かったらしい]
…あ゛? 終わったのか。
[汚れた水を運ぶのも面倒と手近な部屋の窓を開けて外へと赤い水に触れぬよう捨てる。埋葬の人々の様子の異様さを入る風の匂いで察し、低い声が出る]
なんかあったな。良くも悪くも手がかりになるか。
[空のバケツをニーナの傍に置き、階段を降り始める]
[立てた膝の上に、スケッチブックを乗せた。
未だ何も描かれていない頁を開き、皺の寄った紙を広げる。
ポケットから取り出した鉛筆の先を置き、線を重ねていく。
形作られていくのは、人の輪郭。
されど、誰かと判別出来るようになる前に、止まる手。
息を吸い、吐き出す。
再び動き始めた手は乱雑に、絵を黒く塗り潰した。
手までに色が移る程に重ね、ふと力を抜く。
鉛筆はからりと床を転がっていった。
眼差しすらそれを追うことなく、
左腕に手で添え、眼を閉じた]
……、変なの。
[*じくりと、熱*]
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